転生者
多分、驚愕の声をあげなかったのは、ザギの言葉の意味が理解できていないから。
もしくは、その声さえ出す方法を忘れてしまったから。
「ユズハちゃんが・・・・転生者・・・?」
代わりにそう言ってくれたのはグレンだった。彼だって疑念しかない表情である。それでも、この場で一番冷静なのは彼かもしれない。
「そんなことあるわけない。お前だってユズハちゃんが異世界人だってことくらい、掴んでるんだろ」
そう、異世界人である柚葉が、どこをどうしたら魔力の祖とそんな関係になるのか。ついこの間までごくごく普通に、平凡に、呑気に女子高生ライフを過ごしてきた一般人が。
誰が、何の、何だって?
「当然。生贄でこちらに来てんでしょ?それだけでも楽しめたんだけどね」
ザギの核心を突かない物言いにじれったさが増す。
「転生者は何もこの世界に現れるとは決まっていない。純血種とは違い、血縁ではないのだから」
「・・・魂が異空間をさ迷ったとでも?」
「御明察。何らかの原因で空間の歪みに入ってしまった魂は、落ち着くところを求めて、その世界で器を探した」
「それがユズハだということか」
柚葉の隣で、ギリッと歯を鳴らしたアリスが、ザギを睨みつける。
驚いているというよりは、苛立っていると言った目。ザギに対してはもちろんなのだろうが、それよりはその話に焦燥の色が浮かんでいた。
「仮にそれが事実だとして、ユズハちゃんが転生者の証拠はない」
「証拠?」
何を馬鹿なことを言っているのかと言い出しそうに、ザギは片方の口端を吊り上げて歪んだ笑みでグレンを嘲笑った。
「ふははははっ!君は馬鹿なのかい?アステリア国王室御用達密偵のグレン=マルガートくん?」
ザギの馬鹿にしたような挑発にはグレンはは反応しない。全く表情を変えずに、ただ僅かに目を眇めただけだ。
「証拠なら君らが一番確認しているだろう!?ミノリユズハのその魔力!そして見たんだろう?」
ザギの赤黒い瞳が、柚葉の姿を捉える。
だが、その瞳に映るのは柚葉でも、見ているのは柚葉の奥にある魂だ。
「記憶を」
そうだ。
あれは、夢なんかではない。
気付かない振りをしていただけで、そんなの最初から分かっていたことじゃないか。
柚葉のものではない感覚、視覚、心。
冷たいのも、寂しいのも、痛いのも、辛いのも、全て魂が叫んでいたものだ。
答えを避けて目を背けていたのは柚葉自身の責任かもしれない。
「その様子だと、アリス殿下は一足先に気付かれていたようですねぇ?」
「!」
「・・・・・・」
柚葉の肩がびくりと揺れる。
ゆっくりとアリスに目を向けるが、視線が交わることはなかった。彼は動揺を見せず、それだけで射殺せそうな目を未だザギに向けているからだ。
「そんな早くに気付いたわけではない。お前が置いていったあの本を見てからだ」
「おや?バレてました?」
意外、と言いながらもザギは楽しそうに笑みを絶やさない。
いよいよ柚葉には話についていけなくなりそうだ。自分の事を話しているのに、自分には関係ないような不思議な感覚。
「お前の臭いがプンプンしていたからな。第一、あんな所にあんな本があること自体が怪しすぎるんだよ」
「ふふっ・・・まあ気付いてもらうつもりで置いたので、俺としては満足行く結果ですよ。噂通り、第一王子に次ぐアステリア第二王子もさすが聡明でいらっしゃる」
じゃあ何か。
全てザギの思い通りで、柚葉達は奴の手のひらの上で踊らされていたというのか。
ようやく、アリスがザギに向ける視線の本当の意味が分かった。踊らされてると分かっていて、今はそうするしか真実を掴む方法はなく、踊ってやった。それさえも計画通りだと言わんばかりのザギの顔は、鈍器で数万回殴ったってすっきりしないだろう。
「お陰で分かったでしょう?ミノリユズハを苦しめている原因が」
「阿呆言え。確信を持ったのはさっきのユズハの言葉を聞いてからだ。ユズハが魂の記憶を口にしなければ全く確定要素ではない」
「それでもお役に立てたようですし。光栄ですよ殿下」
手を胸に当て腰を折るザギは、およそ敵だとは感じれない丁寧な動きで、柚葉達の琴線に触れていく。
「まあ、俺も確信が欲しかったのは一緒だけど」
顔を俯けたままザギはそうぽつりと漏らし、それから顔を上げる。
その瞬間、ざわりとした空気が辺りに立ち込めた。
笑みは張り付いたまま。
目は相変わらず笑っていて笑っていない。
変わったのは、纏った殺気だ。
柚葉の心臓の音が自分の鼓膜に響いてくるのは当然だ。
それが、アリスでもグレンでもなく、柚葉に向けられているのだから。
「まだまだあなたは未完成ですけど、まあいいでしょう」
刹那、ザギの顔から全ての色が消えたのは気のせいか。
彼の目が柚葉の胸に注がれているのは、それは柚葉の気のせいだ。
「こっ、これからなんですー!」
「雰囲気も流れもぶった切って平常運転できるユズハちゃんは、それはそれで魅力だと思うよ、俺は」
「それはどうも」
「褒められてないからな」
まだ成長期はやってくると信じている。和葉にだってあれだけのものがあったんだから柚葉にあってもなんら不思議ではない。夢も願いも信じればいつか叶う。
「できればちゃんと曲線がある身体の方が、俺は個人的には良かったけど、そこまでは欲張らないから安心してよ」
「どの辺をどう安心すればいいの!」
「いいからお前下がってろ」
徐々にディスられてる状況に、前のめりになっていく柚葉をアリスが自分の後ろに追いやる。
柚葉の身体などすっぽり埋もれてしまう広い背中。
「殿下はもちろん手に入れたいですけど、今日はそちらが目的地なんで」
ザギの目線がアリスの後ろに注がれる。
「男には興味ないね」




