捜し求めたそれ
やはり砂漠の近くだけあって、国中が基本的に暑い。日本のようなじめじめとした暑さではないものの、照り付けてくる太陽の熱が他国より高い気がするのは柚葉だけだろうか。小さいころから中より外で遊ぶ派だった柚葉は、夏バテなど何ソレオイシイノと思っているのだが、年を重ねるにつれ、必然と屋内での生活が主になってくる。気温が暑いことに対しては耐えられるのだが、この日本では味わったことのない日の熱さは、肌が悲鳴をあげていた。
「うっわ、真っ赤だよユズハちゃん」
「え?あー・・・そういう体質です。日に焼けると黒くはならずに赤くなっちゃうタイプ」
砂漠にいたときも結構な赤さになっていたのだが、あの時は予測もできて分厚いローブを羽織っていたからある程度は防げていたし、皆歩くことに必死だったから大して気にも留めていなかった。ただ、今は町を抜けて丘を越えているだけだ。砂漠での道のりが過酷すぎて油断していた。慌ててローブも被ったのだが、間に合わなかったようだ。
「ユズハちゃん肌白いもんねぇ。女の子らしくていいとは思うけど」
「実際はメラニン色素が少ないために、黒くならない方がダメージは大きいと言いますけどね」
ローブから見え隠れする柚葉の腕、首、頬は林檎の赤さになっている。見ていて痛々しいのだが、本人的にはただの日焼けだから、大したことはない。ただ、ジリジリ焼けている音がしそうで若干の恐怖はあるが。
「まあ、明日は気を付けます。暑いけどローブ被らなきゃ茹でタコになっ…アリスさん、私の腕を焼いて食う気ですか」
左腕を引っ張る違和感があると思ったら、アリスがローブから柚葉の腕を引っ張り出している。直に太陽の光を浴びる左腕は数秒の間でも食べごろになりそうである。
「食うかよ。お前じゃないわ。カニバリズム肯定派でもない」
「カニは美味しいですよ」
「何の話をしている」
柚葉に受け答えしながらも、アリスの目は柚葉の左腕をまじまじと見ていた。毛繕いでも始めそうだ。
「それじゃ一体何なんですか。焦げそうなんですけど」
「・・・お前、左腕に違和感はないか?」
「え?」
違和感。
アリスにそう真剣な目で言われて、柚葉はドキリとした。自分でもそうなったことに驚いてしまったのは、自覚はないが何かを感じていたからだ。
それが違和感だというのなら、そうなんだと妙に納得いってしまった。
「なん、で、」
「左腕から妙に大きい魔力を感じる」
「大きい魔力・・・?元々私の魔力は大きいんじゃなかったんでしたっけ?」
「それはそうだが、イヴァンが調整しただろ。前にやったように危険を冒して蓋さえ開けなければ、膨大な魔力も普段は抑えてるはずだ」
恐らくアリスは、ラウズガードがいた村で柚葉の魔力を提供したときのことを言っているのだろう。なるほど、あの時は危険だったけど、その事は知らされずに抑え込んで閉めていた蓋を開けたのか。なるほどなるほど、殴りたい。
「それが今は漏れ出るように左腕から結構な魔力を感じる。だから違和感はないかと聞いたんだ」
「違和感・・・。ちょっと腫れている感というか、圧迫感というか・・・日焼けしちゃったからだと思ってましたけど」
「いつからだ?」
「ええ?いつからと言われてもー、宿を出た時くらいから・・・・・あ、」
記憶をアルバムを捲るように遡っていくと、一枚の画で映像が止まった。
思わず漏れた声に、アリスとグレンが首を傾げる。
「あー・・・、ハンナさんと握手した時・・・でしょうか」
「何?」
「ハンナちゃんと?」
あの時感じた沸騰した血液。
それが鳴りを潜めてはいるが、うまくいかなくて無理矢理大人しくしている感覚。ぐつぐつと、そこにマグマ溜まりができているような。このマグマが魔力だというのだろうか。
「そういえばハンナちゃんと話したときも柚葉ちゃん左腕押さえてたし、ハンナちゃんも左腕がどうこう言ってたね」
「左腕に何かあるのか・・・?」
ようやく離してくれた左腕を、柚葉はローブの上から擦る。ちゃんと動くし、感覚もあるし、痛いわけでもない。気に留めなければ気付かないものなんだろうが、気付いてしまえば気持ちが悪いものでしかない。
柚葉には身に覚えはないのだが、左腕に何かがあるのは確かだ。
「私、ハンナさんと会ったことあるって言いましたよね・・・」
「結局事実確認はできなかったけどね」
「はい。でも、実際は、会ったことある訳ではなかった気がするんです」
「はあ?一体何を・・・」
アリスは眉を顰めるが、柚葉が思いのほか必死に考えている表情だったので、口を噤んで次の言葉を待っている。
「会ったことあるというより、捜していたものを見つけた、といった方が適切なような気がします」
大した意味の相違はない。あくまで感覚の問題だ。
分かってる事実がハンナに会ったことはないということであれば、柚葉はハンナを捜し求めていたというのか。
「捜していた・・・?」
「いや、あくまでそんな感じ、です。すみません、曖昧で・・・」
適切な言葉が見つからなくて、自分でも歯痒い。言葉が見つからないというか、ハンナに感じた違和感がなんなのかが分からないのが、一番もやもやとする。
「・・・痛いのか?」
「え?あ・・・いえ、なんともないです」
無意識のうちに左腕をローブに皴が寄るまで握りしめていたのか、アリスの探るような視線がそこへ下りたのに気が付き、パッと手を離した。
しばらくは納得いっていない表情だったが、大丈夫と繰り返してやっと信じてくれたようだ。
「少しでも異変があったら言えよ」
「あ、はい」
「言わなかったら前髪残しハゲの刑な」
「いやだ!」




