ニセモノの役目
親から誕生日プレゼントを貰えるのは高校卒業までだと約束されていた。小学生までは玩具、中学生以降は現金というのが日本人学生の習わしだと思っている。だが、柚葉は違った。小学生の頃は皆と同じように玩具を買ってもらっていたが、中学生になってもそれは変わらなかった。もちろん、玩具が欲しかった訳ではない。兄や和葉には散々馬鹿にされていたが、それでも玩具を強請った。さすがに部屋の中が夢の国のようになってきたので、高校生からは玩具のネックレスや指輪など、小さいものに変わった。
「誕生日?」
「そうですよ・・・年に一度の生誕パーティー・・・」
「子どもじゃあるまいし、プレゼントなんぞもらえなくても我慢しろ」
項垂れている柚葉に容赦ない言葉を放つアリスをキッと睨む。アリスはまさかそんな呪うような目を向けられるとは思っていなかったのか、一瞬たじろいだ。
「だって・・・!プレゼントは大事なものですよ!」
「はあ?」
「くれる人の思いが具現化したものですよ!」
柚葉は何が欲しいかと問われても、玩具としか答えなかった。きっと訊かれているのはもっと具体的なものだということは分かっていたのだが、あえてそう答えていた。それは、相手にできるだけ多くの選択肢で選んで欲しかったから。柚葉は玩具が欲しかったのではなく、相手の選んでいるその時間が欲しかったのだ。
「よく分からんのだが」
「この冷血漢!」
「今の会話のどこに冷血漢要素があった!?」
熱弁を繰り広げてもアリスには全く伝わらなかったが、別にいい。日本でも同じ扱いをされてきたからもう慣れている。
それよりも、柚葉が訊かなければならないことはまだある。
「それで、私は今後どうすれば・・・神官様、お導きを」
「ユズハ、神官を神様か何かと勘違いしてない?」
「・・・・・・してません」
「してたね」
バレた。
そうは言われても、神官なんて日本にはいないし、小学生の頃に読んだファンタジー本から得た知識だけで、実際何をする人かは分からない。名前を呼び捨てにされて美形と距離が近くなった気がして嬉しいが、物事の理解の距離は一向に縮まらない。
「神官は神に仕える者。人を直接導いたり、人の運命を決めたりはできないんだよ」
「でも私が、というかお姉ちゃんがここに来ることは知っていたんですよね?」
「お告げがあったからね」
神官とは有事の際に神からのお告げを聞き、人々の手助けをしていく。神の言葉を聞くのはそう容易くはないらしいが、滅びの年になると必ずお告げがあるという。それを国王に伝え、生贄もとい異世界人を保護する手立てを打つのがイヴァンの役目だ。
「それでお迎えに王子様を向かわせたということだよ」
「王子様?」
「俺だろうが」
「そうでしたそうでした」
本気できょとんとしていた柚葉にアリスは眉間の皺を深くした。
「まあ来ちゃったものは仕方ないね」
「というと?」
「今年が滅びの年になるのは変わりないんだ。ミノリカズハがいないのであれば、お前で代用するしかないだろう」
「・・・へ?」
イヴァンの代わりに答えたアリスはいとも簡単に言ってのけた。そう、まるでパンがないならケーキを食べればいいじゃない、とでも言うように。
「な、何を言って・・・」
「妹だろう?本命のミノリカズハまでとは言わないまでも、お前にもこの世界を救えるくらいの魔力はあるはずだ」
「ちょ、ちょっと待って。救えるくらいのって?私が、その、つまり、」
恐ろしくて自分では言えなかった言葉が、代わりにアリスの声で響いた。
「生贄だ」
嘘だ。
そんなのってない。
生まれた日にそんなレッテル貼られるなんて。
「イ、ケ、ニエ」
お姉ちゃん、今年の誕生日プレゼントは、勝手ながらこちらで決めさせてもらいました。
あなたの役目を奪ってしまったようです。




