「私に説明させてください!」
説明キャラは重要。
品評会の柔軟なブラッシュアップはもっと重要。
「それにしても、先ほどサペさんのブースでは置かれているチョコレートはおそらく1種類のみだったかと思うのですが」
「はっ!たしかに!」
「ああ、それは…」
「せっかくですから、私に説明させてください!」
セレスさんのご厚意に甘えてブース前で残る2種類をいただく。
ポリポリとチョコレートをはみながら疑問に思ったことを尋ねると、お嬢さんが説明してくれることに。
主催側で案内役、ということもあり、本職の彼女の話に耳を傾ける。
「このショコラトル・パレードの歴史、というと長くなるので割愛いたしますが…。ここ10年ほどで言うと、通信の発展に伴いこの催しに対する注目度が純粋に上がりました。その結果、業界のみならず一般消費者の方にも身近なイベントとなりました」
「なるほど」
よくある流れだ。
特に、通信機器やネットワークが普及し一般的なものとなり、情報の精度よりも鮮度が求められる今、前時代的な取り組みを時代に合わせてブラッシュアップしていかなくては、どんなに伝統がある大きな催しも廃れてしまう。
「昔は業界内のみでの品評であり、評価された後のものが各社の宣伝で店頭に並ぶという物だったのです」
「そうですね。私が参加する側になったのはここ最近のことですけど、以前は限られた店に招待状というか参加権が配られていて。別の大きなホールで審査した後、ここでトップ5店舗ほどが表彰を兼ねた実食会をしている、という感じだったとか」
「おお~!昔はそんな感じだったんですねえ!」
やさしい声で語られる以前のショコラトル・パレードの様子は、たしかに閉ざされた業界内のイベント、といった感じだ。
「それから年々、観客に解放するように変更がかかりました。場所を変え、期間を変え、評価者の層を変え」
「舌休めに休憩所を用意したり?」
「ええ。女性やお子様も来られるようになって、ずっと立ちっぱなしは負担が大きいということになって。そうしたら、休憩所で談笑されたりもするでしょう?そこからチョコレート単体での味の評価だけでなく、食べ合わせについても意見が上がるようになって」
「休憩所に持ち込んで食べられるようになった、といわけですね」
「とっても良いと思いますう!自分のペースでゆっくり味わえるし!」
「ふふ。そうですね、私もそう思います。チョコレートはどんな場面でも美味しく食べられるべきですから」
生産者の意見、消費者の意見によって主催側も柔軟に対応した結果ということでしょう。
実際、販売されればそうやってお茶会のお供にされたりすることは多いでしょうし。
「で、最初は各1種類のとっておきのチョコレートを持ち寄って決めるという物が、開催期間の延長や評価者・品評項目の変化によって、各自1種類では少ないのではないかと声が上がって…」
「複数種類を出してもいい、ということになったのですね」
「はい。具体的には、最大5種類まで。それを期間中ずっと同じように出していてもいいですし、時間帯で変えるのもいいとしています。評価側の参加者さまも1週間ずっといらっしゃる方ばかりでもありませんし、滞在時間もそれぞれですから」
ちなみに、サペさんのブースは時間帯で変わるそうですよ。と情報を補足される。
「じゃあ、また行きましょう!ね!マスター!」
「ええ。そうしましょう」
休憩所でのペアリングだけでなく、午後からのお楽しみが増えて大興奮のバイトくんがぴょこぴょこ跳ねて喜ぶ。
まさしく全身でショコラトル・パレードを楽しんでいる姿に、通り過ぎざまの他の参加者から温かい目が向けられている。
「うふふ。そんなに楽しんでいただけるなら私も嬉しいです」
「本当に。もっと広く開放したいという思いもあるのですが、これ以上は室温やキャパシティの問題もあって…」
「ああ、チョコレートは溶けるものですから」
「わたし、マスターのとこで働いててよかったですぅ!本当に!」
「ははは。喜んでいいんです?それ」
軽く談笑していると、少しずつ人の流れも変わってきたためこの辺りで次のブースへ行くことにする。
セレスさんに感謝の言葉を告げ、ブースを離れる。
「では、次どうしましょうか」
「う~ん、各階5店舗ですし、あと一つまわってから一旦休憩所に行きます?」
「賛成!」
「ではそうしましょう。バイトくんのために来たわけですし」
「んお、う、どうもです…!」
「ふふふ」
それぞれプロのショコラティエの中のトップの作るチョコレート。
口の中に広がる甘味はくどすぎず、甘いもの続きでしんどいということもないのだけれど、まだまだ時間はたっぷりある。急がずゆっくり楽しもう。
何やらもごもご誤魔化すように言ったかと思うと足早に次へと向かうバイトくんの背を追いかけた。




