第4話 2人はシェフ・ド・キュイジーヌ
「食料品とかを売っている店はどこですか?」
それは、いつも皆の代表として聴いていた光莉ではなく、ガイドの嶋村さんからだった。彼女は、このパーティの食事担当のリーダー的存在なので、一番の懸念を質問した。
「食料品を売っている市場は、『スオウ通り』を挟んだこの建物の向かいの建物ですが、もう閉まっているでしょう。なので今晩は、通りに出ている屋台か、食堂や酒場を利用してください。屋台は、大体日没まで、食堂と酒場は、夜遅くまで営業しています。
市場は、町の門が開く日の出直後から営業していますので、明日の朝にでも覗いてみてください。
ほかの生活雑貨や、服飾関係は、明日にでも私が案内します。
それではまた明日の朝10時ごろにこちらに伺います。」
ジョルダンは簡潔に答えてくれた。
光莉たちは、与えられた元宿屋の建物の中を散策した。
まずは、一階から。通りに面している場所は、食堂のようになっており、カウンターの奥に広めの厨房が広がっている。鍋や窯などの調理器具や食器類も一通り揃っており、材料さえあれば、すぐにでも調理ができそうだ。
入口から見てカウンターの右手に廊下が走っており、二階に上がる階段と、いくつかの部屋がある。一つづつ部屋を確認すると、男女別に別れた浴場とトイレ、事務所のような部屋、そして、宿屋の経営者のプライベートスペースが広がっていた。
少し広めの庭には、裏口に出れる扉と、倉庫、井戸があり、町の共同井戸まで水を汲みに出かけなくてもよい作りになっていた。全店主は、結構なお金持ちだったようだ。
二階と三階は客室になっており、一人部屋からスイートまで広さの違う部屋が30室作られていた。
しかも、マットレスや掛布団などの寝具はとても状態がよく、1年放置されていたとは思えない状態だった。それは、厨房にも言えたことだが。
翌日、ジョルダンに聴いてみたところ、この建物ごと『状態保存魔法』が掛けられており、魔法の効果範囲内ならば、魔法を解除するまで、魔法を掛ける直前の状態を保つのだそうだ。
光莉たちは、各々の部屋を決めて、私物を部屋に置くと、夕飯を食べに町に繰り出した。
光莉たちは、5~6人の小グループに分かれて、夜の町に繰り出した。
内陸の町ながら、カランはこのあたりの中心的な都市のため、いろいろな物が入ってくる。食べ物関係も例外ではなく、海の幸から山の幸まですべてが揃っていた。
その中から光莉のグループは、地元の名産料理を出す食堂に入った。
料理はとてもおいしかった。しかし、主食として出されたパンは少し硬く、パサパサしており、柔らかくふわりとした触感で慣れている光莉たちには、あまりおいしく感じられなかった。
あとは、もう少し飲み物のレパートリーがあるといいかなとは思った。なんせ、水と牛乳しかないのだから…。
元宿屋の家に帰ってくると、ほかのメンバーがすでに帰ってきており、先ほど食べた夕食についての意見交換会が始まっていた。どのグループも、パンと飲み物の評判が今一つといったところか。料理については、まずまずの評判だったが…。
そんなことを話しているうちに、鍵沼さんがお風呂を沸かしてくれたので皆で入った。「沸かす」といっても、どうも温泉らしく、裏の機械室のコックをひねっただけらしいが…(o(^▽^o)笑〃)。
さすが宿屋の風呂というべきか、中はとても広く、男女別に分かれた。
入浴後、各自が決めた部屋に分かれて光莉たちは、自由に夜を過ごしていった。
光莉は、5つあるスウィートルームの一つ(3階にある一番広い部屋)を全員の総意の元に使うことになった。光莉は、「普通の一人部屋でいい」と言ったが、「俺たちのリーダーである光莉が、この部屋を使わないで誰が使うのか?」と、毅に聴かれ、それをほかのメンバーが全員賛成してしまい、光莉は仕方なくその部屋を使うことになった。
数日ぶりのベッドは、光莉たちを安らかな眠りへと誘うのに、さほど時間はかからなかった。
翌朝、光莉は日がまだ登らないうちに目覚めた。一階に降りて顔を洗うと、厨房には、すでに誰かが作業をしている気配があり、光莉は厨房のドアをくぐった。そこには嶋村さんが朝食の準備をしているところだった。
「おはようございます、嶋村さん。」
「おはよう、今宮さん。早いお目覚めですね。」
「嶋村さんこそ。…、この感じだと、みんなの朝食を作ってくれているみたいで、どうもありがとうございます。何か手伝うことはありますか?」
「私の事は、智美って呼んでほしいな。私は今宮さんの事を光莉ちゃんって呼んでもいい?」
「はい、いいですよ、嶋…、智美さん。」
「ありがとう光莉ちゃん。私は、料理をすることが好きだから、自然に料理担当になっちゃうのかな。それに、こんなに大人数の食事を作るのは、腕がなるの。
光莉ちゃん、パンを焼きたいから、大変だけど生地を作ってほしいな。そういえば光莉ちゃんは、料理をしたことはある?」
「はい、実家では結構いろんなものを作りましたよ。それこそ世界中の料理を作ったことがあります。
その腕前は、『有名な料理人にも負けないだろう』と、家の料理長が言っていたのを聞いたことがあります。ちなみにうちの料理長は、パリの5つ星レストランで、日本人としては初めてシェフ・ド・キュイジーヌになった人なんですよ。
朝食の後に行こうとしている市場では、どんな食材があるのか、今から楽しみです。」
「私も同僚から『貴方の料理は、すでにプロの域に達している。バスガイドよりも、料理人になって何処かのレストランで働いたほうがいい』と言われたことがあるわ。ただの趣味なのにね。」
「私もですよ。趣味で料理をしていたら、行くとこまで行っちゃただけだけだもの。さしずめ私も智美さんも、所謂『料理バカ』と呼ばれる類の人間ですね。」
「それは言えてる。私と光莉ちゃんは、このパーティの料理担当といったところかしら。」
雑談をしながら二人の手によって22人分の朝食がてきぱきと作られていく。パンは、嶋村さんが元の世界から持ち込んできた天然酵母を使用したおかげで、柔らかいパンが出来上がった。
料理を食堂の机に並べる作業を嶋村さんに任せ、光莉は、他のメンバーを起こす作業に取り掛かった。全員が揃ったところで、朝食をいただく。
朝食の後、光莉たちは、向かいのある市場に出かけた。光莉と智美は、当然食材売り場でワイワイと騒ぎながら買い物をしている。いつの間にか仲良くなった二人に首を傾げた毅は、その理由に気付くと楽しそうに笑い、謙治とともに荷物持ちをしていた。
「毅、いつの間に仲良くなったんだ?光莉と嶋村さんは。」
「そりゃあ、今朝方2人でやっていたことと言ったら『料理』しかないだろう。光莉はお嬢様だけど、趣味は料理だ。なんせ今宮家で出される料理は、すべて光莉とお抱えの料理長が作っていたからな。それも使用人を含めた全員分。
今日の朝食を見る限り、嶋村さんの腕も、光莉と同等だろう。同じ趣味であり、さらに腕前も拮抗しているならば、意気投合してもおかしくあるまい。
謙治、晩飯が楽しみだな。」
小学校からの親友である毅と謙治が話しながら2人の後についていく。宿屋に戻るころには、2人の両手は、食材であふれていた。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




