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生贄の救世主  作者: 咲乃いろは
第六章 揺れる旅路
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万華鏡の影

音がこもる世界。


コポコポコポ、と全身から空気が抜けていく音だけがよく聞こえる。


のしかかる圧力が強すぎて、身体が異常に重い。

動かすことも億劫で、ただ揺蕩うままに光指す水面をぼーっと見つめていた。万華鏡を見ているみたいで、幻想の世界に連れてこられたようだ。


視界が狭くなっていくにつれて、不思議と息は苦しくなくなってきた。

呼吸が出来ているわけではない。

だがその状態があまりにも楽で、そのうち身体が水の中に溶けてしまうんじゃないかと思えてきた。




だんだんと遠くなっていく水面。




光も届かなくなってきたのに、身体は一向に地面に辿り着かない。








底が、ないみたいだ。









(―――――・・・・あ、れ・・・・)







あと僅か。


あと僅かしかない視界の遠くで、動く影を見た。


多分魚だろう。




こちらに向かって姿を大きくしてくる。




もしかして、鮫かもしれない。


ああ、食われるのか。




また、食われるのか。







―――――違った。







ミノリユズハが食われるのは初めてだ。

















ま、どっちでもいいや。







こんな肉付きの悪い身体、食っても美味しくないだろうけど、腹の足しにくらいにはなるんじゃないだろうか。水に溶けてなくなってしまうくらいなら、魚の生命活動に貢献してやるのもいいだろう。


こちらに向かって腕を伸ばしてくるような影を、柚葉はその身を差し出すように右手をそこへ彷徨わせた。


魚に手なんかあったかは忘れてしまったが、それは柚葉の手をしっかり掴むと、水の抵抗も虚しくぐっと自分の方へ引き寄せた。








もう意識を手放してしまって、夢の中なのか。


だって、柚葉の好きな、あの紅茶の香りがするんだ。


水の中で息をすることなんて出来るはずもないのに、柚葉の小さな身体を包んで離さないその影からは、彼の匂いがする。


霞む視界を遮るように、それは目の前いっぱいに広がって、だらしなく半開きだった口を塞いだ。











(・・・・何・・・・?)











ふっと口元から空気が差し込まれる。


それは全身を巡り、少しだけ意識をはっきりさせてくれた。


重い身体はそのままだが、柚葉の身体を包む影が何なのか理解するには十分で。







(―――――・・・・ア、リスさん・・・・?)







暗い水中でも分かる、目を溶かしてしまいそうな綺麗な顔が、そこにある。








彼は柚葉の目が自分を捉えたのを確認すると、光指す方へ昇っていった。





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