「オシャレな板チョコだ!」
シンプルイズベスト。
双子って神秘的だし夢がある、と思ってしまう。
連れられるまま訪れたオーラさんのブースは落ち着いた大人の空間といった風だった。
そして肝心のチョコレートはというと、
「オシャレな板チョコだ!」
「タブレットチョコレートですわ」
下に敷かれたクロスを隠すほどの大きさのよく磨かれたストーンプレート。テーブルいっぱいの大きさを生かして並べられているのは、まさしく板チョコだった。
「わたくしは滑らかな舌触りこそを重視して、作るチョコレートはすべてタブレット型に統一しておりますわ。余計なものは一切ない、素材にも手順にもこだわり抜いたチョコレート。ぜひ味わってくださいませ」
そういって笑みを深めた彼女には、言葉にできない圧があった。
「では」
「い、いただきますぅ…!」
「私もいただきます!」
1枚手にとってパクリと3分の1ほど頬張る。とたん舌に広がる甘み。
舌にとろけるそのチョコはたしかに滑らかで、シンプルゆえにチョコレートの出来がはっきりとわかる代物だった。
「ふおぉ、美味しい…!」
「それに、滑らかで嫌な残り方もしない…。こういうと変かもしれませんが、なんというか後味のさっぱりとしたチョコレートです!」
「ああ、なるほど。言葉にするとそうですね」
甘くて舌に絡むのに、飲み込むとすっかり消えてしまう。
変な甘みだとか、食べた後も口の中に甘みが尾を引き残り続ける、ということがない。まさしく解けるようなチョコレート。
「気づいていただけて何よりですわ。ええ、これこそ瞬間の口溶け。虜にするチョコレート」
「虜にするチョコレート…!」
ふんふんとチョコを片手に興奮してようなバイトくんが繰り返す。
虜にするチョコレート、というのが彼女の売りというかキャッチコピーなのでしょうか。
またひと口。
舌でチョコのかけらを転がしながら、手に持つ食べかけのタブレットチョコレートを見る。
レースのような繊細な柄の刻まれた長方形。ウレキさんのように自分でひとつずつ彫っているわけではなく型に入れて作っているのだろうけれど、綺麗だと思う。
「これもブランディングですね。この美しくもシンプルな見た目も、解けるような味わいも。自分用というだけでなく贈呈用に良さそうですし!」
「まさしく」
やはりビジネスの良い目を持っている。
お嬢さんの呟くような言葉に同意しつつ、最後のひとかけを口に放り込んだ。
「あのう」
「なんでしょう?」
「オーラさんは、何種類のチョコレートを用意しているんですか…?見た感じだと、1種類しかなさそうな……?」
言われてみればそうだ。サペさん以降、他のショコラティエのみなさんは自分のブースに複数種類のチョコレートを広げていたので、いくつも用意されているのが当たり前になってしまっていた。
「ああ、わたくしは全期間通してこの1種類のみですわ。わたくしにとってのチョコレートの完成系はこれひとつですから。……あの子も…」
「おお〜!ひとつで勝負なんて、プロフェッショナル……!」
「潔い…!」
世界一のチョコレート、という点において数多のショコラティエが鎬を削る中、それでも揺るがない、自身の中で確実なものがあるというのは強みと言えるのでしょうね。
盛り上がる3人をよそにそんなふうに考えていると、バイトくんとお嬢さんに手放しで褒められた事にオーラさんが笑う。その笑顔はなんだかあどけなく、彼女を幼く見せた。
その表情に、さきほどから考えていたことを思い切って尋ねてみることにした。
「失礼ですが」
「はい?」
「オーラさんとコスモさん…血が繋がっていたりしませんか?」
驚いたように目を見開く彼女に、続けて言葉を紡ぐ。
「髪色や話し方など、受ける印象が全く違うので思い違いかと思っていたのですが…。先ほどの笑った顔で、やはりそうかなと」
そう続ければ少しの沈黙ののち、オーラさんが口を開いた。
「そこまでお分かりならもう隠しても仕方ありません。そもそも知っている人は知っている話ですから」
そう前置きをして、はっきりと断言した。
「ええ、わたくしとあの人は血が繋がっています」
というか、双子の姉妹ですわ。なんでもない顔でそういった彼女に、流石にこちらも驚く。
「双子ぉ!?」
「まあ、オーラさんとコスモさんがですか?」
「それは流石に想定外でした。せめて従姉妹かな、と」
はあと息をひとつ。
「わたくしが姉、あの子が妹。メイクや髪型を抜きにすれば、案外瓜二つなのです。幼い頃などよく間違われたものです」
「いが〜い…!」
「だからああして絡んでいたのですね!姉妹ゆえの気安さ、という事でしょうか…!」
「…まあ、あの子は可愛い物好きの派手好きですし、わたくしとは少々趣味が合わないですが努力家ではありますしもちろんショコラティエとしての腕は確かなわけでわたくしにもあの子の作るチョコレートは宝箱のようで可愛らしいと感じることもなくはないのですけれど…」
「お、おぉう…」
なかなか秘めたる思いは強そうというかマシンガンで漏れ出ているというか…。
まあ、仲も良さそうですし、良かったということで。
そっと目配せして頷きあう。
「では、我々はこの辺りで」
「また伺いますね!」
「ありがとうございました」
「ぶつぶつ…。え?ああ、そうですわね、ええこちらこそありがとうございました。また期間中いつでも来てくださいね、お待ちしていますわ」
そう言って手を振って送り出してくれるオーラさんに軽く会釈をして、次なるブースへと向かった。




