#37 タンクマン
セイレンが仲間に加わって、旅は一層、賑やかになった。
「ねえ、セイレン。歌ってよ」とクスコが頼む。
「ダメダメ。今はダメよ。セイレンの歌を聞くと、眠くなっちゃうから。夜に歌ってもらおう」とミリが制止する。
「なんだ。つまらないなあ~じゃあ、セイレン、駆けっこしようか?」
「いやよ。クスコは走るのが早いじゃない。私だと勝てない」
「ちぇっ!」
「ねえ、おウマさんごっこしよう?」
「おウマさんごっこ?」
「クスコが馬になるの。そして私を乗せて走るのよ」
「それ、面白いの?」
「おウマさんごっこなら遊んであげる」
「やってみようか」とクスコは言うと、「じゃあ、ウマになるよ」と言って、どろんと馬に変身した。
「わ~い」とセイレンがミリの手を借りてクスコの背に跨った。
「それっ! 走れ~」
セイレンが声を上げると、クスコが化けた馬が走り始めた。
「わあ~きゃあ~ははははは」
セイレンの嬌声が荒野に響き渡った。
「ダメよ~あんまり遠くにいっちゃあ」
ミリが声を張り上げるのを、ライムは横で見ていた。
「なに?」とミリが聞く。
「ミリ、お母さんみたい。お母さんがどんなものか、分からないけど、きっとミリみたいな感じなんだと思う」
「嫌だ。やめてよ」
「ミリがお母さんなら、僕はお父さんで良いのかな?」と言ってものだから、ミリが真っ赤になった。
荒野を駆け回っていたクスコとセイレンが戻って来る。
「変なやつに見つかっちゃった」とクスコが言う。
セイレンを下ろして、変身の術を解く。
「目立つことをするから、変なやつに目をつけられるのよ!」
ミリが怒ると、「うへっ!」とクスコが首をすくめた。
土煙を上げて、何かがやって来る。
目の前に現れた悪魔を見て、「うわあ~」とライムは声を上げた。クスコが変なやつというのが頷けた。見るからに変なのだ。
上半身は人間なのだが、下半身が戦車なのだ。ギリシア神話に上半身が人で下半身が馬のケンタウロスが登場するが、その下半身が戦車になっているような悪魔だ。戦車の砲塔の代わりに上半身がにょきっと生えているのだ。キャタピラで自由自在に動いて回ることが出来る。
「なんだか、凄いね~」とライムが感心する。
「驚いたか。我はタンクマン。美味そうなやつらだな。順番に一人ずつ喰らってやるから大人しく待っていろ」
「ねえねえ。どうやれば、そんな下半身になれるの?」
「あん? 大人しく待っていろと言ったはずだ。まあ、良い。私は悪魔の体を自由に作り変えることができる能力を持っているのだ。分かったか。ははは」
「へえ~自由に作り変えることができるの?」
「そう言っただろう」
「じゃあ、両腕を羽に変えて空を飛んだり、刀に変えて戦ったりできるんだ」
「当たり前だ」
「なんか・・・便利なようで・・・意外に使い道ないかも」
「なんだと!」
「行きましょう。ライム」とミリが言う。
「うん」とライムが歩き出そうとすると、「お前たち・・・私をバカにしやがって・・・ただですむと思うな」とタンクマンが怒りを爆発させた。
キャタピラで音を立てて、近づいて来た。
タンクマンが近づいて来るのを見て、ミリが言う。「セイレン。歌って」
「いいの?」
「思いっきり歌ってちょうだい。ライム、クスコを両手で耳を塞ぐのよ」
「こうかい」とライムが両手で耳を塞いだ。
「僕はこれで良いや」とクスコは器用に耳を折り畳んだ。
「じゃあ、歌うね」とセイレンが歌を歌い始めた。
美しい歌声が荒野に広がって行く。
目を怒らせ、ライムたちに突進して来たタンクマンがとろんとして目になる。そして、次の瞬間、ばたりと上半身が倒れた。
タンクマンが停車した。
戦車の上に上半身を突っ伏して、眠ってしまっていた。




