「この1週間!味わいまくりましょう!!」
「失礼します」
裏口、というにはきらびやかな通路を抜けてたどり着いた先。
リーダー格のメイドらしき1人残ったメイドさんが壁をノックして知らせながら入るのに続いて、ぞろぞろと3人連れだって入る。
ピリピリとした緊張感漂う一室で、出場者である職人さんたちの目線がこちらに集まる。
「みなさま、開会前に失礼いたします。先だって告知しておりましたが、主催者より直々にお招きした特別招待のお2人をお連れしました」
そう言ってお嬢さんが手で示すのに従って、一礼。
すると返すように、職人さんたちがそれぞれに自己紹介を兼ねて挨拶をしてくれる。
「どうも。わたくしは2階エリアで出店するウレキと申します。今回はよろしくお願いいたしますね、お2方」
服の上からもわかる、細身ながら鍛えられた肉体の初老の紳士。
「同じく、2階エリアの玉髄と言います」
神経質そうな硬質な雰囲気の男性。
「アタシはペツォッタ。2階エリアだよ。よろしくね」
赤茶の髪を高い位置で結い上げた気の強そうな女性。
「え、えっと…。2階エリアの端っこの方にいます…。サペです…」
大柄な体格に反しておどおどとした糸目の男性。
「2階はわたしが最後でしょうか。セレスと言います、よろしくお願いいたしますね」
穏やかそうな柔らかいブラウンの髪をみつあみにした女性。
「はいはい!あたし、3階のコスモでーす!よろしく~!」
白に鮮やかな差し色がいくつも入ったカラフルな髪の女性。
「隣の騒がしい方は置いておいて。わたくしはオーラ、3階エリアを担当しておりますわ」
「むかっ!」
張り合うように前に出るのは黒髪をすっぱりと切りそろえた女性。
「こっちのピンクいのがチューくん!」
「こっちの緑いのがニョーイ!」
「「よろしくね~!」」
おそらく双子の、そっくりな2人。そろって右目が赤く、左目がそれぞれピンクとグリーンのオッドアイ。
「モルガン。3階」
言葉少なにぺこりと小さく頭を下げる青年。オレンジがかったピンクのメッシュが目を惹く。
「3階のジェットだ。なんか今回3階が結構若いやつで固まってて肩見せまいよ。はは」
苦労人といった雰囲気の男性。たしかに他の3階の職人さんたちに比べると年かさに見える。
「そ・し・て~!三連覇を狙うスーパースターこと、ルチルちゃんだ~ぞ☆いえ~い☆」
最後に飛び切り明るく派手な女性。
前回、前々回と2回続けてショコラトル・パレードに出場しぶっちぎりでトップに輝くスター。その実力が認められ、クリスタルの名を関するクリスタルパルフェットというブランドを持つ優勝候補。
こうして並ぶと壮観だなと他人事のように思う。
大まかに分けて2階に熟練の職人が、3階に新進気鋭の若手が集められているといった印象を受ける。
「す、すごい…!感動です…!!ここに来れてよかった…っ!」
目を潤ませて感動に震えるバイトくんに、職人さんたちもまんざらでもなさそうに喜んでいる。
なごやかな空気を切り裂くように、お嬢さんが手を叩き場を支配する。
「はい!えー、開場前の貴重なお時間をありがとうございます。それではそろそろ開会の挨拶がありますので、出場されるみなさまはご移動の方、よろしくお願いします」
その声にぞろぞろと移動していくのを見送って、部屋に残った我々も開会式の会場へ。
◇
ざわめくフリルやレースの群れに混じって数分ほど経つと、ふっと会場の光が落ちる。前方に用意されたステージがライトアップされ、ファセットさんが壇上に立つ。
「みなさま、お越しいただきありがとうございます。今年もこうして無事にショコラトル・パレードを開催できますことを感謝いたします」
堂々たる振る舞いにそこかしこで人々の感心の声が漏れる。
「わたくしの話が長くなってはいけませんから、ここで早速今回のショコラトル・パレードに出場するショコラティエをご紹介いたします!」
そうして手を大きく広げると、ステージの左右から職人さんたちが上がってくる。
その壮観たる顔ぶれに、自然と拍手が巻き起こる。
「各階5店舗、そして前回、前々回覇者を含めた11店舗。5万を超える職人たちの中を勝ち上がってきた12名!」
わっと盛り上がる会場。
その熱気に負けない輝きを放つ12名のショコラティエ。
「彼らの作る芸術を、その目で、鼻で、舌で!」
「この1週間という長くも短い期間、余すことなく味わっていただきたく思います!」
「そして例年通り、残念ながら予選落ち(ブルーム)となってしまった職人たちの中からも有志を募り、この1階に休息所を設けております。ご自由にご利用ください…!」
「さあ!それではここにショコラトル・パレードの開会を宣言いたします!」
高らかな宣言と同時にパアンと触れれば解ける花吹雪が降り注ぐ。
ひときわ大きな拍手と歓声が鳴り響き、大喝采のなかに開会式が終わった。
◇
「…」
「バイトくん?」
三々五々と散っていく人々のなか。俯き、ふるふると震えるバイトくんの背をなだめるように手を伸ばすと、ばっと勢いよく跳ね上がる。
驚いて手を伸ばした状態で固まると、バイトくんはキラキラを通り越してギラめく瞳でこちらを射抜いた。
「マスター!」
「は、はい」
思わず後ずさるように1歩引くと、空いたスペースを埋めるように力強く踏み込んでくる。
「この1週間!味わいまくりましょう!!」
「え、ええ。もちろん…」
「うふふ」
1人燃えるバイトくんに、呆気にとられる。
そんな様をお嬢さんが楽しそうに笑って見守っていた。




