4 地下警備システム
「汚名返上して見せろ」
ランチャスは我が子へ冷たい視線を向け、強圧的な声で言った。
「……分かりました」
ジランは勇者を一瞥すると、許可を求めるように視線を魔王へと向ける。
「好きにしろ」
関心のない様子で答える魔王。
勇者を鋭く見据え、ジランは全身の魔力を燃やす。そして、両の拳へそれを集中させると、勇者へ向かって疾風のごとく駆け出す。
しかし、猛然と突き進むジランの前に戦士スレイが立ちはだかった。
「ハッ、何だお前!? お前ごときが勇者とやろうってのか!!」
戦士はジランを見下すように言った。
勇者はジランには目もくれず、ただ魔王を見据えている。
「グレイトスラッシュ!!」
戦士の大剣がジランへと振り下ろされた。
超絶闘気を込めたその一撃を紙一重で躱すと、ジランは燃え盛る右拳を戦士の左わき腹に打ち付ける。
「はッ! うりゃッ!」
「うおッ!?」
ジランの鋭い一撃に驚く戦士、しかし大きなダメージを受けた様子はない。
バックステップで一度距離をとるジラン。魔力の炎を更に強化し、再び踏み込む。
その勢いのままに、炎の拳による連続打撃が凄まじい速さで繰り出された。
「そりゃッ! はッ! だりゃりゃりゃりゃッ……!!」
スピードに勝るジランの拳は、ことごとく戦士を捉えていく。
「ジラン坊ちゃん、やれーッ! やっちまえッ!!」
大興奮のラール。
「おい、あんたも声出せよ!」
ラールはサイラードへ水を向ける。
「お、おお。ジラン様ー、がんばれー……」
声を抑え、エールを送るサイラード。
ジランを応援したい気持ちはある、しかし目立ちたくない思いが勝ったのだ。
「うおぉぉおおおお!! 坊ちゃぁぁぁあああーん!!」
◆◆◆ ◆◆◆
魔犬ガガウを部屋から出し、扉を閉める。
「タルス君。君はガガウに、私には見えない何かが見えているんだね?」
歩き出したところで、ネイジスがそう切り出した。
「うん、多分。マジでヤバイんだよこいつ」
ガガウの頭を撫でながら答えるタルス。
「では、君の目には勇者一行はどう見えたんだい?」
「え、勇者? うーん、そうだなぁ……」
勇者一行がこの町にやって来た時、彼らを取り囲む野次馬の中にタルスもいた。
「めっちゃくちゃに強いよ、それは間違いない。だって一目見てビビったもん。それと、持ってる剣が凄かったな。でもさ……」
「でも?」
「なんかもうさ、偉そうでさ。すげぇイヤな連中だったぜ!」
タルスから見た勇者一行は、まさに「最強」しかしその人間性に関しては、とても「善良」と呼べるものでは無い。それが、タルスの『理解』である。
「そうか、君にはそう見えたのか」
「あ、でも一人だけ女の子がいたな。あの子はいい人だと思う」
「女の子? それは聖女かい?」
「聖女? よく分かんないけど、確かにあの女の子はヤバかった!」
「また『ヤバイ』かい?」
「そう『ヤバイ』強いじゃなくてヤバイ。少し変なヤツぽかったけど、あの子だけちょっと違ったかな……。うちの姉ちゃんと同じくらい美人だし」
エラく傲慢で凄まじく強い男達と、その後ろについて歩くお人好しでヤバイ美少女。
なんとも胡散臭い一団。それがタルスが目の当たりにした、勇者とその仲間への『理解』だ。
「うむ、機を見て勇者に接触してみようかとも思ったが、やめておいた方がよさそうかな……」
「絶対やめたほうがいいよ! それに、魔王に負けたら生きて無いかもしれないしな」
勇者について話をしていると、間もなくして地下へ続く階段にたどり着いた。
「さて、ここから地下へ降りるわけだが、実は地下には特別な警備システムが構築されているんだ」
「どうすればいいの?」
「何もしないでくれ、私が同行しているので、問題無いはずだ。君は余計な刺激をしないようにしてくれればいい」
「OK、わかった」
◇◇◇ ◇◇◇
灼熱の連撃が二百を超えた頃、戦士は我慢の限界を超えた。
「えぇい! いい加減にしやがれッ!!」
戦士の苛立ちを込めた前蹴りが、ジランの腹に突き刺さる。
「ぐわぁッ!!」
ジランは跳ね上がるように後方へ吹き飛ばされ、そのまま膝から崩れ落ちる。
ただ跳ねのけようとしたにすぎないそのたった一撃が、ジランに存外なダメージを与えた。
一方、戦士の傷は浅い。人類最高峰の闘気がその身を守り切ったのだ。
今の自分では、到底歯が立たないことを思い知ったジラン。
「ハァ、ハァ、痛ぇ。やっぱり、こいつらも化け物だ……」
苦悶の表情で立ち上がると、ジランは戦士スレイへ問いかける。
「お前達には、民を守る使命があるんじゃないのか?」
勇者一行が躊躇なく破壊した街並みを見渡し、ジランは率直な疑問をぶつけた。
「はぁ? 何言ってんだ。俺たちの使命はお前ら魔族を滅ぼして、魔王をぶっ殺すことだよ!」
戦士はジランの後方に控える魔王を見て、ニヤリと笑った。
「勇者も同じ考えか?」
「当たり前だろう、むしろ俺が勇者に倣ってるんだ!」
「……そうか、分かった」
それだけ聞くと、ジランは踵を返した。
勇者の仲間に容易く敗北し、自らの弱さを痛感したジラン。
そしてジランは魔王と自らの父であるランチャスへ、密かに思惑をめぐらすのだ……。
◆◆◆ ◆◆◆
階段を降り、地下へ足を踏み入れると、そこは魔力による作用で天井全体が発光するとても明るい空間になっていた。
「なんか、変なのがいっぱいいるな……」
タルスの目に入ったのは、等間隔に並んだ生命力を感じない人形のような者たち。
それは、一見人間に見えるが人間では無い。人工的な生命体のような何か。タルスはそう『理解』した。
「これが地下警備システム、ホムンクルス達さ。地下には食料庫だけではなく、宝物庫なんかもあるからね、警備はそれなりに厳重になっているんだよ」
「へぇ~、ホムンクルスか」
「こちらから何もしなければ、襲ってくることはな――」
「ヴゥゥゥ……。ガルルル……」
ガガウはホムンクルス達へ向け、威嚇するように唸り声をあげる。
「あっ! こ、こらガガウ止めなさい!」
「ワン! ワン! ワン! ワン! ワワンッッ!!」
「お、おい!」
ネイジスの静止も虚しく、ガガウはホムンクルス達に猛然と吠えまくる。
その「敵意」に反応したホムンクルス達が一斉にガガウへ向け、戦闘態勢をとった。
「ありゃりゃ」
タルスは「やっちまったな」と言うように、ガガウの頭をポンポンと叩く。
「しょうがない、やるか……」
覚悟を決め、タルスが剣を構えたその刹那、凄まじい速さでガガウがホムンクルスへと襲い掛かった。
最初の一体の首に噛みつき機能停止させると、次々とホムンクルスたちを倒していく。
「おお! すっげぇ!」
「ガ、ガガウ……」
ガガウは縦横無尽に駆け回り、視界の範囲にいた全てのホムンクルスを、あっという間に片付けてしまった。
「ワオォォーン!!」
勝ち名乗りを上げるように、ガガウは誇らしげに吠える。
「おーい、戻ってこい!」
「ワンッ!」
ガガウは勢いよくタルスの前に駆け寄り、お座りの状態で「褒めろ」と要求するように激しくしっぽを振る。
「よしよし、よくやった!」
タルスに撫でられ、満足そうに目を輝かせるガガウと、それをどこか寂し気に見つめるネイジス。
「――――!」
その時、ガガウがビクッと身を震わせた。
「ヴゥゥゥ……ワン! ワン!」
廊下の奥、曲がり角のあたりへ向かって激しく吠えるガガウ。
「何か来るんだな?」
タルスは再び剣を構える――
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