「むむむ、新しい組み合わせだ…!」
無限の組み合わせを堪能したい。
それからの5日間と言えば、チョコチョコチョコ。
チョコレート尽くしの毎日だった。
起きて朝食。会場でチョコを食べてお茶を飲み、チョコを食べて昼食。チョコを食べてホテルへ戻り、ホテルで夕食。
体からチョコレートの香りがしてきてもおかしくないと思うほど。寝ても覚めてもチョコレート。
…期限が決まっていて、食べるチョコレートもトップレベルに美味しくてある程度のバリエーションがあり、3食の食事が美味しい。
そうでもなければ、普通の人間は頭か舌が馬鹿になっていそうだ。鼻は言うまでもなく。
実際、会場で見かける他の参加者で同じように1週間連続で顔を見るような人もいなかったので間違いないと思う。
「むむむ、新しい組み合わせだ…!わたしも試してみよう!マスター、ちょっと行ってきます!」
「どうぞ」
もうかなり慣れた休憩所で、シャンパンを飲みながらチョコレートをつまむ。
こうして自分のペースでチョコレートをいただくのもなかなか。正直な話、24時間チョコ生活だろうとわたくし自身は問題ないというか、どうとでもできるので。
バイトくんはといえば、同じく手慣れた様子でチョコを集めて休憩所へ。休憩所で総当たりでもするような勢いで片っ端からペアリングを試している。
いまなんて、目新しい組み合わせで楽しんでいる参加者を見て自分も試してみたくなったようで、さっと身を翻して取りに行った。
「普通の人間はこう連日続くと、いくら美味しくても分からなくなりそうなものですが…」
甘くないチョコレートならペツォッタさんの野菜チョコやビターの強い玉髄さんのチョコなんかもあるけれど、もう割とチョコというだけで麻痺してこないのだろうか?
甘党ってすごい。素直にそう思った。
ちなみにお嬢さんは、劇的変身を遂げたジェットさんが業界人やファンからもみくちゃにされているのをサポートするため、かかりきりになっている。
もちろん最初はこちらを離れることに難色を示してはいたけれど、とてもいい笑顔で楽しんでいたので邪魔できないと、バイトくんと2人快く送り出した。
「お待たせしましたあ~!」
そんなことを考え思考を飛ばしていると、バイトくんが戻ってきた。
ふんふん、と鼻歌を歌いながら上機嫌でテーブルの上にカップを広げていく。
紅茶、ハーブティー、水、ホットミルク、コーヒー、緑茶、アップルジュース。
それぞれカップが小さめとはいえ、本当にこの量を飲むのかと少し引いたのが遠い日のよう。
「さあて、まずはあっちの人が試していた組み合わせを…!」
プレートに盛ったチョコレート。
その中から赤い葉っぱのついた棒状のもの、セレスさんの薔薇チョコレートを1本。
オーラさんのタブレットチョコを小さく割って紅茶に入れ、かるくかき混ぜたら準備完了。
「ぱく、…ごくん」
薔薇チョコレートを口に含んで軽く砕き、そのうえでチョコレートを溶かした紅茶を飲む。
…合うのでしょうか。
思わず手を止め凝視していると、口の中のものをすべて飲みこんだバイトくんが目を閉じて深くうなずく。
「…どうです?」
思わず声をかければ、数秒の間ののち、ぱちっと目を空けてこちらを見る。
「…」
「…」
「…」
「アリですっ!」
カッと目を大きく見開いて叫ぶ。
「チョコをチョコとして味わうことに集中しすぎていました!まさか溶かして飲み物にしたうえで他のチョコと合わせるなんて、想定外ですぅ!あり!これでまた選択肢が増えましたあ…!」
「…まあ、バイトくんが楽しいならいいんですけれど…」
じゃあこっちは?この組み合わせは?
わくわくとチョコを分けては飲み物で舌を湿らせる。濃厚な組み合わせの後には水やアップルジュースで口の中をリセットし、また違う組み合わせを。
「ん~!しあわせ~!!」
◇
複数のチョコを組み合わせた結果、チョコレートがなくなったので補充に行こうと席を立った。
ついでにジェットさんの様子でも、と3階エリアに行くと昼に差し掛かる時間帯もあってか人も少ない。
さて、ジェットさんは…。
「あ、いましたあ!」
パタパタと足早に近づいていく。
「ありがとうございました…」
「ありがとうございました」
ちょうど最後の参加者を返したところだったらしい。
いろんな意味で多忙だったことには変わりないようで、力なく感謝の言葉をかけて見送るジェットさん。隣にいるお嬢さんはなぜかはつやつやで元気そう。
「こんにちは」
「また来ました!」
「!マスターさま、バイトさま」
「ああ、君たちか。どうも」
「お疲れ様です。ジェットさん」
「うん、まあね。ありがたいことに…。はは」
ただ初日に見かけた時よりも張りがあるというか、生気は感じられるので悪い変化ではないのでしょう。
すこし変化に対する周囲の変貌スピードが目まぐるしいだけで。
「あの、ありがとう」
「はい?」
「どうかなさいましたか?」
唐突な感謝の言葉に、バイトくんともども首をかしげる。
「こうして変われたのはハートさんのおかげだけど、きっかけというか、彼女に出会えたのは君たちのおかげだからさ。まあ、おじさんには過分な評価な気もするけど…」
「いえいえ!ジェットさんありきの変身ですし、はーちゃんがジェットさんに出会うのも時間の問題というか、いずれはそうなってたでしょうし…」
ぱちぱちと目を瞬かせてその言葉を咀嚼したバイトくんが、謙遜でもなく本心で返す。
少し溜めて、弾けるような笑顔で言った。
「わたしがここに来れたのもマスターのおかげです!マスターに感謝ですっ!」




