「これが、これこそが、チョコレート…?」
やっぱ最強キャラには良さがある…。
1番現実に欲しいファンタジーチョコです。
最後にしてメイン。
今回のショコラトル・パレードに参加しているおそらくは全員が1番興味を持ち、3連覇を期待する目と敗北を期待する目のいずれかを、あるいは両方を向けているであろう中心地。
2階エリアよりも1.5倍ほどの広さに対し、1人で3分の1、つまりは他のショコラティエの2倍以上のスペースを与えられている。
広さに応じてテーブルも多く、3つのテーブルには光沢のあるベロア生地が敷かれ、繊細な金の細工プレートの上には高級感漂うケースがずらり。
「応援しているよ」
「では、我々はこれで…」
「はいっ☆ありがとうございまーす☆」
ルチルさんのブースは特に込み合いそうだと後に回したおかげか、人もかなり少なくなっていた。
近寄れば、スポンサー企業の上役らしき上等なスーツを召した高齢の男性が2人、ルチルさんに声をかけて去っていくところだった。
「…なんか、すごい雰囲気ありますう。ブースも全体的に高そうですし…」
「…一応、ある程度の予算までは書斎側で負担していますが、一定の金額を超える場合が自費、ないしは企業負担なので…」
「…な、なるほどお。つまり、バックの企業さんが大きいってことなんですね…!」
「…あけすけに言うと、そんな感じです…!」
なぜかこそこそと背に隠れて話すバイトくんとお嬢さん。
くすぐったさを感じつつ壁に徹していると、お客人を見送ったルチルさんがこちらに気づいて目を輝かせる。
「お~い☆そんなとこにいないでこっちにおいでよ~!」
手招きされるままに近づいて、あいさつ代わりのチョコを手渡される。
「はい、どうぞ☆」
手のひらにのせられたケースは重厚で、まるで指輪でも入っていそうな佇まい。
おそるおそる開けてみれば、そこには…
「…!」
「…え、ええ!?」
「…こんなことが…!」
ケースの中、中央に恭しくおさめられた宝石。
美しくカットされたそれは照明の光を反射させ、キラキラと輝いている。
思わず手に取って光に透かせば、向こう側が小さく映る。
「どっ、どえ?!どど、どうやって…?!これ、なん…!!?」
思わず息を呑むわたくしとお嬢さんに、バイトくんは動転しながらもルチルさんへと詰め寄る。
「あは☆企業秘密~!」
どうやったらこんな代物が出来上がるのか。
例えば豪華な1粒にする、という目標があったとして、正直出来て金粉だの真珠パウダーだのといった正攻法的な解決だ。
これがショコラティエの最高峰。
誰にも追随も理解すらも及ばぬ高み。
「そんなことはいいじゃん!チョコは食べてこそ☆さあ召し上がれー☆」
バイトくんはその言葉を何とか頭で拾って、どうにか手を動かして透き通るチョコを摘み上げ口に入れる。
透き通る。
チョコレート。
そんな相反するような言葉が両立するなんて。
脳裏にぐるぐると文字がよぎるようだった。
「…」
もったいなくも同じく摘まんだそれを口に入れ、舌で舐るように溶かす。
口に広がる甘味や風味はたしかにチョコレートで間違いない。
気が付いたら、バイトくんもお嬢さんも、黙って涙を流していた。
「そんなに感動してもらえるなんて☆ルチルちゃん感激~☆」
明るい声が耳を通り過ぎていく。
1分か10分か。
長いような短いようなフリーズが解け、2人が口を開いた。
「…こんな。これが、これこそが、チョコレート…?」
「おいしい、それしか言えない…!」
「うんうん☆ルチルちゃんはその一言が嬉しいぞ~?」
にこにこ顔を崩さず、はっぴーはっぴー☆と喜ぶ。
その顔はあどけなく、本当に純粋に称賛の声を喜んでいるようだった。
その圧倒的な発想と実力に、味見したいなという欲が湧くのを押さえつける。
「…本当に素晴らしいチョコレートをありがとうございます。間違いなく、わたくしの知る限り世界一のチョコレートです。…いささか、その枠すらも超えてしまっているような気もしますが」
「きゃーん☆嬉しい~!」
いや、さすがに反則レベルでしょう。
これまでいただいてきたチョコレートも、それぞれ一般的なチョコレートをはるかに超えた逸品であることは間違いないのに、彼女のそれはさらに2段3段、あるいは計れないほどの高みにある。
彼女がこうしてその才を如何なく発揮でき評価される時代にいることは、良いことなのか悪いことなのか。ここまでくるとわからない。
…御前様に献上を申し付けられてもおかしくないな、ふとそんなことを思った。
「あ、ちなみにね~、今回ルチルちゃんはみんなに食べてもらったダイヤ以外に~」
「真っ赤なルビーと朝焼けみたいなバイカラートルマリンも用意してるんだ☆」
「1日おきに入れ替えて、最終日には3つ揃うからお楽しみにねっ☆」
衝撃冷めやらぬバイトくんやお嬢さんの手からそっと空のケースを預かるように手を握って、畳みかけるように言い募る。
「いやはや、いくら何でも…」
半端ないって、それ。
思わず漏れ出そうになる本音を喉の奥に封じ込めて、さすがに少し口の端がひきつるのを自覚した。




