「縁結びチョコ」
冴えないオジサンを自称するキャラはイケメン。間違いない。
「いや、おれっていっつも貧乏くじっていうかさ、ね。」
「自分には恋人やそれに準ずる出会いもないけど、人生経験と自分なりの理論でかなりの数のカップルを爆誕させてきたよ…ははっ…」
「いつだったか、誰かが言い始めてさ、それ」
「独身男の縁結びチョコ…。まあ、実績はあるからさ、食べてってよ」
たどり着いた先、くたびれたような長身痩躯の男性が捲し立てるようにそう言った。
「おおう…」
「う~ん…」
「さすがに反応しづらいですねえ…」
行き先を間違えたかと一瞬思った。
そんな少々引き気味の我々を見て男性、ジェットさんが喉の奥で鳴らしたような低い声で笑った。
「…ははっ」
「…」
「え〜っとぉ…」
「私、ひとついただきますね!」
「あ、じゃあわたしも!」
一拍の間を開けて、なんとか搾り出すような声で場の空気を変えようと頑張るバイトくんにお嬢さんが助け舟を出す。
それにすかさず便乗して、とりあえずはまずジェットさんのチョコレートを味わう事にした。
改めてしっかりと見てみると、ジェットさんのブースではまるで飾り結びのような形をしたチョコレートが枯山水を模したテーブルに並べられていた。
先ほど縁結びがどうとか言っていたような気もするし、つまりは水引だとかそういうところから連想されてこの形に落ち着いたのだろう。…出身どこなんでしょう。
「ん!これ…、グリーンティーですね!美味しいです!」
「わたしのはフランボワーズとホワイトチョコですぅ!見た目もちょっとハートっぽくて可愛い〜!」
ジェットさんの独特な雰囲気に呑まれかけていたけれど、美味しいチョコを食べて気分が上がったのかはたまた上書きされたのか。
バイトくんとお嬢さんが頬を緩めて喜ぶ。
2人が手に取ったのはそれぞれ、
赤と白の2色のハートを模した飾り結び。バイトくん曰く、フランボワーズとホワイトチョコレート。
うす緑と濃い緑のグラデーションが美しい飾り結び。お嬢さん曰く、グリーンティー。つまり抹茶風味。
そして自分の手の中にある、紫色のものは…。
「ぶどう、ですね」
「へえ〜!それも美味しそう!」
うん、美味しい。
舌の上で溶かすように味わっていると、好意的な反応に安心したのかジェットさんの雰囲気が少し和らいだ気がする。
「良かった。…まあ、効果的な話は置いても味は保証できるしさ。なんていうか、おれみたいなんでも特技ってやつはあるもんだよな。はは」
ふむ。
「ジェットさんは少し、自分を低くとらえ過ぎているように感じますね。こんなに美味しいチョコレートが作れて、評判も良い。わたくしとしてはもっと強気に出ても良さそうに思うのですが…」
「そうですね、私もそう思います!もし何かポリシーがあっての事でなければ、変身のお手伝いなんて、私できると思うのですが!むしろしたい!」
「もぐもぐ」
「え、ええ?いや、おれなんてパッとしないしショコラティエとしての腕以外何にもないから。彼女いない歴イコール年齢だし、友達少ないし、年齢以上に老けて見えるし…」
「いいえ!私にはわかります!ジェットさんは必ず磨けば光る原石です!お任せください!」
ふんす!と鼻息荒く熱くなっているお嬢さんに、そこまで言われれば満更でもないのか照れ隠しに頬をかきながら目線を逸らす。
というかやっぱりお嬢さんはそういうコーディネートとかプロデュース方面にかなり興味関心があるようですね。わたくしたちの今の服装も彼女の用意したものなわけですし。
バイトくんはチョコに夢中すぎてリスのようになっていますが…。
「あともう少ししたら一度休憩が入りますし、よろしければお時間をいただけませんか!?昼食も用意させますし、私、本気です!」
「え、ええっと…。じゃあ、まあ…」
「良いんですね!?ありがとうございます!」
パンパンと手を打ち鳴らすとどこからともなくメイド長が現れ、お嬢さんにそっと耳打ち。お嬢さんが満足げに深く頷くと一礼してまたどこぞに消えていった。
「マスターさま、バイトさま」
「はい」
「ごくん。…はいっ!」
「私、少し用ができてしまいました。申し訳ありません。この後の昼食なのですが、少々お席をはずしてもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうに眉を下げて謝るお嬢さんに、バイトくん共々手を振って構わない旨を伝える。
…この勢いの彼女を邪魔するのはよろしくない、ということはわかったので。
「昼食会場へはメイドに案内させますので…」
「どうぞどうぞ!全然お気になさらずですぅ!」
「ええ、ご存分にどうぞ」
「ありがとうございます!…代わりと言ってはなんですが、夕食はぜひご一緒させていただければと!我がホテル自慢の晩餐をご用意しておりますので!」
何やらよくわからないけれど、怒涛の勢いでこの後の予定が決まってしまった。




