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あれよあれよと季節は巡り、校庭の桜はすっかり若葉に覆われた。突然の夕立が過ぎ、辺りは土の湿った匂いが立ち込めていた。晴がマネージャーを務めるバスケ部もお盆休暇に入り、私たちは隣町にある晴の祖母の家に遊びに来ていた。私たちが住んでいる町よりも海に近く漁業を生業としていた。晴が友達と泊まりに行きたいと両親に話すと、では祖母の家ならどうかと安全面も踏まえ決定したのであった。晴は兼ねてから行きたがっていたバンガローが叶わずしばらくいじけていたが、私はバイト代を節約できることで少しホッとしていた。とはいえ、この春に友達になったばかりの子のお家に泊まるのだ。緊張しないわけではなかった。
「紗栄子ちゃんスイカ食べる?遠慮しなくていいからね。自分ちだと思ってくつろいで。」
晴のおばあちゃんが晴そっくりの顔で笑う。その笑顔に少し気が抜けながら曖昧に微笑んだ。
「ばあちゃんスイカはとりあえず置いといて!紗栄ちゃん花火しにいこ!ね!」
晴はしばらくいなかったと思ったら撫子の柄の浴衣に着替えて意気揚々と花火パックを掲げていた。
「やだ、着替えるなら言ってよ。私持ってきてないよ!」
私がそう言うと晴はにっこり笑って私を奥の間に手引きした。不貞腐れながらついていくとそこには朝顔の柄の綺麗な浴衣が吊るされていた。
「私、着付けできるからそこに立ってて」
晴は得意げに帯を広げる。私は自分の身体を見られることが恥ずかしくて躊躇したが、意識し過ぎているのも恥ずかしくてされるがままに着付けられた。
晴が私の身体に丁寧に浴衣を巻きつけていく。不思議と嫌な気はしなくて身が引き締まるようだった。中学3年の冬以来、人に触られることに嫌悪感を抱いていた私だったが、晴は特別だった。
「出来た!可愛い!」
晴が微笑みながら私の髪を耳にかけ、桜のヘアピンで留めてくれた。晴は大きくうなずき、自身の長い栗色の髪も簪で丁寧にまとめる。その女の子らしい所作に大したものだなと感心した。
晴に手を引かれ玄関に出ると夜の海が静かに凪いでいた。波の音とコンクリートとサンダルが擦れる音が辺りに響く。晴がろうそくに火を灯し、手持ち花火に火をつける。
「あはは!綺麗!」
花火はばちばちと音を立て、晴の手元を赤や青に忙しく火花を散らした。その光景は妖精が光と戯れているようで今まで見たどんな景色よりも美しかった。私も負けじと花火に火を灯す。この夏のことは一生忘れられるものかと齢15ながら固く誓ったのだった。




