「あま、く、ない…?」
チョコレートは甘い、という固定観念。
料理は自由だって、何かで見た。
早めに休憩を挟んだおかげか、再び訪れた2階エリアは人もかなり少なくなっていた。
「さて、ではどちらから行きましょうか」
「そうですね。参考までにいうと、ウレキさまはチョコレートに命を与える魔術師と呼ばれていますね。その出来栄えは芸術品のごとき美しさだとか。対してペツォッタさまは新しい出会いの調整者、これまでにない大胆な組み合わせのチョコレートを作るとか」
「命を与える魔術師…」
「新しい出会いの調整者…」
なんだかとても壮大なキャッチコピーというか異名というか。
思わぬ言葉にバイトくんと2人、呆気に取られてしまう。
「いずれにせよ、とても美味しいチョコレートであることに変わりありませんし、どちらを先にしてもどっちも味わうわけですから!直感で決めていただいて!」
ね!とにこやかに星を飛ばすお嬢さんにバイトくんがぱちぱちと目を瞬かせてからぷっと吹き出し、じゃあ右で!と元気良く返す。
さて右側にあるのは、ペツォッタさんのブース。
「お、来たね。待ってたよ、お2人さん。ああ、お嬢様もいるんだね。ようこそ、たっぷり味わってってくれ!」
カラッと明るいペツォッタさんの声に吸い寄せられるように、テーブルへと近づく。
かけられたクロスは大胆な色遣いとパターン。
赤や青、黄色に緑、ピンク。一見すれば互いにケンカしあって良さを殺しそうな色彩も、なぜか引き立て合い調和しあっている。
騒がしいというマイナスな印象は不思議となく、カラフルだとかポップといったポジティブな印象。
「おお~…!」
「これは、たしかに大胆で新しい組み合わせですね…!」
鮮やかなクロスの上、そのデザインを活かした透明なガラスのプレートの上にチョコレートがずらり。
柔らかそうな丸いチョコレートの塊に持ちやすい棒が刺さったチョコレート・ポップ。
突き出ているのは、野菜…?
「あはは、今回はベジタブルチョコレートさ。もちろん奇抜な組み合わせってだけじゃあないから、安心して食べて見なよ」
「じゃ、じゃあ…」
「私はこちらを…」
「ではわたくしはこちらを」
がぶり。
棒を持ってひと口に頬張る。
「あま、く、ない…?」
「スイーツというか、これは…ソース?」
「なるほど、合いますねえ」
食べてみればなんということもなく。
チョコレート、イコール、スイーツ。甘いものという先入観があったことを思い知らされる。
「あっははは!いいねえ!うんうん、そのびっくりした顔が好きなのさ!」
豪快に笑い飛ばす彼女が、こっちもと差し出してくるのを受け取って食べる。
「ああ、これはわかりやすい」
「いちごだ!甘くて美味しい…!」
「たしかに、チョコレートであればいいわけで。甘いスイーツでなければならないということはありませんよね」
「そうそう!子どもなんか特に、野菜には好き嫌いもあるだろう?そもそも野菜だというだけで食べず嫌いってのもある。アタシはこうして新しい可能性を見せて、お茶会だのご褒美だのってことばに縛られないチョコレートの可能性を示したいのさ」
今回はないけど、ステーキにだって合うんだ!と笑う。
たしかに、チョコレートは料理においても使用されることがある代物、味に深みやコクを出したり、こうしてソースにされることもある。
とはいえ、ショコラティエのトップを決める祭典となればやはりスイーツとしてのチョコレートをイメージしてしまうのが一般的。
「新しい出会いの調整者、まさにといった感じです」
うんうん頷きながらまた野菜の方を食べていると、黙々と舌に集中していたバイトくんがパッと顔をあげる。
「これ、最初は甘いと思って食べてみたら甘くなくって混乱しちゃったけど、わかって食べたらもっと美味しい…!野菜ごとにチョコソースの比率も違う…?ううん、同じ野菜でも部位ごとに一つずつ違うんだ…!!」
そういって持っているのはオレンジ色のかけらの飛び出たチョコポップ。
「へえ。まさかそこに気づくなんて、やるじゃあないか」
「そうなのですか?す、すごい…!」
一瞬驚いたように目を見張って、けれどまたにっと笑顔になってペツォッタさんが説明する。
「同じ野菜でも、根っこと葉っぱじゃ全然違うように、にんじんだって先のとんがったところと葉っぱに近い方じゃあ少し違う。まったく同じ配合じゃ合わないさ」
「なるほど…」
「とはいえ、そこまで気づくとは思っていなかったねえ。これ、もしかして種類オーバーになるかい?」
ペツォッタさんが用意しているのは、いちご、にんじん、苦瓜、レンコンの4種類。
けれど、彼女とバイトくんの言葉が正しいとして、配合がそれぞれ違うならそれは違う種類ということになるのだろうか。という疑問だった。
「それは…。そうですね、すこし確認してまいります」
「ああ、仕事増やしちゃってごめんね。アタシもちょっと考えが足りなかったな」
「いいえ!これは主催側でも確認し、協議して詰めておくべきでした!では、すみませんがすこし抜けますね」
お嬢さんがファセットさんに確認に行ってしまったので、とりあえず我々は彼女が戻って来るまで居座ることに。
せっかくなのでわたくしの舌で感じ取れるか分からないが、チョコポップを食べ比べることにした。




