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落ちこぼれの悪魔~ライム・ザ・デビル  作者: 西季幽司
アサシン・ラスプーチンの章
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36/39

#35 真っ二つ

「うぬっ!足が動かぬ!」

 ラスプーチンの下半身が凍りつき、床に張り付いてしまった。

「そこの女。今、直ぐ氷を溶かせ」と命じるが、アリスは「凍らせることは出来ても溶かすことはできません」と冷たく答えた。

「うぬっ! この役立たずめが」と今度はヴァンサンに命じる。「そこの獣。お前だ。お前が何とかしろ」

 ヴァンサンはラスプーチンに近づくと、上半身を抱えて、ぐいぐいと床から体を引きはがそうとした。

「待て、待て。痛い! 無理矢理、引きはがそうとするな。優しく扱え」

 ラスプーチンの下半身は床に張り付いていて、なかなか剝がせない。

「うぐぐぐぐっ!」ヴァンサンが力を込める。

「待て、止めろ。いたたたた! そんなに力を入れると――」とラスプーチンが悲鳴を上げた時、めりめりと音がしてラスプーチンの体が真っ二つになった。上半身が下半身から引きちぎられた。ヘソの辺りで二つになったのだ。

「優しく扱えと言っただろう。この馬鹿者が! 早く元に戻せ!」

 悪魔は二つに引き裂かれても死にはしない。上半身だけになったラスプーチンはヴァンサンの腕に抱えられながら怒鳴った。

 ヴァンサンはラスプーチンの上半身を下半身にくっつけようとした。ところが慌てたヴァンサンは床に凍りついたラスプーチンの下半身を蹴ってしまった。

 ガラガラと音がしてラスプーチンの下半身が崩れ落ちた。

「ば、馬鹿者! 私の下半身が砕けてしまったではないか」

 ヴァンサンはラスプーチンの上半身を床に投げ出すと、氷の塊になって砕け落ちたラスプーチンの下半身を拾い集めようとした。

「痛っ! 床に捨てるとは何事だ。乱暴に扱うな。あっ、ああ、お前、私の下半身を踏みつぶしているではないかっ!」

 ヴァンサンは氷のかけらになったラスプーチンの下半身を拾い集めようとするのだが、巨体を持て余して、かけらを踏みつぶしていた。

「止せ! やめろ。私の上半身を拾え」

 ラスプーチンが命じる。慌てたヴァンサンは、床に転がっていたラスプーチンの上半身を拾おうとして、間違って蹴飛ばしてしまった。

「あわわわわ~!」

 ラスプーチンの上半身が氷の床を滑って行く。よく滑る。「私を助けるのだ~」というラスプーチン叫びが小さくなって行った。

 ラスプーチンの後を追って、レンド、ヴァンサン、アリスが歩き出そうとした。

「レンド、ヴァンサン。行かないで」

 セイレンがヴァンサンの手に縋りついたが、ヴァンサンはセイレンを引きずったまま、歩き出した。

「ダメ! 行っちゃあダメ」

 ヴァンサンにはセイレンの声が聞こえていないようだった。ずんずん歩き続ける。セイレンは必死に腕にしがみついた。だが、ヴァンサンが腕を振るものだから、力尽きて、セイレンは床に転がった。

 セイレンを残したまま、ヴァンサンは歩いて行ってしまった。

「ヴァンサン・・・」

 レンド、アリスの姿も見えなくなった。セイレンは氷の城に取り残されてしまった。一人、床に転がっていたが、弾かれたように立ち上がった。

 辺りを見回すとセイレンは走り出した。床が滑って転んでしまったが、直ぐに立ち上がるとまた走りだした。

 隠れる場所を探しているのだ。

 セイレンのように弱い悪魔は、弱肉強食の魔界では庇護者がいないと直ぐに喰らわれてしまう。レンドとヴァンサンはいなくなった今、隠れて、逃げて、誰にも見つからないことが、魔界で生きて行く為の術だった。

 玄関ホールから長い階段を二階に上ると、いくつか部屋があった。中に隠れることが出来るような場所があったが、手を伸ばせばドアノブにかろうじて手が届いたが、ドアが重くて開けることが出来なかった。

 二階の窓から外が見えた。

 荒野に現れた氷の城は目立つ。ぽつぽつと悪魔が吸い寄せられるように歩いて来るのが見えた。

 セイレンは焦った。彼らに見つかると、喰らわれてしまう。時間がない。隠れ場所を求めて、城中を走り回った。

 やがて、キッチンの竈の下に、潜り込めそうな場所を見つけた。体の小さなセイレンがやっと隠れることができる狭さだった。

 セイレンは体をまるめると、竈の下に潜り込んだ。

「ウガッ!」と玄関ホールから声がした。

 悪魔がやって来た。間一髪だった。彼らに見つかってはならない。

 氷の竈だ。冷たい。

 セイレンは震えながら、膝を抱えて、竈の下に隠れ続けた。

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