#36 闖入者
どれくらい時間が経ったのだろう。
入れ替わり立ち代わり悪魔たちがやって来たが、城の寒さに音を上げて出て行ってしまう。誰もここをねぐらにしようとは思わないようだった。
セイレンは竈の下で丸くなったまま息を潜めていた。悪魔たちに見つかれば喰らわれてしまう。
それでも外が騒がしい。氷の城は珍しい。また悪魔たちがやって来たようだ。
寒い。冷たい。だけど、出てはダメだ。見つかってしまう。
セイレンは必死に耐えた。
竈の下で、耐えに耐えていたが、冷気が鼻を突き、「クシャン!」と小さなクシャミをしてしまった。
「おいっ、なにかいるぞ!」
悪魔たちが騒ぎ始めた。キッチンの中を探し回り始めた。セイレンは竈の下で体を丸めた。だが、ついに一人の悪魔がセイレンを見つけた。
「いたぞ。子供の悪魔だ。美味そうだ」
セイレンは竈の下から引きずり出された。
ごろりと床に転がされる。
見つかってしまった。もうダメだ。
「待て、俺だ」
「俺がみつけたのだ」
「俺に喰らわせろ!」
セイレンを見つけた悪魔たちが仲間割れを始めた。誰がセイレンを喰らうかで争っているのだ。逃げ出すなら、今だ。仲間割れが終わると、喰らわれてしまう。セイレンは起き上がると、走り出した。
「あっ! こいつ」
悪魔たちが慌てて追いかけて来た。だが、氷の床は滑って走り難い。足の遅いセイレンだったが、体重が軽い分、走り易かった。
玄関ホールに逃げ出すと、そこには、もっとたくさんの悪魔がいた。
「あっ!」
セイレンが立ち止まる。
「おいっ! ガキだ」
「悪魔のガキだ」
「美味そうだ」
玄関ホールの悪魔たちまでがセイレンを迫って来る。床が滑って上手く走ることができないが、それでも徐々にセイレンは追いつめられて行った。
セイレンが悪魔たちに囲まれる。
――ああ~もうダメ。
と思った瞬間、「その子に手を出してダメ!」という甲高い声がホールに響き渡った。
「誰⁉ ボニー?」
セイレンが声の主を振り返る。そこには男と女の悪魔に狐の悪魔がいた。
ミリだった。ライムたち一行が氷の城にやって来たのだ。
「ふざけるな。俺たちが先に見つけたんだ」
悪魔が怒鳴る。
「その子に手を出したら、痛い目に遭わせてやるから」
「出来るものならやってみろ!」
ミリに代わってライムが叫ぶ。「ミリがダメと言ったら、ダメなんだ」
ライムがライトニングソードを一閃する。
ホールに雷が落ちた。セイレンを取り囲んでいた悪魔たちが雷に打たれて、ばたばたと倒れた。
その時、セイレンを追って来た悪魔たちがホールに姿を現した。
「いたぞ!」
「まだいるの~」とライムが再び、ライトニングソードを振るう。ホールに飛び込んで来た悪魔たちが雷に打たれて、伸びたまま床を滑って行った。
ミリは手で頭を覆って、その場に小さくなっていた。
「もう大丈夫よ」とミリが手招きをする。
だが、セイレンは警戒して近づかない。
「大丈夫だよ。君を喰らったりしないから」とライム。
「あなたは誰?」
「僕はライム。彼女はミリ、そして、彼はクスコ」
クスコが「やあ~」と手を上げる。
「まあ、狐の悪魔。可愛い」とセイレンが喜ぶ。
「そんなに可愛いかい?」
「うん」
「えへへ」とクスコが喜ぶ。
セイレンがライムに言った。「ライムね。あなたのこと、知っている」
「そう。何処かで会った?」
「レンドからあなたのことを聞いた。ヴァンサンからも――」
「へえ~レンドやヴァンサンの仲間なのかい」
「ねえ、レンドを探して。ヴァンサンを探して」
「いなくなっちゃったのかい?」
「長い髪に髭を生やした男と一緒に、何処かにいっちゃった。このお城をつくったアリスも一緒にいっちゃったの」
「長い髪に髭を生やした男? それはきっとラスプーチンのことだね。うん。いいよ。探してあげる。僕らと一緒に来なよ」
セイレンは返事の代わりに、走って行ってミリの胸に飛び込んだ。
「まあ~」とミリが嬉しそうな顔をする。
それを見て、ライムは満面の笑顔になった。




