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「紗栄ちゃんは彼氏作ったりしないの?」
16歳の梅雨、教室の窓に滴る水滴をついと目で追いかけながら晴は呟いた。
「作ろうとして出来るものじゃないでしょう。」
この手の話題を晴から振られるのは初めてで、私はその言葉に何故だかちくりと胸を刺されたような気持ちになった。そんな私の気持ちを知ってか知らずか晴は指で窓の外の水滴をなぞりながら続ける。
「作ろうと思って出来るでしょ。紗栄ちゃんは美人だもの。みんな言ってるよ。きっと何人にも告白されたことがあるんでしょ。ねぇどうしてなの?」
晴がどうしてそんなことを聞くのか分からなかった。しかし、妙な胸騒ぎがして理由を聞くことができなかった。今までそんな素振りを見せてこなかった晴だが、他のみんなと同じように、恋に憧れ恋に突き動かされるそんな時期が来たのではないかと思ったのだ。
そうなったら、もう一緒にはいられないな。
そんなことは毛頭無いのだが、ふっとそう思わずにはいられなかった。
「私は美人では無いし、どちらかと言うとキツそうな顔をしているでしょう。それにそう言うのは気持ちの問題なのよ。彼氏を作ろうと思うんじゃなくて、気づいたら想い合っているものなんじゃないの?」
私は身体全身が脈打つのを感じた。晴の顔が見られなかった。
「やだ、紗栄ちゃんったら意外と乙女なのね。」
いつものクスクス声に顔をあげると、晴はまっすぐに悪戯っぽい眼差しでこちらを見つめていた。晴が笑うと栗色の綺麗な長髪がサラサラとそよいだ。晴の周囲の世界はどうしてこんなに美しいのだろう。
「そんなんじゃないわ。それに私、男の子って昔色々あって苦手で、その、何て言うか、あの熱っぽい目で見られるとどうにも気持ち悪くって。」
しどろもどろに言葉を紡いで、しまったと思った。こんな話されても聞きようによっては自意識過剰だ。晴のお陰で忘れかけていたあの冬の出来事を思い出して、思わず唇を抑えた。晴に嫌われたくないと強く思った。
「大丈夫だよ。」
晴は真剣な顔で立ち上がり、私の目の前に立った。
「変なこと聞いてごめん。ただ、不思議だったのと、いつか紗栄ちゃんに彼氏が出来て遊んでもらえなくなったらどうしようって思ったの。ごめんね、話してくれてありがとう。」
晴はそっと私を抱きしめた。彼女の暖かな体温と甘く爽やかな香りに包まれる。何故だか込み上げてきそうな涙を必死に抑えてその柔らかい温もりに縋った。
私は晴が好きだった。




