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私は本を読むのが好きだった。
身分違いの恋に落ちたり、叶わぬ恋に奮闘したりとそのキラキラとした世界に憧れを抱き、こんな風に青に染まってみたいと思ったのだった。
しかし、そんな少女の幻想は中学3年の冬、砕かれたのだった。
春になり、私は高校生になった。忌々しい記憶から性に関するアレソレを嫌悪するようになった。皆、盛っちゃって猿みたい。そんな失礼なことも考えたもので、思えばこれが花粉症の始まりである。あってないような校則の中でもセーラー服の丈はきちっと膝まで伸ばし、決して淫らな目線を向けられまいと髪はショートヘアで無造作だった。シパシパキラキラと輝く同級生のミニスカートを、流れるような長い睫毛を、ぽうっと染まる赤い頬を見て自分とは別の世界の生き物、まるで妖精のようだなと思っていた。その妖精たちが人間の男にたぶらかされ、消費される様を見るのは心が苦しかった。キラキラと恋に浮かれ、自らを磨く彼女たちに憧れないわけではなかったが、胸に残るこのどうしようもない嫌悪感から、もう2度と彼女らと同じ空気は吸えないのだと実感せざる得なかった。「紗栄子も彼氏作ったらいいのに。アタシが化粧教えたげるよ。」妖精が囁くのも人間の私には勿体無いとふるふる首を振って断ったのだった。
「紗栄ちゃんって睫毛長いのね。」
「え。」
英語の授業が急遽自習となり、各々思い思いに固まりながら決められたページまでワークを進めている時、俯く私に妖精の1人が声をかけた。
相馬 晴。晴れと書いてはると読む。朗らかで伸び伸びとした彼女にぴったりの名だ。
「早くワーク進めないと終わらないよ。」
彼女をそっと嗜める。彼女は御構い無しにじっと私の顔を覗き込む。
「やめてったら。」
「ふふふ。」
私に小突かれて彼女は楽しそうに笑った。晴は笑うと目尻のホクロが見えなくなる。長く伸びた髪は光を浴びて少し赤っぽく光って彼女の輪郭に沿ってスルスルと垂れた。少し鬱陶しそうに晴は髪をかきあげ耳にかけた。右頬の小さなホクロが露わになる。
晴とは英語の授業で隣になってから英語で会話を交わしたり、ノートを見せ合ったりしながら仲良くなった。今では1番一緒にいるのは彼女だ。
晴は妖精たちの中でも一際愛らしい存在だった。特別顔が可愛いとかスタイルがいいとかそういったわけではないが、彼女には構ってあげたくなる不思議な魅力があったのだ。
「ねぇ、紗栄ちゃん。夏休みになったらどこに行こうか。」
晴が今にもくすくすと聞こえてきそうな声で話しかける。
「夏休みなんて、まだ春も終わろうかしてるばかりよ。気が早いのね。」
私は冗談めかして笑う。私は昔から人の顔色ばかり気にしてしまうきらいがあるのだが、晴の前ではこうした特性は不思議と出ないのだった。
「私は紗栄ちゃんとならどこでも行きたい!浴衣も着たいし、花火もしたいし、バーベキューなんて楽しそう!」
短期間で随分と慕われたものだと感慨深かったが、晴とならどれもこれも楽しそうなイベントだった。
「じゃあ、全部やっちゃおうよ。泊まりでどこか行ってさ。」
私が言うが早いか晴は歓声をあげ無邪気に笑った。
晴と一緒にいると呼吸がしやすかった。




