第3話:アテナイの権威(プラトン)が「人間とは羽のない二本足の動物である」と定義したので、毛を抜いた鶏を百羽叩きつけて「人間(笑)」を大量納品してやった
学問の聖地、アカデメイア。
そこでは今、アテナイ最高の知性・プラトンが、弟子たちの熱い視線を浴びて「真理」を説いていた。
「……諸君、長き沈思黙考の末、私はついに『人間』の本質を言葉にすることに成功した。人間とは――『羽のない二本足の動物』である!」
おおおっ、と講堂がどよめく。
最前列で筆を走らせるパンタシアは、感動のあまり、その華奢な肩を震わせていた。
「なんて完璧な定義……。無駄を削ぎ落とし、イデアの核を射抜いているわ……!」
だが、その感動の静寂は、乱暴に蹴破られた門の音によって粉砕された。
「おーい、プラトン先生! 注文の品を持ってきてやったぜ!」
全裸に髑髏の杖という、存在自体が不敬な男――一休ディオゲネスが、巨大な檻を大八車に乗せて乱入してきたのだ。
俺の右手の髑髏が、プラトンに向けて鮮やかな赤文字を吐き出す。
【煩悩:九百九十(完璧主義、定義への固執、後世への虚栄心)】
「一休、あなた何て格好で……! 今、プラトン先生が歴史的な定義を発表されたところなのよ!」
パンタシアの絶叫を、俺は鼻をほじりながら聞き流した。
「ああ、知ってるぜ。『羽のない二本足』だろ? だからよ、市場で『人間候補』をありったけ集めて、使いやすいように下処理っておいてやったぜ。……ほれ、納品だ!」
俺が檻の閂を外した瞬間――。
「コケコッコーーーーー!!!」
という、阿鼻叫喚の鳴き声と共に、毛を一本残らず毟られた百羽の「全裸鶏」が、講堂へ一斉に解き放たれた。
ピンク色の生々しい肉塊たちが、バタバタと走り回り、高価な写本を糞で汚し、高名な哲学者たちの頭を足蹴にする。講堂は一瞬にして「ピンク色の地獄」と化した。
「な、なんだこれは!? 何をしている、ディオゲネス!」
教壇に駆け上がってきた鶏に裾を掴まれ、プラトンが顔を土気色にして叫ぶ。俺はニヤリと笑い、一羽の鶏をひっ捕まえてプラトンの鼻先に突きつけた。
「ほら先生、よく見てみな。羽はねぇ。二本足だ。先生の定義によれば、こいつらは立派な『人間』様だろ? ……さあ、アテナイの新入生諸君だ。挨拶しなよ、ポクポク、チーン」
プラトンは、目の前で虚ろな瞳をして鳴く鶏を見つめ、ガクガクと膝を震わせた。
彼が積み上げたイデアの塔が、ピンク色の肉塊によって砂の城のように崩れ去っていく。
「わ、私の……私の生涯をかけた定義では……この、この間抜けに鳴く鳥どもが……間違いなく……『人間』だというのか……!?」
ガシャーン、とアテナイ最高の知性が音を立てて砕け散った。
それを見ていたパンタシアも、虚空を仰いで膝をつく。
「……そうよ、先生の論理は完璧だわ。羽がなく、二本足……。つまり、今この講堂にいるのは、百人の『全裸の新入生』なのよ! ……ああ、私は今まで講義ではなく、焼き鳥のレシピをメモしていたのね……っ!!」
知性の更地。そのど真ん中で、俺は髑髏杖で器用に焚き火を熾し始めた。
香ばしい、脂の焼ける匂いがアカデメイアに充満する。
「カカッ! 案ずるなパンタシアちゃん。言葉が死んだら、次は『肉』を味わう番だ。定義を食っても腹は膨れねぇが、こいつを食えば命になる。……ほれ、プラトン先生も一口どうだ? アンタの『人間(定義)』は、塩で食うとなかなかイケるぜ?」
知性が崩壊した虚ろな瞳で、差し出された手羽先を反射的に受け取り、無心でかじるパンタシア。
アテナイの空に、高潔な哲学の代わりに、香ばしい焼き鳥の煙がどこまでも高く昇っていった。
【今回の狂歌】
「人間を 定義で縛る 愚かさよ むしれば同じ 肉の塊」
【あとがき】
どうも、一休です。プラトン先生の定義があまりに綺麗だったので、ちょっと「下処理」をお手伝いしました。
形にこだわると中身(肉)を見失う。これ、何事にも通じる真理ですな。
ちなみに、この後スタッフ(弟子たち)がおいしくいただきました。
【次回予告】
次回:『樽住まいの何が悪い? 家賃0円、税金0円、ついでに羞恥心も0にしたら人生のステータスがカンストした件』




