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6 食料庫と聖女の癒し

 タルスは庫内を一通り探索し、目当ての食材を探す。


「おっウサギイモ! こっちにはニジイロタケ! ヤツメウシの肉は……あった!!」


 果たして魔族の食材が人間と同じなのか。それが不安だったタルスは、食糧の山の中から姉弟たちの好物を見つけ安堵した


 当初の懸念が払拭され満足気なタルスの目に、食材を真剣に吟味するネイジスの姿が映る。


「おっさん、それどうすんの? 一人で食うの?」

「これかい? リリノさんの店で調理してもらおうと思ってね」


 リリノはフルウースで定食屋を営む未亡人だ。


「おっさんは、リリノのおばちゃんの料理がホントに好きだな」

「ああ、文字通り私の人生を変えたほどにね」


 そっと目を閉じ、何かをかみしめるネイジス。

 

「私はね、リリノさんに私の作る店を任せたいと思っているんだよ。本当は魔界に人間界料理の専門店を作りたいんだけどね……」

「えっ! おばちゃんを魔界に連れて行くの!?」

「今の情勢では、もちろん無理さ。だから、とりあえず人間界こちらに店を構えようと思っているんだ。でも、いずれは……」


 実は、ネイジスは一人息子に命じ、魔界に残した財産を持ち出す手配を進めているのだ。

 人間社会で換金率の高いモノを中心に厳選し、持ち出す手はずになっている。


 すでに妻を亡くしているネイジスに、後顧の憂いは無い。


「おっさんは、おばちゃんのことが好きなの? 結婚したいの?」

「ハハ、まさか。リリノさんとは奴隷契約を考えているよ」

「は、奴隷!? 何言ってんだよ、そんなのダメに決まってんだろ!」

「え、何故だい? ちゃんと奴隷契約しておいた方が、もしリリノさんを魔界へ連れていく時が来ても、安心じゃないか?」


 魔界貴族のネイジスにとっては、「奴隷」も「従業員」程度の重みしかないのだ。

 価値観の違いは否めない。タルスはそう理解した。


「……おっさんに悪気が無いのは分かったよ。でも、おばちゃんには奴隷とか言わない方がいいぜ、一生口をきいてくれなくなる」

「え、そうなのかい!? ゔーん……では、どうすれば……」


 人間界の常識に躓くネイジス。


「うちの姉ちゃんに、間に入ってもらおうか? 姉ちゃんは、おばちゃんと仲がいいんだ」 

「おお! そうしてもらえると助かるよ!」

「姉ちゃんに任せれば、悪いようにはならないぜ!」


 タルスの、姉への信頼は絶大である。



  ◇◇◇ ◇◇◇



 魔王軍と勇者一行の一進一退の攻防は、無慈悲に街を破壊しながら激しさを増してゆく。


「暴炎魔弾!!」


 ランチャスが放つ大火炎魔法が、勇者を襲う。


「剣輝一閃!!」


 戦士が、それを一刀両断にする。

 両断され左右へ飛び散った大火炎は、それぞれが住宅街を焼野原へと変えた。


「みんな無事だな!?」

「ああ、問題ない」

「大丈夫です」


 勇者一行はお互いの無事を確認しあう。それ以外の被害は彼らの目には入らない。


「魔王ッ!!」


 勇者は魔王との間合いを一気に詰めていく。


「もらったァッ!!」 


 勇者は光の波動を込めた剣技で、魔王へと切り掛かる。

 

「やったか!?」


 聖剣の切っ先が魔王の胸元を捉えた。その手応えに勇者の口元が緩む。


 しかし、魔王は怯まなかった。即座にその掌を勇者の顔前へ向け、カウンターを打ち出す。


「――!? ぐわぁッ!!」


 魔王の放った魔力弾が勇者を後方へと吹き飛ばした。


「はぁぁぁぁッ!!」


 体勢を立て直し、勇者が聖剣に光の波動を込める。 


「超英雄覇道剣!!」


 勇者は自らがそう名付けた必殺の剣技を繰り出し、斬撃を飛ばす。 


「ふんッ!!」


 そこへ魔王が大魔力の闇の波動を打ち返す。


 そして魔王が放った高密度の魔力の塊は、勇者の波動とぶつかり合い大爆発を引き起こした。 

 その大爆発は轟音と地響きをまき散らし、光と闇の魔力が混ざり合った衝撃波が広域に広がって行く――



  ◆◆◆ ◆◆◆



 不幸な事故を未然に防いだタルスは、大量の食材を前にし、あらためて考える。


「う~ん………」


 姉弟達の為にも、ネイジスの野望の為にも、持ち帰る食料は大いに越したことはない。

 今、大きな肉の塊を嬉々として貪り食っている、ガガウの餌も必要だ。


 街が破壊され、更なる食糧不足の悪化が確実な中、今後のことを思えば、なるべく沢山の、出来れば全ての食糧を持ち帰りたい。しかし、ゴーレムをフル稼働しても運べる量には限界がある。


「うーん、どうしようか……」


 タルスがそう呟くと、魔力が槍に吸い取られていった。

 すると槍から飛び出した黒い靄が、何体もの人型へと形を変え、一斉に動き出したのだ。


 そして黒い人型たちは、食料庫の中を飛び回り庫内中の食材を収集し始める。


「わお!! なんか知らんけど、いい感じじゃん!!」


 この唐突な事態を、タルスは冷静に受け止め歓喜した。これは自身の魔力による現象であり、今の状況は悪くないと『理解』できたからだ。


「ここ、コレは一体……」 


 理解が追い付かないのは、ネイジスである。


「ワワワン、ワオーン!」


 ガガウは実に楽しそうだ。


「こいつらが、食料を全部、持って行ってくれるみたいだぜ!」


 狼狽するネイジスへ、ざっくりと状況を説明する。


「そ、そうなのかい……、で、でも、そんなに沢山あっても、持て余してしまうよ」

「あ、そっか。そうだよな……」


 タルスが考えると同時に、人型達が食材管理の魔法装置を、床から引き抜いた。


「「おお!」」


 二人の声が揃う。


「こいつら、気が利くなぁ……。あ、おっさんお店で雇わないか? 一人分の給料でいいぜ」 

「え!? そ、そうだね……、考えておく――!?」


 その時、再びけたたましい爆発音が鳴り響いた。


「――――!!」


 地下空間にいても聞こえる程の爆発音が、その爆発の規模を物語る。



  ◇◇◇ ◇◇◇



 大爆発は市街地一体を吹き飛ばし、フルウースの街にこれまでで最大の被害を巻き起こした……。


 お互いが繰り出す大技の応酬。

 その結果、勇者と魔王両陣営ともに疲弊は免れなかった。


 そこへ、それまで戦線から離れていた聖女ヒルアが遅れて駆けつける


「今の大爆発は何ですか!?」


 聖女は叱責するような口調で説明を求めた。


「ヒルア!? お前、今まで何処にいたんだ!!」


 苛立ちをぶつけるように、戦士が怒鳴りつける。


「戦いに巻き込まれてしまった民たちに、癒しを与えていました」

「はっ!? あなたは僕たちを放っておいて、そんな馬鹿な事をしていたと言うのですか!!」

「ですが、子供たちが……」


 魔導士の罵倒に聖女が応えようとした刹那、そこへ勇者が割って入る。


「聖女ヒルア、君の使命は俺たちを、俺を、勇者を癒し、魔王の打倒を共に完遂すること。君はその為に存在し、君が神から与えられた力はその為にこそ使われるべきものだ」


 勇者は憐れむように聖女を一瞥すると、諭すように言った。


「聖女の力は弱き者の為にあるのです。たとえ魔王を倒しても、この町に暮らす人々を守れなければ意味がない……、あなたも同じ想いではないのですか!?」


 勇者をまっすぐに見つめ、聖女は思いをぶつけた。


「俺は、聖剣に選ばれた勇者なんだ。君は勇者が魔王に敗れても構わないと言うのかい? 俺以外に、あの化け物に対抗できる者がいるとでも?」


 不遜な態度で勇者は聖女に詰め寄る。


 勇者の考えは受け入ることは出来ない。だが聖女にそれを覆す力が無いのも事実だ。


「……分かりました」 


 心の内のわだかまりを押し殺し、聖女は神に祈りを捧げる。

 聖女の祈りは癒しの光となって、勇者達へと降り注いだ。――しかし。

 

「アレ?」

「おいっ! ほとんど回復して無いじゃないか!!」

「ヒルア、コレはどういうことだ?」


 つい先程まで問題無かったはずの治癒の祈りが、突然その能力を減退させてしまった。

 聖女は慌てて癒しをかけ直す。しかし結果は変わらなかった。


「…………」


 勇者に対する聖女の不信が、神の奇跡を濁らせてしまった。

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