「おさけだ!おいひい!」
お酒、好きです。
あれから、大変身したジェットさんにめちゃくちゃに絡みまくるニア双子を置いて、しれっと脱出。
ほわ~、としか言えなくなっていたバイトくんを猫だましで正気に戻し、ドヤ顔お嬢さんを回収。
最後の挑戦者、モルガンさんのブースへ。
後方のショコラティエ団子が観客を増やして騒がしくなっているのは、見ないことにしておく。
「…待ってたよ」
モルガンさんのブースはなんというかミステリアスな、占いを行うブースだと言われても納得できる様相だった。
深い紫のクロスに意味ありげな金の刺繡。並べられた丸いチョコレートも、パワーストーンと言われればそうかもしれないと思える。
「…」
目を覆い隠す厚い前髪で目は見えないが、口元がにいっと吊り上がって歓迎を示している。…生贄を喜ぶ邪神にも見えなくもない。
「…くく」
「!…こ、怖い」
いちいち意味深な雰囲気を醸し出しているモルガンさんにびくつくバイトくん。心なしかお嬢さんも少し身構えてしまっている。
そんな2人に対してモルガンさんは体を揺らしたり笑ったりと、おそらく反応を見て故意にもてあそんでいる。
なんというか、案外愉快な方のようで…。おもしろい。
「…たべて」
長い袖に隠された白い指先が、テーブルに載ったチョコレートを指す。
「…はい…!」
「…ごくり」
「いただきますね」
舌で転がして表面のチョコレートを軽く味わったら、歯を立てて2つに割る。途端に中からとろりと漏れ出るアルコールが舌をビリビリと焼くように刺激する。
「んぐ!?…おさけだ!おいひい!」
「もぐもぐ」
「…。ええ、チョコとよく合います。とても美味しいです」
「…ひひ」
アルコールを含んだチョコレート。
つまりは、ボンボン。
ボンボン・オ・ショコラというとお酒以外にもフィリングされているものだとか、一口サイズのもの全般を指すので、これはどちらかと言えばウイスキーボンボンの方だろう。
「……自分、お酒好きなんだあ…。ふふふ」
「なるほど。趣味を突き詰めた結果のチョコレート、というわけですね。わたくしもお酒は大変好みです。もう一ついただいても?」
「…いいよ……くふ」
「ありがとうございます」
ぱきり。
口に放り込んではかみ砕き、舌に感じる特有の熱を楽しむ。
ああ、おいしい。
「…む、マスターがここ1番で美味しい顔をしてるぅ…」
「なるほど。…マスターさまはお酒がお好き、と」
舌に残る余韻を味わいつくしていれば、何やらショックを受けたような表情のバイトくんと謎のメモを取っているお嬢さん。
まあお嬢さんはともかくバイトくんはわかりやすくスイーツとしてのチョコレートが好みなので、1番好きな味が被らないのはわかりきったことではあるのですが。
「…今度、わたしのベストオブチョコレートでマスターの舌を上書きしますからねえ…!」
「おやおや。楽しみにしておきますね」
「まあ…!」
それはともかく。
「モルガンさんのキャッチコピーってどんなものなんです?他の方々はたしか…」
「サペさまの超攻撃的チョコレート。セレスさまの森のチョコレート屋さん。玉髄さまがヴェールショコラ、ペツォッタさまが新しい出会いの調整者でウレキさまが…」
「魔法使い!」
「命を与える魔術師、ですね」
スパイスのきいた刺激的なチョコレート。
花とハーブの自然派チョコレート。
精密機械で作り上げられたような繊細で緻密なチョコレート。
野菜と合わせる甘くないチョコレート。
精巧すぎて今にも羽ばたきそうな鳥のチョコレート。
思い返しても、それぞれ個性的で特徴のある素晴らしいチョコレートだった。
「そしてコスモさまが楽しいおもちゃ箱、オーラさまが絶対ボーダーライン、です」
「コスモさんわかる!チョコエッグ楽しかったですぅ!」
「オーラさんは頑なに1つのチョコレートを極めている、というところからきているのでしょうか」
わかるような、わかりにくいような。
「大変身前のジェットさまが良縁チョコレート、チューさまニョーイさまが無限の構築師。こちらにいらっしゃるモルガンさまが、チョコレートボム…だったはずです」
見て楽しい割って楽しい食べて楽しいチョコレート。
周囲など一切眼中にない、ただ一つの理想を極めたチョコレート。
実績があるらしい縁結びチョコレート。
個々にも美味しいが合わせても美味しいチョコレート。
噛めば舌を焼くアルコール入りのチョコレート。
「…そのキャッチコピー、誰がつけているんですか?」
「絶妙に統一感なくて印象に残りますよねえ!」
「う~ん、スタッフだとは思うんですけど…」
「…くふっ」
「あ、笑った…!」
「モルガンさま的にもやっぱりちょっと変だと思います?」
お嬢さんの言うキャッチコピーがツボに入ったのか、このやり取りが面白いと思ったのか。
口元を押さえてぷるぷる震えるモルガンさんに、慣れたのかバイトくんたちが絡みだす。
ぱたぱた顔を隠すように振られる袖口から覗く顔をよく見ようとバイトくんがぴょこぴょこと跳ねる。
そんな後ろ姿を見て、スッと目をそらす。
「さて、最後はチャンピオンですか」
見つめる先。
随分人も少なくなってきた、ひときわ大きいブース。
「前人未到の3連覇。はたして…」
もしかすれば歴史的瞬間をこの目で見ることになるかもしれないな、乾いた唇をそっと撫でた。




