第11話:最後に「まともな人間」は見つかったか? 杖と髑髏と樽だけを持って、俺は次の「無」へ向かう
かつて俺が数々の権威を更地にしてきたコリントスの街は、今や、見るも無惨な「地獄」へと変貌を遂げていた。
どこを見渡しても、全裸の男たちが我が物顔で樽に座り込み、虚空を見つめている。
俺の「裸で樽に住む楽さ」を真に受けた知識人や貴族たちが、「これぞ最先端の思想トレンド!」と勝手に盛り上がり、街中で『全裸樽チャレンジ』を流行らせていたのだ。
【煩悩:二五〇〇(ミニマリズムという名の自己顕示欲、高級ブランド樽への執着、いいねが欲しい)】
しかもタチが悪いことに、奴らはただ真似をするだけに留まらなかった。
「お前の樽はノーブランドの杉材だな? 俺のは特注の高級ヒノキ樽だ。無所有の格が違う」
「正しい全裸の座り方はこうだ。お前の角度はまだ羞恥心が残っている」
「誰が一番ディオゲネス師父っぽいか選手権、今週のインフルエンサーランキング!」
――反権威という名の、一番醜い新しい権威(マウント合戦)。
執着を捨てるための全裸が、最高の自己顕示欲の道具に成り下がっていた。
そんな現代のSNSタイムラインのようなノイズにまみれた空間に、コン、コン、と乾いた足音が響く。
俺は立ち上がり、愛用の【髑髏杖】を引っ掴んだ。
その髑髏の頭には、かつてアテネの市場で振り回し、今や完全に干からびて異臭を放つ「カボチャのランタン」がすぽっと悪趣味に被せられていた。
俺は、カボチャの眼の穴から漏れる不気味な髑髏の火を灯し、全裸マウント信者たちを一人ずつポクポクと照らし歩いた。
「おおお! 聖者様! 私のこの至高の無所有の構えを見てください!」
信者の一人がドヤ顔でアピールしてくる。俺はそいつをカボチャの光でじっと照らし、真顔で吐き捨てた。
「いねぇなぁ……。どいつもこいつも、服と一緒に『羞恥心』を脱ぎ捨てて、代わりに『ドヤ顔』っていう一番重くて邪魔なヨロイを着込んでやがる。お前ら、何でそんなに必死なんだ? 気持ち悪ぃ……」
本気でドン引きする俺の一言。その瞬間、信者たちの頭上の数字が、測定不能の狂気へと裏返った。
【煩悩:????(聖者からの直々の『喝』への歓喜、極上のマゾヒズム、新興宗教の確立)】
「あああっ! 聖者様から直々に『気持ち悪い』という名のお叱りをいただいたァァ!」
「これぞ真の無所有の試練! ありがたや、ありがたや……っ!」
号泣しながら地面に額を擦りつけ、勝手に拝み始める全裸の群衆。
「嘘でしょ……!」
その背後で、完全に魂が抜けかけたパンタシアが、頭を抱えて泡を吹きながら絶叫を始める。
「ただの不審者なニート生活がトレンドとして消費された結果、一番タチの悪い新興宗教が爆誕してるじゃないのよ! ただでさえ不気味な【髑髏杖】にあの時の悪趣味なカボチャを被せるなんてどんな変なギミックよ! でも、あの薄汚い光が当たった瞬間、信者たちの着飾った無所有がただの自己顕示欲のドブネズミみたいに惨めに透けて見える……! 思想が流行に変わるこの最悪な地獄絵図を、なんで私はこんなに完璧にリアルタイム実況分析してるのよぉぉぉ!!」
神輿に担ぎ上げられ、今にも巨大なお寺(権威)が建ちそうな気配に、俺は心底嫌気が差した。
「勝手に拝んでろ。ここにいると空気が淀んでいけねぇ。俺は次の『無』へ行くわ」
俺はカボチャを被った髑髏杖と、愛用の樽だけをひょいと担ぎ、涙ながらに縋り付く大王や信者たちを完全に無視して、スタスタとギリシャの国境へ向かって歩き出した。
これこそが、俺の『最後の放浪』だ。
「あ、ちょっと待ちなさいよジジィ! カボチャの汁が私の足に垂れてるわよ! 待てって言ってるでしょ、私を置いていくなー!!」
世界で唯一、俺を神格化せず「ただの狂ったジジィ」として正しく認知しているツッコミ役だけが、慌てて俺の背中を追いかけて走ってくる。
こうして、俺は自分自身という最大の権威すら更地へと置き去りにし、本当の「真の無」が待つ、全12話の最終決戦の地へと向かうのだった。
ポクポク、チーン。
【今日の狂歌】
裸にて 樽に住むとも ドヤ顔の
ヨロイ着てなば ただの変質者
【あとがき】
「物欲を捨てて丁寧な暮らしをしてる俺、高尚でカッケー」とか思ってる時点で、頭の中が特大の執着でパンパンです。
他人の目を気にして「正しい無所有」のマウント合戦に必死になってる暇があったら、自分の物差しで、今日という命を100%貪り尽くす方がよっぽどコスパが良い生き方だと思いませんかねぇ、旦那。
【次回予告】
次話(第12話・最終回):『一休ディオゲネス、ついに宇宙の前提を更地にする。神々すらもドン引きした、本当のグランドフィナーレ!』




