「それでは皆様、盛大な拍手を」
装飾の描写も描写の装飾も楽しい。
そうして迎えた最終日。
もとい結果発表の日。
午前中は変わらずチョコレートを食べて、最後となる昼食を取っていたところ。
設置されている音響機器からアナウンスが流れ始める。
≪お集りの皆様。本日のご来場、誠にありがとうございます≫
「あ、なんか始まりましたね」
「表彰式についてでしょうね。たしか、あと1時間しないうちだったはずですから」
「なるほどお!」
その言葉に止めていた手を動かし、またもぐもぐと食事に戻る。
≪この後14時より、1階ホールにて優勝者の発表と表彰式を執り行います。参列されるお客様は、時間までに会場、1階ホールまでお越しください。 繰り返します…≫
流れるアナウンスに、周囲の参加者も続々と移動の準備を始める。
バイトくんが目で訴えかけてくるのに、笑って返す。
「もう少ししたらハートさんが迎えに来て下さるそうです。それまではまだいいですよ」
「…ん。はい!わかりましたあ!」
元気よく返事をしてパンにかぶりつくバイトくんに、自分もゆっくりとスープを味わう。
うん。
この味、店に帰ったら再現してみよう。
◇
30分ほどして、お嬢さんが迎えに来たので従って席を立つ。
「すみません!準備に少し手間取ってしまいまして…!」
「いえいえ。それにしても…一段と華やかですねえ。とてもお似合いです」
「あ、ありがとうございます…!」
やってきたハートさんは、これまでよりもずっと華やかなドレスをお召しになっていた。
豊かな金の髪は複雑に編み込まれ、キラキラと照明を反射するクリスタルがあしらわれた髪留めでまとめている。
その身を包むドレスは繊細なレースと艶のある絹が幾重にも折り重なり、優美ながら豪奢。
白をベースに金の刺繍やリボン。足元のヒールにいたってはどうやらクリスタルで出来ているよう。
「わあ~!はーちゃん可愛い!!」
「ふふ、嬉しい!ありがとうございます…!」
かくいう我々も今日とて全身お嬢さんのコーディネートで固めており一般的にドレスアップはしているものの、これほどではない。
やはり主催側、主催者の孫娘ともなれば式典でなにか大役を任せられたりするのでしょうか。
「では、こちらへ」
着いた先は初日とはまた違う、控室のような場所だった。
促されるままソファに腰かける。
「?」
「ふふ。バイトさまにはすこしお手伝いいただきたくて」
なんだろう、と不思議に思っているとお嬢さんが一旦部屋を離れてまた戻って来る。
その手には大きな花束と紙袋。
ああなるほどと合点がいった。
つまりはバイトくんが優勝者へ花束贈呈を手伝う、といったところでしょうか。
「この後、お爺様が優勝者を発表し、わたしがトロフィーをお渡しします。その時、バイト様には私の横で同じように花束を渡してほしいのです」
「なるほど~。って、え!?わた、わたしがそんな大役を!?」
「ぜひ!お願いいたします…!」
花束を崩さぬようにテーブルに置き、両手でバイトくんの手を包んでお願い。
うるうるとした翡翠の瞳に見つめられ、バイトくんがたじろぐ。
…ちょっと屈んで下から見上げる。なるほど、交渉のテクニック…。
「…」
「…うぅ」
うるんだ瞳と手のぬくもりにバイトくんが白旗をあげるのは早く、途端にしゃんと立ち上がったお嬢さんがからっと笑う。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです!」
「う、ぼくは…」
「では、こちらをどうぞ!」
髪色と同じくらい真っ赤に染まった顔を隠すように手で覆って崩れ落ちるようにうずくまった壊れそうなバイトくんをよそに、ご機嫌のお嬢さんが紙袋を差し出す。
中に入っていたのは1枚のストールだった。
「もちろん今日の装いもとっても可愛らしいのですが、せっかくなので華やかさと私とのお揃い感を出そうと思って!」
「きれい…!」
「羽織ってみてください!」
向こう側が透けて見えるほど薄い生地。
しかし金の刺繍と、縫い付け散りばめられたクリスタルの粒が繊細に輝く美しいストール。
「やっぱり、完璧です!」
「えっへへ」
そんなこんなで楽しんでいると、どうやら式が始まったらしい。
遮るもののない入口の向こうから、マイク越しの声と大きな拍手が聞こえてくる。
司会進行も務めるファセットさんの声が響き、場が鎮まる。
「…そろそろですね」
「ぅ、緊張する…」
心なしか青くなったバイトくんをなだめるようにそっと声をかける。
「大丈夫ですよ。バイトくん」
「マスター…」
「隣にはハートさんもいますし、わたくしも近くで見守っています。それに、バイトくんはここぞというときに決められるひとですから。ね?」
じわじわと頬に赤みが差し、顔色が戻っていく。
「じゃあ」
「はい?」
「あ、あたま撫でて、がんばれって、いって、ください…」
もごもごと言いにくそうにどんどん小さくなっていく声にきょとんとしながら、そっと手を伸ばす。
「…がんばれ」
「はいっ!!」
◇
「それでは皆様、盛大な拍手を。本年度ショコラトル・パレード優勝者、世界一のショコラティエとチョコレートは…」
「…クリスタルパルフェット所属、ルチルさん!そして宝石の雫です!」
瞬間、爆発。
そのくらいの衝撃と音が怒涛のように押し寄せた。
割れんばかりの拍手歓声。
「ま、でしょうね」
そんな会場をそっと眺めながらごちる。
正直、初日の時点でこうなるだろうとは思っていましたけれど。
流石に相手が悪い。
「ではルチルさん、前へ」
「は~い☆」
並んだショコラティエたちに見守られ、ルチルさんが中央前方に進み出る。
「トロフィーと花束の授与を」
その言葉にお嬢さんとバイトくんが近づき、ルチルさんへと言祝ぎと共に差し出す。
「三連覇、おめでとうございます」
「おめでとうございます…!」
「ありがとう~☆」
無事に授与を終え、静々と戻って来るバイトくんを待ち受ける。
どうにか大役を終え、緊張が解け安心したからか崩れ落ちる体を受け止める。
「…う、うぅ……」
「お疲れ様でした。やっぱり大丈夫でしたね」
「…ぐす」
「おや」
まだ力の入らないバイトくんが、なぜだか涙を流している。
そっとハンカチを出して涙を拭う。
「…関係ないのに、見てただけなのに。嬉しくて、悔しくて…。…どうしてでしょう…」
「そうですねえ、それはきっと…」
◇
「いろいろと、ありがとうございました」
「1週間お世話になりました!ありがとうございました!」
「いやいや、また来年もぜひ」
「そうですね。また」
つつがなく式も終わり、ホテルのエントランスホール。
まとめた荷物とたくさんのおみやげはもう馬車へと載せて、最後のお別れ。
長いような短いような。濃い1週間でした。
ファセットさんとハートさんに感謝を告げ、馬車へ乗り込もうとした背に声がかかる。
「マスターさま、バイトさま」
振り向けば、お嬢さんが1通の手紙を差し出していた。
「お2人にこれを…」
「おや」
「?」
受け取るが、特に何の変哲もないシンプルな封筒だ。
厚みもほぼなく、数枚の便箋が入っている程度だろう。
「帰ったら読んでください。…また、お会いしましょう」
「ええ」
「はーちゃん、またね!」
いただいた封筒をポケットにしまい、こんどこそ馬車へ乗り込む。
「…さて、帰りましょうか」
「はいっ!」
馬車が走り出す。
いつもの日常まで、あと…。




