「ここが…、聖地…!!」
開会式の準備のために一旦二人と別れ、案内された部屋で軽い荷解きを済ませて再度エントランスホールでの集合となった。
お互いの荷物はすでに部屋に運ばれていたため、部屋の広さと豪華さに少々目を見張りつつも本来の目的であるショコラトル・パレードの開会式に出るために必要な身支度を整えたらすぐに部屋を出る。
「あ」
「おや、ちょうどいいタイミングでしたね」
主催者でホテルのオーナーでもあるファセットさんから隣の部屋をあてがわれていたこともあり、部屋を出るタイミングでバイトくんも部屋を出てきた。
その装いは普段とは違い、繊細なレースのあしらわれたワンピース。腕には、部屋の鍵でありVIPの証でもあるというクリスタルのブレスレット。
「ま、ますたあ、わたしこれ、場違いじゃないですかあ…?!」
「まさか。とてもお似合いですよ」
「うう…!」
あわあわと目をぐるぐる混乱させて力なく問いかけるバイトくんに微笑んで返し、そっと手を差し出す。
「さあ、行きましょう」
「…ん、はい…!」
重ねられた手を軽く握り、歩き出した。
…もう少し照れたり慌てたりするかと思いましたけど、慣れない空間や装いに気を使いすぎたせいか安心されてしまいましたか。まあ、それはそれで。気づいたとき面白そうですし。
◇
エントランスホールは先ほどと違い、数組の招待客と思われる人々が談笑したりと思い思いに過ごしている。
「わあ…!やっぱりショコラトル・パレードに参加する人たち、みんな雰囲気ありますねえ!」
「そうですね。協賛となる企業やスポンサー、それぞれが大きな影響力を持つ人々ですから。なにせこの1週間で一年の栄光が約束されるわけですし」
「そうなんです!そもそもショコラトル・パレードに出場できる時点で狭き門を潜り抜けてきた猛者ぞろい!誰がその頂点に立つのか!とってもワクワクしますよね!!」
「ワッ!?」
自然に会話に混じってきた声に、ぴゃっと飛び上がって驚いたバイトくんが背に隠れる。
まさに猫のような俊敏な動きに声をかけた張本人ことハートさんが目を丸くして、すぐに謝罪する。
「すみません!驚かせてしまいましたね」
「いえ。バイトくんは少し反応が良くて…」
「ダ、ダイジョウブ、デス…」
「まあ!それならよかった!」
うふふ。
にこやかに笑うお嬢さんにそろそろとバイトくんも前へ出てくる。
「やっぱり!とってもお似合いです!」
「ん、へへ。ありがとうございます…」
まんざらでもなく頬を染め、照れ笑いするバイトくんにお嬢さんも満足げに胸の前で手を合わせて喜ぶ。
というか、
「おや、ではこの衣装はハートさんがご用意を?」
「ええ!お二人とも、とっても素敵です」
「ありがとうございます」
規模も大きく伝統的な祭典ということもあり軽いドレスコードが定められていたのだけれど、チケットの用意と共に一切を任せて欲しいと言われていたためご厚意に甘える形で身軽に参加させていただいた。
そのためスタッフの誰かが手配してくれているとは思っていたのだけれど、まさかお嬢さんが直々にご用意してくれていたとは。
「さあさあ!早速参りましょう!せっかくですから軽くクリスタルパレスの外周を回ってから会場入りしようと準備しておりますので!」
「クリスタルパレスの…!」
「我が国の誇る最高の美!簡単にではございますが楽しんでくださいね!」
そういったお嬢さんが合図すると、スタッフなのか従者なのか、クラシカルなメイド服を着た女性たちが馬車へと道を作る。
「どうぞ」
ありがたく道を通ってホテルの前に止められていた馬車へ。
白を基調とした洗練された美しい馬車だ。ところどころにクリスタルの装飾がちりばめられ、光を受けてきらめいている。
「あれ、馬車…?」
「クリスタルパレス周辺は景観の保持もあって移動は徒歩か馬車のみとなっております。もちろん、外では車が主流ですが」
「なるほど。クリスタルの幻想的な美しさを損ねないように工夫がされていらっしゃるのですね」
「そうなのです!世界観の統一、ということらしく。これも伝統ですね」
そうして馬車に乗り込み、均された道のおかげか馬車の工夫か。
安定感のあるゆっくりとした移動を楽しみ、とうとうショコラトル・パレードの開催地、クリスタルパレスへ正面から乗り付ける。
「ここが…、聖地…!!」
馬車を降りると、チョコレートの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
招待客らのざわめき、職人たちの熱が直に伝わって否応にも胸が高鳴る。
「わ、わあ…!!!マスター、わたし、ショコラトル・パレードに来てます!!すごい!これが世界一のチョコの祭典…!!!!」
髪をぴょんぴょん跳ねさせて大興奮のバイトくん。
微笑まし気なお嬢さんが手を叩くと、またメイド集団が現れて道を作る。
「お2人は特別招待客ですから、まずはこちらへ」
「?」
他の招待客らしき人々が開け放たれた大きな扉から入っていくのに対し、お嬢さんたちが示すのは少し離れた方向。
2人して首をかしげると楽しそうに笑って言う。
「ショコラトル・パレードに出場する職人たちの紹介、というか顔合わせですね。軽くではありますけれど」
“特別”招待客、とはそんなことまでしてもらえるのか。
おもわずバイトくんと顔を見合わせて驚く。
「うふふ。さあ、時間は有限ですよ!」
そういってお嬢さんは悪戯っぽく笑った。




