「…美味しそうですねえ」
二重の意味で箸休め。
…美味しそうですねえ。
そんなこんなでジェットさん改造計画が決まったかと思えば、各所に設置された音響装置から軽やかな音楽が流れだす。
「この音は一体…?」
「?」
「ああ、説明していませんでしたね」
そう言って取り繕うようにひとつ咳ばらいをし、少し落ち着けた様子でお嬢さんが解説してくれる。
どうやら会場を移動せず、軽食をいただけるらしい。
「こほん。ええと、このショコラトル・パレードはこうしてクリスタルパレスで開催しているわけですけれど、開催期間中は都度昼食に出る不便をなくすために別宮にてお食事もご用意しております。もちろん外で食べられる方もいますが、ショコラティエさまやスタッフなど会場を長く離れられない方もいらっしゃいますので」
「なるほどお!」
「効率的ですね。しかし、休憩所とはまた別の場所を用意されていらっしゃるのですか?」
「ええ。食事のにおいや喧騒が良くも悪くも影響するかもしれませんから。あくまでこちらの本分はショコラトル・パレードであり、お食事はサービスで福利厚生ということです」
その言葉にかなり気を使っているのだなと感心。
主催側がそこまで配慮してくれるからこそ、ショコラトル・パレードは伝統的でありながらも年々規模や勢力を増して愛されているのだと、ふと思った。
「もちろん会場まで私がお2人を案内させていただきたかったのですが…」
「ああいえ、お気遣いなく。ジェットさんの変身、楽しみにしておりますので」
「そうです!わたしも楽しみにしてますぅ!ジェットさん、こんなに美味しくて可愛いチョコ作れるんですし、自信もってくださいっ!」
「はは…、ありがとう…?」
ではこれで。とまたいつの間にやらいた幾人かのメイドさんを引き連れてお嬢さんとジェットさんはいずこへと去っていった。
その背を見送って、さて我々もとバイトくんの方を向けばメイド長さんが。
「マスター様、バイト様、お待たせいたしました」
「わ!」
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
◇
「こちらでございます」
少し歩いて廊下続きの別宮に行けば、開け放たれた扉の向こうから鼻腔をくすぐる良い香り。
ホールのようなスペースにはたくさんのテーブル。その上に広がるさまざまな料理の数々。基本的には立食をイメージしているのだろう、談笑する数人の手元にはお皿。
念のためか、壁際に小さなテーブルとチェアも用意されていた。
「わたくしはこれで。失礼いたします」
「ありがとうございます」
すっと腰を折ったメイド長が離れていく。
とりあえずホールに足を踏み入れれば、思ったよりも人数は少ない。
外へ出る人もいると言っていたし、あるいは時間をずらす人もいるのだろう。
さてどうしようかと周囲を見回す。
「…あれ?あの2人って、もしかして」
バイトくんの指す方向を見れば、2人の女性。
よく見れば、オーラさんとコスモさんだった。
「あら?」
「ん?」
どうやら向こうも気づいたのか、にこやかに会釈を返される。
コスモさんが手招きして下さるので近づけば、快く受け入れられる。
「やっほ~、さっきぶり~!」
「こんにちわ。…ああ、もうがっつくから…ほら」
「むぐ。…あり~」
「ありがとう、でしょう。略さない」
「ふあ~い」
「まったくもう」
どうやら想像をはるかに超えて仲が良いようだ。
コスモさんの口元についたソースをオーラさんが拭う。…なんというか、かいがいしい。むしろこの光景を見たら2人が双子だと分からない。双子というよりは、
「コスモさんって妹味つよいんですねえ!オーラさんもすっごくお姉ちゃんですし!」
そう。年の離れた姉妹か親子。そのぐらいの距離感のやり取りだった。
「ん~?あはは!そだね、おねーちゃんってば世話焼きでさあ~!」
「あなたがしっかりしてないからでしょう。わたくしは普通ですわ」
「あ、そだ、これ美味しいよ~。超おすすめ!」
「わあ!じゃあそれにしようかな~!」
テーブルから空のお皿を取って、勧められた料理に手をつける。
柑橘系の香りのソースがかかったお肉。そしてポテトサラダのようなものをお皿に盛っていただく。
「ん!美味しい~!このソース、マーマレードに少し酸味も足されてるのかな。甘味と苦みと酸味がマッチしてて美味しいですぅ!お肉も柔らかくてジューシー…!」
「お~!なんかめっちゃ食レポ上手いね!」
「えへへ。マスターにも舌がいいってよく褒められますぅ…!」
「へ~、すっごいいいじゃん!強みだよ~」
「えへへへ!」
明るい2人が同じテンションで盛り上がるのをオーラさんと見守りながら、自分の皿の中身に手をつける。
「…ふふ」
隣から聞こえた小さな声にそっと目線を向けると、はしゃぐ2人を温かく見守るオーラさん。その口元は緩く弧を描き、まなざしには深い慈愛のような感情が見えた。
ちろりと唇のソースをなめとり、また肉にかぶりつく。
「…美味しそうですねえ」
「?…なにか仰いました?」
「いえ、なにも」
ごくりと飲み込み、空になった皿を手にバイトくんへ近づく。
「バイトくん」
「あ、マスター」
きゅっとこちらを見る2つの目に笑いかける。
「少々料理を取りに行ってまいります。バイトくんも自由にしていて構いませんよ」
「は~い!美味しいのあったら教えてくださいね!」
「ええ。…すみません、少し席を外しますね」
「いってらっしゃ~い!」
さあ、どんな料理があるでしょうか。
…食べ応えのある、滴るような肉なんてあると良いのですが。




