5 最強のホムンクルス
僅かな沈黙の後、数体のホムンクルス達が姿を見せた。
そして、そのしんがりに一際異様なオーラを放つホムンクルスが。それは、その他の個体とは明らかに違っていた。
一回り大きな体に死神を思わせる大鎌を構え、生気の無い目で鋭くタルスを見据える。
―― こいつは圧倒的に強い。
それがタルスの『理解』である。
「あれは、『システム・コア』すべてのホムンクルス達を統制する、最強のホムンクルスだ……」
強者の登場に、焦りの表情を見せるネイジス。
「ガルル……」
ガガウは、威嚇しながらも僅かに後ずさりする。
「ガガウ、お座り!」
ガガウを制止し、タルスは一歩前に出る。
「こいつは俺がやる」
タルスは剣を下段に構え、ぐっと腰を落とす。
大きく息を吐くと同時に、力強く地面を蹴り驚くべき速さで一気に距離を詰める。
その勢いのままに、二体のホムンクルスを剣の一閃にて一刀両断とした。
一つ、二つ、三つ……タルスの勢いは止まらない。
ただの安物に過ぎないその剣は、そこに注がれたタルスの魔力によりまるで名刀のような切れ味で、ホムンクルス達を次々と屠ってく。
瞬く間に十二体ものホムンクルスを切り捨てると、最後に「本命」へと切り掛かる。
ガキィィン!!
耳をつんざくような衝撃音。タルスの渾身の一撃は、敵の大鎌によって防がれた。
「ハァッ!」
間髪入れず繰り出されたタルスの攻撃。それを再び受け止めると、大鎌がタルスへ向け一直線に振り下ろされ、タルスの剣がそれを華麗に打ち返す。
両者の激しい攻防が続き、剣と大鎌のぶつかり合う音が、けたたましく、リズミカルに鳴り響く。
「ワゥゥン! ワン! ワン! ワン……」
タルスを鼓舞するかのように、ガガウは興奮状態で吠え続ける。
「うりゃッ!!」
タルスが更なる魔力を込め繰り出した必殺の剣技は、鋭く振り抜かれた大鎌と衝突し、爆発的な衝撃波が走る。
バキィッ!!
その猛烈な負荷に耐えられず、タルスの剣は真っ二つに折れてしまった。
「ああっ!!」
タルスは、慌てて後方へ飛び退いた。
「あー……」
変わり果てた姿になってしまった剣を見つめ、タルスはしばし思案に暮れる。
「……あ! おっさん槍、槍! その槍、貸して!!」
「え、こ、これかい!?」
「そうだよ、早く!!」
敵は待ってはくれない。タルスはネイジスの手から奪い取るように『魔槍ツキカゲ』を受け取ると、急いでそれを構え、魔力を込める。
すると槍から黒い靄が溢れ出しタルスの全身を覆っていった。
「タ、タルス君!」
タルス自身は気付いていないが、その異様な姿にネイジスは驚く。
「よっしゃ! やってやるぞ!!」
タルスが攻撃の意思を向けた瞬間、槍の先から影のように黒く、鋭く尖った魔力の刃達が飛び出した。
その黒い刃達は、糸を引くように槍から伸びていき、一斉に敵へと迫っていく。
「「――――!!」」
「ワンッ!!」
それは、一瞬の出来事だった。
魔槍から放たれた何本もの黒い魔力の刃が、『コア』と呼ばれたホムンクルスへと突き刺さり、その仮初の生命体は立ったまま絶命したのだ。
「え……?」
タルスは槍を見つめ絶句する。
◇◇◇ ◇◇◇
「父上、申し訳ありません。やはり、今のオレでは奴らの相手は無理です」
ジランはランチャスの前へ立ち、頭を下げ言った。
「ふんッ! 貴様はまた儂を失望させ――!」
ランチャスは、不意に言葉を止めた。
「どうしました?」
ジランが尋ねる。
「どうやら、屋敷の地下に配備されたホムンクルスが、たった今何者かに屠られたようだ……」
フルウースの屋敷に、地下警備システムとして配備されたホムンクルスたち。
屋敷の主であるランチャスは、その中核と魔力のリンクが確立されており、ある程度の動向を把握することが出来るのだ。
「あの『システム・コア』が倒されたのですか!?」
ジランは思わず驚嘆の声を上げる。
システム・コアと呼ばれる、最強のホムンクルス。それが何者かに倒されたという事実。
それは、魔王軍に敵対する強者が、ランチャスの屋敷内に存在しているという事に他ならない。
「……オレが屋敷を見てきますよ。ここにいても、どうせ大した役にも立てない」
ジランの進言に、ランチャスは思案を巡らす。
「うむ。シデインが一向に姿見せぬことも、気にはなる。それに……」
いつまでも戦場に現れない魔王軍大幹部シデイン。
シデインは、ランチャスと同様に「勇者の実力を直接測りたい」との魔王の意向を受け、屋敷で待機しているはずなのだ。
そして、それ以外にもランチャスには、気になることがあった……。
「……貴様に任せた。シデインにも、速やかに戦場へ赴くように伝えろ」
シデインが戦線に加われば、戦局が一気に魔王軍へ傾くことは間違いないだろう。
「侵入者についても、何か分かれば必ず報告しろ」
「分かりました。では、行って参ります」
ジランは屋敷へ向け猛烈な速さで駆け出した。
「「ああ、行ってしまったぁ……」」
遠ざかるジランの背中を見送るサイラードとラールの声が揃った。
若干ニュアンスこそ違うが、二人がジランを頼りにしていた事に変わりはない。
「なぁ、さっき、坊ちゃん笑ってたよな?」
ラールが言った。
「……ああ、凄く楽しそうだったな」
サイラードは、魔王達に背を向け走り出す瞬間、ジランの顔が綻ぶのを確かに見た。
「なんか、ちょっと悪そうな顔でもあったな」
あの悪戯を企む子供のような顔は何だったのか、気になる所ではある。が……、
「ハァ……」
思わず、ため息を漏らすサイラード。
勇者達の悪辣な攻撃から守ってくれたジランがいなくなってしまった。文字通りの死活問題である。
◆◆◆ ◆◆◆
「ワォン、ワン、ワン!」
ガガウは小躍りするように、タルスの周りを駆け回る。
「こ、これが魔槍の、神器の力……」
目の当たりにしたツキカゲの本領に、ネイジスは言い得ぬ感動を覚えていた。
「……よし、とにかく食料だ、食料!!」
気を取り直し、本来の目的を言葉にするタルス。
今のタルスにとって、愛する姉弟たちの腹を満たすことより重要なことなど何も無い。
「そ、そうだね、ちょっと急ごうか」
ネイジスは、眼前に転がるホムンクルス達の屍を見つめて言った。
この状況は完全に想定外である。警備兵にでも見つかれば、またひと騒動あるに違いない。
「でも、大量の食料を持ち出すことを考えれば、警備システムを無効化できたことは良かったのかもしれないな」
怪我の功名である。
「オン!」
ガガウは得意気に鳴いた。
「なあ、食料庫ってどれ?」
タルスの前には、いくつかの扉が並んでいる。
「食料庫は、そこの角を曲がってすぐの扉だよ」
ネイジスを先頭に、つい先ほどホムンクルス達が現れた角を曲がる。
そこに「開放厳禁」と書かれた、観音開きの扉があった。
「じゃあ、開けるね」
扉に手をかけ、ネイジスはゆっくりと開ける。
「うぉぉおお!!」
タルスは目の前に広がる光景に、感嘆の声を上げる。そこに見渡す限りの食料の山があったからだ。
庫内に並ぶ無数の棚には、それぞれに様々な食材が並んでいる。
「なんだよこれ、どうやってこんなに食うんだよ……」
あまりにも多すぎる。タルスは率直な疑問を口にした。
「あそこに、灯篭があるだろう。ここの食材はあれで管理せれているのさ」
ネイジスが指さしたのは、食料庫の中心辺りに置かれた高さ一メートルほどの魔法装置。
そこから放出される魔力の波動が、食料庫全体に広がっている。
「あー、なるほど」
庫内の食料は腐ることも傷むことも無い。タルスは魔法装置の性能を『理解』し、納得した。
「つい先日補充されたばかりでね、今は半年分の食料が置いてあるんだ」
「で、どうやって持ち出すの?」
「これを使うよ」
そう言ってネイジスが引きはがしたカバーの下には、小型のゴーレムが数体置かれていた。
「食材搬入用ゴーレムだ」
「こんなの、どこから出るんだよ?」
「食料庫の奥に、専用の搬入口があるのさ。特別な手続きが必要で今回は、入る時には使えなかったんだけどね、出る分には問題ない」
説明を終えると、ネイジスは目の前にあった赤い果実を、コンテナに入れる。
「それじゃあ、まずは食材をこのコンテナに集めていこうか」
二人は手分けをして、宝の山からめぼしい食材を選別していく。




