「お腹ちゃぽちゃぽになりません?」
こういうイベントないかな…。
階段を下りて1階。
休憩所にはまばらに人がおり、様々な飲み物が用意されている。
「緑茶、烏龍茶、紅茶にコーヒー」
「シャンパンやブランデーもありますね」
「あ、クリスタルアップルの生絞りジュース!飲んでみたかったんですよう!」
たたたっ、と軽い足取りで駆けだそうとするバイトくんを捕まえてプレートを回収しておく。
さっそくジュースを取りに行ったバイトくんを置いて、ひとまず席を確保。
「さて、ハートさんはどうなさいますか?よろしければプレートは預かっておきますので、お好きな飲み物を取りに行ってくださって構いませんよ」
「はい、ありがとうございます。では…、そうですね、サペさんのおすすめのミルクにしようかな。温かい方が良いでしょうか?」
「ふむ。好みにもよるかとは思いますが、チャイのようなイメージで言うならホットミルクでしょうか」
「では、そうします!」
そっと席を立って飲み物を取りに行くお嬢さんの背を見送ってひと息。
ゆっくりと見回せば、広い休憩所の全体が見渡せる。
「休憩所、というにはやはり華美な気はしますね」
「あはは!しょうがないですよう!だってクリスタルパレスの中だし、ショコラトル・パレードの休憩所が質素だと釣り合わないじゃないですかあ!」
「おや、おかえりなさい」
「は~い、ただいま戻りましたあ!」
あ、これマスターの分ですぅ!と差し出されたグラスを受け取り、プレートの横へ置く。
「いやあ流石はクリスタルパレス!タダでクリスタルアップルのジュースまで飲めるなんて最高ですぅ!もらってすぐ飲んじゃって、これ実は2杯目です!」
「お腹ちゃぽちゃぽになりません?」
「それがグラスのサイズも大小あって、まず小さい方でいただいたので大丈夫です!これは大きい方のグラスですけど!」
弾けるような笑顔で楽しんでいるバイトくんに微笑ましいやら呆れるやら。
とはいえ、口直しと休息の意図を兼ねていると考えればグラスのサイズが複数あるのはなるほど道理にかなっている。…見たところ、わたくしのグラスのサイズも大きいようですが。
そんな風に談笑しているとお嬢さんもカップを手に戻って来る、が。
「あ、マスターさまとバイトさまの分もいただいてきちゃいました!」
「わあ、ありがとうございます!」
「おやおや、わたくしの分までありがとうございます」
「いえいえ!せっかくですから一緒に味わいたくって!」
トレーに3人分のカップを載せて戻ってきたお嬢さんからありがたくホットミルクを受け取る
とりあえず、各々グラスを手元に置いて。
「じゃあ、まずはサペさんのから!」
ぱくり。
口に広がるチョコレートの甘さに痺れるスパイスが溶け出す。すかさずホットミルクを含めば、口の中でまろやかに溶けて混じる。
「…ほう」
「ああ、これはたしかに合いますね」
「んぅ~!」
熱いミルクの熱でチョコがよりとろけ、スパイスは角が取れて調和する。
このチョコレート単体が刺激を冠するなら、この組み合わせはコクとでも言うのか。
「最高ですぅ~!!本当に来れてよかった…!」
「私も、こうしてお2人と参加させていただいてよかった。なんだかより美味しく感じますね!」
美味しいチョコレートを頬張ってにこにこ笑う2人に微笑み返し、口直しにアップルジュースを飲む。
これも爽やかで甘味があって、名産としても納得の味わいだ。
「次!わたしハーブティー取ってきます!!」
「まあ!では私は紅茶を」
「マスターは座って待っててください!」
「すぐに戻りますね」
美味しすぎるペアリングを味わったからか、次なる組み合わせを試そうと席を立つ。
そんな2人に声をかける間もなく、さっさと立ち上がってそれぞれ望む飲み物をもらいにいったのを席で待つ。
「やれやれ」
仕方がないので、手持ち無沙汰の時間を周囲を見回すことでつぶすことにする。
飲み物のブースを手伝っているのは、このショコラトル・パレードに参加したものの惜しくも予選落ち(ブルーム)となってしまったショコラティエ。
こうしてここでボランティアとして働けばショコラティエとしての本分を果たせない代わりに、期間中の会場立ち入りを許可されているそうだ。
彼らは評価者として招待されているわけではないので審査には関われないけれど、代わりにトップショコラティエの作るチョコレートを味わうことが出来る。この空気感を味わえることも含めて、希望者は多いのだとか。
「効率的ですよねえ、まさに」
そんな風に一人ごちていれば、同じようなタイミングで2人が戻って来る。
「さあ!次はどっちからにします?!」
「あ、紅茶はとりあえずキームンとウバをいただいてきました!」
得意げな2人と、テーブルにのせられた9つの小さなカップに笑いをかみ殺すように言った。
「では、順番にいただきましょう」
「はいっ!」
「はい!うふふ」




