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17歳の夏。この夏の天気は不安定で、日が傾くと夕立が訪れ辺りをじっとりとした空気にさせた。私たちはいよいよ進路についてはっきりとした道を示さなければならなかった。
晴は地元に残り、親類の手伝いをするとのことだった。私の晴への想いは一年を経てより強固なものになっていたからこそ私は地元を離れ、都会へ出ることとした。私たちを取り巻く花粉は変わらなかった。晴には普通の幸せな女の子でいて欲しかった。私がこの湧き上がるような熱情をぶつけてしまえば、晴は戸惑いながらも真剣に向き合ってくれることは明白だった。
この狭い閉ざされた世界で彼女にそれを強要することはあまりに酷く、私もまたそのような覚悟を持ち合わせていなかった。自らの全てを差し出して偏見の目に晒されても彼女と共に生きるようなことは正直出来なかった。花粉に塗れた男女を遠くから眺めながら彼らのそういった自己中心的とも言えるお互い至上主義を羨ましくも思った。
私は結局、周りの目や空気が気になってしまうのだ。
自己愛の塊である。愚かである。
晴が私の都会行きを知ったのは季節は巡り冬のことである。先生と私が話しているところを偶然に通りかかったことで聞いてしまったのだった。今まで見たことないような顔で私に「信じられない。」とだけ一言言った。そして長く綺麗な栗色の髪を艶々と胸元まで流しながら、私に諦めたような表情を向けた。右頬のホクロは見えなかった。
晴が深く傷ついているのだと思った。私たちは私たちがお互いのことを1番理解している。晴は泣けないのだ。親友を想って泣けないのだ。ここで泣いてしまえば私が困ることを分かっているから。つくづく自分の愚かさを恨んだ。
冬の寒さもそこそこに私は東京へと向かった。狭い田舎ではすぐに噂は巡って駅のホームにはどこから聞きつけたか何人かが見送りに来ていた。
晴は私のショートヘアを撫でるのが好きだった。いつもニコニコと櫛で梳いてくれた。そのショートヘアも一年で鎖骨まで伸びた。
晴は夏が好きだった。私と過ごす夏が好きだと言った。毎年浴衣を着て毎年花火をした。冷たい冬の空気が肺を凍てつける。
晴は私とずっと一緒だと信じてやまなかった。ずっと友達だと。私は彼女の友達にはなれなかった。彼女をそんな風に見れなかった。
晴は駅のホームに来なかった。




