#30 新たな力
ラスプーチンは魔界に転生した。
「ここでユスーポフたちがやって来るのを待つとしよう」
ラスプーチンは岩の上の腰を据えると動かなくなった。
ラスプーチンの死後、彼の予言通り、ロシア帝国は崩壊した。長引く戦争に嫌気をさした兵士と民衆は革命を起こし、ニコライ二世を退位に追い込んだ。ロシア革命だ。その後、ニコライ二世は離宮に幽閉され、その後、反動勢力により利用されることを恐れた革命政府により、一家共々、銃殺されている。
だが、ラスプーチンを殺害した三人は魔界にやって来なかった。
ラスプーチンを殺害された皇后は激怒した。ドミトリー・パヴロヴィチも、ユスーポフも、ラスプーチン殺害の責任を取らされ、帝国を追放された。ドミトリーは死んで来いとばかりにペルシャ戦線へと送られ、ユスーポフは自領での蟄居を余儀なくされた。
これが幸いした。
ドミトリー・パヴロヴィチとユスーポフは、革命に巻き込まれることなく、異国の地で安らかな死を迎えている。プリシケヴィチは革命家として生涯を全うした。
ラスプーチンを殺害したことを覗けば、魔界に落とされるような悪行と縁が無かった。
ラスプーチンは待ち続けた。待って、待って待ち続けた。あまりに動かなかったので、岩の上で石のようになってしまった。
だが、彼らは現れなかった。
「うぬぬぬぬっ~何故、やつらは来ぬのだ!」
しびれを切らしたラスプーチンが吠えた。
その時、魔界の空から一人の悪魔が降りて来た。
――つまらぬ恨みなど忘れて、我に仕えよ。
「誰だ?」
「我が名はカイアム。お前に力を授けた悪魔だ。お前は私に魂を売った。我が配下となって、共に働くのだ」
カイアムだった。
「つまらぬ恨みとは何だ! 私にとっては、決して忘れることが出来ぬ恨みなのだ」
「お前が石になっている間に、お前の恨む相手は死んだぞ。ここにはやって来ない」
「やって来ない~⁉」
ラスプーチンの顔に絶望の表情が浮かぶ。
「恨みを晴らすことなど忘れて我に仕えよ」
「仕える?」
「そうだ。ロシア皇帝に使えたお前だ。今度は私に仕えるが良い。そうすれば、悪魔どもに食らわれる心配など無用になる。欲望のままに力を手に入れることができるぞ」
「力を手にする・・・権力を握るのか⁉」
「権力を握ることができるかどうかは、お前の実力次第だ」
「だが、私は何の力も持っておらぬ」
「お前に力を授けてやろう。魔物どもを従えることが出来る力を」
「本当か⁉ ならば、お主に仕えよう」
「それで良い」と言ってカイアムはラスプーチンを手招きした。
「うぬぬっ!」
ラスプーチンは岩の上から動こうとするが、あまりに長い間、動いていなかったので、体が固まってしまったかのように動かなかった。
「手間のかかるやつよ」
カイアムは滑るようにラスプーチンに近寄って来ると、額に手を当て、「さあ、受け取るが良い」と言った。
カイアムの目が赤く輝く。ラスプーチンは「うぐっ!」と小さく悲鳴を上げると、気を失い、岩の上から転がり落ちた。
「目を覚ませ。寝ている暇はないぞ」
「うむむ・・・」ラスプーチンが起き上がる。
「お前に使命を与える。先ずは、お前の力を見せてみろ」
「使命? 何をすれば良いのだ」
「ある男を喰らってもらいたい」
「そんなことか」
「油断をするな。その男は最強の悪魔になろうとしている」
「そいつを喰らえば、私はどうなる?」
「無論、お前が最強の悪魔だ。それを証明することになる」
「私が最強の悪魔・・・分かった。それで、私にどんな力をくれたのだ?」
「お前には――」とカイアムがラスプーチンに授けた力を教える。
カイアムの言葉に、ラスプーチンは「面白そうだ。その力があれば、私は悪魔どもの頂点に立てるだろう」と言って立ち上がった。




