第7話:大富豪に買われたはずが、いつの間にか俺が一家の主人になっていた
~教育という名のマインドコントロール~
結局、あの睡眠不足の海賊どもから俺を買い取ったのは、コリントスでも一、二を争う大富豪のクセニアデスという男だった。
市場の誰もが俺を「関わってはならない全裸の怪老人」と遠巻きにする中、この男だけは「これほど他人に媚びない男なら、我が息子の家庭教師に最適だ」などと、贅沢のしすぎで脳が歪んだとしか思えない決断を下したのだ。
「いいか、ディオゲネス。我が家はコリントスの名門だ。息子たちには最高の礼儀と、学問を身につけさせたい。お前にはその手伝いを――」
豪邸に到着するなり、ふんぞり返るクセニアデスの頭上を、俺の【髑髏杖】が容赦なく赤く染め上げる。
【煩悩:九一〇(高級エリート教育への妄執、世間体、ブランド信仰)】
「カカッ! 礼儀に学問ねぇ。……おい、ガキども。ちょっとこっちへ来い」
俺はクセニアデスの言葉を無視し、奥から出てきた二人の可愛い息子たちを呼び寄せた。
お仕着せの高級なトガを纏い、お行儀よくお辞儀をするガキども。彼らの後ろでは、なぜか奴隷として一緒にセットで買い取られたパンタシアが、「ああ……名門クセニアデス家のご子息が、一瞬で不潔な思想の泥水にドブ漬けにされていく……!」と、すでに半泣きで頭を抱えている。
「お前ら、毎朝わざわざ冷え切った贅沢な絹服に着替えさせられて、美味くもない高級な山羊の乳を『マナー』とかいう謎のルールのために我慢して飲んでるんだろ?」
「えっ……う、うん。本当は、もっと動きやすい格好で泥遊びがしたいし、お水の方が美味しいです……」
「だろ? 構造的に見りゃ、お前らは『親の虚栄心』っていう重たい神輿を担がされてる奴隷だ。そんなコスパの悪い生き方は今すぐドブに捨てちまえ。ほれ、その邪魔な布、脱いじまえよ」
「なっ……貴様、我が息子たちに何を教えている――」
クセニアデスが顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。
ガキどもは一瞬、ビクッと肩を揺らし、その怒れる父親の顔と、全裸で堂々としている俺の姿を交互に見比べた。
いつもなら絶対に逆らえない父親の、見たこともないほどの狼狽ぶり――。
それを見たガキどもの瞳の奥に、ふっと、親の権威を小馬鹿にするような「ずる賢い光」が灯る。子供というのは、大人のパワーバランスを察知するのが何より早い生き物だ。
二人は顔を見合わせてニヤリと笑うと、次の瞬間には「はーい!」と元気よく高級な服を庭に放り投げ、全裸になって犬のように四つん這いで走り回り始めた。
「あああ! 息子たちが! 我が家の誇りが、ただの野良犬に――!?」
「カカッ! 勘違いするな旦那。服を着せて『人形』に仕立て上げるのが教育か? 違うだろ。余計な建前(偽金)をひっぺがして、何が起きても『死にとうない』と自力で生き残れる野生の犬を育てることこそが、本当の『自立』ってモンだろ? ポクポク、チーン」
翌日から、クセニアデス家は地獄、あるいは極楽へと変貌した。
高級な絨毯はすべて引っぺがされて「座禅スペース」になり、一休流のトンチを仕込まれた子供たちは、挨拶代わりに客に向かって「お前の中身、カボチャだな!」と論破を仕掛ける最強のミニ狂犬へと急成長を遂げた。
食事も、一休が適当に庭の雑草を混ぜて作った「一休粥」を、子供たちは「これぞ自然の味!」と美味そうに貪っている。
「……嘘でしょ。購買者である主人の『教育への執着』を逆手に取り、子供たちの野生を解放することで、家庭内の権威構造を完全に無力化してしまったわ。これは、既存の価値(通貨)をすべて改鋳し、所有そのものを無意味化する究極のキュニコス的統治……! って、私なんで大富豪の家庭崩壊をこんなにロジカルに大絶賛してるのよ!? もう嫌、このジジィの半径5メートル以内、本当に常識の更地じゃないのよ……っ!!」
もはや自分が大富豪なのか、一休の飼い犬なのか分からなくなったクセニアデスは、「我が家なのに……俺の居場所がどこにもない……」と涙を流して一休粥を啜るのだった。
ポクポク、チーン。
【今日の狂歌】
金払い 主人となった その家で
首輪をつけられ 粥を啜るか
【あとがき】
子供を立派に育てたいなんて親の執着にすぎませんが、余計な飾りを全部ひっぺがして全裸で泥を走らせてやりゃ、勝手にたくましく育つもんです。
高い月謝を払って「偽物の賢者」を仕立て上げるより、タダで「本物の野良犬」を飼う方が、よっぽど安上がりだと思いませんかねぇ、旦那。
【次回予告】
次話:『世界を征服した最強の覇王が「何でも望みを言え」とドヤ顔するので、とりあえず「邪魔だからどけ」と言ってみた』




