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眩しい青  作者: 川口
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最終回

「俺、紗栄ちゃんの長い髪好きだったんだよなぁ。高校時代ずっと短かったなんて意外。」

私が長く伸ばした黒髪を耳にかけると、ワタナベくんはあの熱っぽい目で私にそう言った。

「何故、高校の時のことを?」

私は冷たく言い放つ。ワタナベくんは気まずそうに目を逸らし、少し間をおいてから深呼吸した。

「実は、今日はその話をしたくて。俺、結婚したんだ。」

へぇ、と適当な声が出て、ワタナベくんが差し出したスマホの画面に頭が真っ白になった。


そこには幸せそうに微笑む晴がいた。


長く美しかった栗色の髪はショートヘアになっていて、右頬のホクロが露わになっていた。画面からはくすくすと楽しそうな声が聞こえてきそうだった。そう、笑うと目尻のホクロが消えるのよ。


ワタナベくんは「もっと早く紗栄ちゃんが戻ってくるって知ってたら俺、結婚なんて」ともごもご話す。そうだこの違和感。紗栄ちゃん、と呼ぶのは晴だけだ。晴だけなのだ。

この男はこの狭い世界でよりによって晴を見つけ、晴を伝って私を知り、私たちの3年間を知ったつもりでいるのだ。


はらわたが煮えくり返そうだった。涙が出そうだった。こいつは男であるというだけで私の大切なものをいとも簡単に奪っていった。

そして周囲もそれを普通だと受け入れた。


異常なのは私なのだ。


何も分かっていない連中は本当に好きなら海外へ、結婚できなくても共に、なんて簡単に言うだろう。そうではないのだ。いや、そうなのかもしれないが。


それが出来なかった私が敗者なのだ。

花粉症の私が、潔癖の私が。

私がもしも愛が全てで、愛のために何でもできる人間ならこんな結末はなかった。

晴。晴はどんな気持ちで髪を切ったの。どんな気持ちであの日駅に来なかったの。どんな気持ちで、この男に私の話をしたの。


それからワタナベくんと何を話したのかは覚えていない。なんだかぼんやりとお祝いの言葉を伝えたような気がする。

久しぶりに帰った実家は何も変わらなくて、早く孫の顔が見たいと親に小言を言われた。

私の気持ちが激しく揺さぶられたとてこの世界は変わらない。

遠くで学生だろうか、花火をする声が聞こえる。

その眩しさに私は目を細めたのだった。

相馬 晴はハル=サクラ サクラソウから名前をとっています。

紗栄子は紗=しなやかで強く涼やかな布、それでいて軽い。栄という字は自立した女性をイメージしました。


2人が夏に身にまとう浴衣の柄も撫子は幸福、優美、笑顔を表し、朝顔は愛情、あなたに絡みつくという意味があります。


2人が晴の祖母の家に行くエピソードは、それによって晴が普通の女の子として親族に愛され育っていることを紗栄子は強く実感し、どうにも愛が全てで2人が全ての世界へ踏み込めなかった理由のひとつになっています。


少し苦くて酸っぱい物語です。

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