埋もれる
今までにもらった誕生日プレゼントは、殆ど玩具。ネックレス、イヤリング、指輪、腕輪も全部玩具。中学生になった時、玩具じゃなくてちゃんとしたアクセサリーをあげると言われたが、丁重に断った。
柚葉は”物”がほしいのではない。その人が自分を思って選んでくれている”時間”が欲しかったからだ。もちろんその上でそこそこの値段のものを選んでくれているのならありがたく頂戴するが、正直何をもらっても嬉しいのなら、何でもいいと思っていた。
「ご機嫌だね、ユズハちゃん」
「え?そうですか?」
「だってなんか顔がホクホクしてるし」
ルナに言われて気が付いたくらい、自分では無自覚だった。
確かに頭の中ではルンルンでパッピバースデートゥーユーと歌を歌っていた。誕生日ではないが。
「そんなに嬉しかったんだ、その髪飾り」
「・・・あ、そう、ですね・・・」
「え、違うの?」
「あっ、いえ、多分そうです」
「多分?」
そうか、こんなにスキップしそうに足が浮足立っているのは、アリスにこの髪飾りをもらったからなのか。言われて見ればそんな気がする。自分でも分からなかったのに、ルナには分かるなんて、やはり彼は優秀な医者で研究者なんだと柚葉は一人で納得していた。
「でも、こんな高価なもの本当によかったん・・・で、すか・・・アリスさん?」
いくら王族で金持ちだからとはいえ、国を離れる旅にそんな大金は持ってきていないだろう。クレジットカードがあるとも思わないが、そういえばあの店の店主は女性で、アリスに目をハートにしていたから、もしかして顔パスだったのだろうか。確かめるためにも、いつの間にか柚葉達の後ろを歩いていたアリスを振り返るが、そこにその姿はなく、ただ賑わう人が行き交っているだけだった。
「・・・・っ、ルナさん!アリスさんが迷子!!!」
「え?あ、いないね。どこ行っちゃったんだろ」
言われてルナも辺りを見回すが、無駄に目立つあのイケメンオーラはどこにもない。近くを歩いているのならすぐに分かるのだが。
「はぐれちゃったんでしょうか。ああ、やっぱりアリスさんにリボン繋いでおけばよかったですね・・・今頃不安で泣いていたらどうしましょう?」
「落ち着いてユズハちゃん。それはそれで面白いけど」
わたわたしている柚葉をルナが肩を叩いて宥める。よく考えてみればアリスは柚葉よりも年上で、日本で言えばもうすぐ成人だ。しかももう十分に社会経験をしている超先輩だ。心配するほどのことはない。
きっとグレンのように何か思い出して仕事でもしているのかもしれない。柚葉を放っておくのは珍しいが、ルナが一緒だっただからだろうか。
「これはユズハちゃんを任せた、ということなのかな?」
「私をお願いします」
「自らかい」
ルナがいつそんなにアリスの信用を勝ち取ったのかは分からないが、アリスもグレンもいない今、柚葉の身を任せられるのはルナしかいない。世話を焼けとは言わないから、せめて殺されないようにだけして頂ければバイト代だって考える。アリスが。
「まぁ、見捨てはしないけど。・・・交信魔法でも使えば居場所くらい分かるんだけど、俺あんまりあれ得意じゃないんだよ」
どうやら人には魔法の種類によって得手不得手があるらしい。それは魔力の質だったり、本人の技術や実力によるものだが、ルナは広範囲に行き渡らせなければならないような魔法が苦手だと言った。交信魔法はその最たるもので、対象者の位置を特定できないため、半無限の範囲で魔力を使うことになる。もちろん、ある程度その場所が分かっていたらその分使う魔力も少なくて済むし、簡単にもなるのだが。
「今日まではここに泊まる予定でしたから、宿に戻ればいずれ会えると思いますし、グレンさんも戻ってくるでしょうから、もしアリスさんが戻ってこなくても、グレンさんにその交信魔法とやらをしてもらいましょう」
確か以前にアリスがグレンを呼び寄せたときは交信魔法を使ったとアリスが言っていた。発信する方は元より、受信する方もその能力が必要らしいので、グレンも使えるはずだ。
「そうだね。ま、いざとなれば俺も使えなくはないから、その時は使うよ。その後へばっちゃうだろうけど」
とりあえずはせっかく出てきたのだし、町をもう少し見回ろうということになった。もしかしてアリスも一人の時間を楽しんでいるかもしれない。
それにしても、昼が近くなったからか人が混んできた。身体を傾けて進まなければならないほどだ。ルナが手を繋いでいてくれるからかろうじてそこにいてくれることが分かるが、これではもし違う人と手を繋いでいても気付かないだろう。
「大丈夫?ユズハちゃん。いる?」
「・・・っ、はい、大丈夫で・・・・あっ!」
「どした?」
固まった人混みとすれ違った時だった。人の間を通った拍子に、するっと髪飾りが落ちてしまったのだ。反射的に手で止めようとするが、あと少し反射神経が足りなかったみたいだ。
「ごめんなさいルナさん、ちょっと待っ――――――――・・・・」
早く拾わなければ踏まれてしまう。土まみれになってしまう。
左手は髪飾りに手を伸ばし、右手を繋いでいるルナに声を掛けた。
はずだった。
「・・・・・あれ?」
左手は髪飾りをちゃんと握ることができたが、右手は空っぽだった。




