第1話 此処はいったい何処!?
岩に衝突して止まったバスの中で、光莉は、周囲の喧騒で目と覚ました。少しの間気を失っていたようだ。横に座っている寿李はまだ気を失っており、光莉の肩に体を預けている。光莉はとりあえず周囲の状況を確認する事にした。
まずは光莉自身から。光莉の肩を枕にして気を失っている寿李を退かし、シートベルトをはずして立ち上がってみる。衝突した衝撃なのか、軽く眩暈や、全身にスリ葛谷ら青痣があるが、骨折などの大きな怪我はないようだ。
次にバスの様子を確認する。ざっと見渡した感じ、バスは、右側面から突き出て見える大きな岩に衝突して止まったみたいだ。その衝撃で、あちこちの窓ガラスが割れてしまっている。幸いにも岩が突き破っている場所は、座席のない場所だったため、怪我人はいるが、死んでしまった者がいないのが救いだろう。バスの中は騒がしく、何が起きったのかが解らずに右往左往している生徒で収集がつかない状態だった。
ふと、窓の外に目を向けて、ヒカリは驚愕した。
(確か、雪国に向かっていたのではないのか?)
しかし、窓の外に広がる風景は、どこまでも続く草原、遠くの方には、鬱蒼と茂る森が広がっている。その先はどうなっているのかは、ここからでは解らない。空を見上げれば、西?の空が茜色に染まり、間もなく日没を迎えるらしい。
どう考えても、日本ではない。いや、地球上でこんな風景が広が土地はあるのだろうか。光莉が知っている中では、世界中何処にも該当する土地はなかった。さらに言えば、トンネルに入った時はまだ昼だったはずだ。いくらなんでも日が沈むのには早すぎる。
(じゃあ、ここはいったい何処なのだろう…。)
そんなことを考えながら、一旦席に座りなおし、窓の外の風景をぼんやりと眺め、現実逃避をする事にした。その間に、寿李が復活して呆然としている。暫くすると、一人の男子生徒が、大きく手を叩いて皆を静まらせると、現状把握のための言葉を紡いでいった。
「静かにボクの話を聞いてください。」
「何だよ、毅。」
毅と呼ばれた生徒が、この場を支配していくのが手に取るようにわかる。
「皆さん、騒がずに席に着きましょう。
まずは、現状を把握していきましょう。
文句は、あとでいくらでも聴きますから。」
タケシの言葉で、皆が各々の席に座ったのを確認すると、タケシは、大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「それでは、一つづつ現状を把握していきましょう。
まず、僕らは、2泊3日の予定でスキー研修をするために、このバスに乗っていました。
そして、関越トンネルを抜ければ、そこは雪国のはずでした。
しかし、トンネルを抜けた先は、ご覧のとおり、…どこまでも続く草原です。」
タケシは、皆の視線を外の風景に誘導していく。
この時になって、初めて自分たちのいる場所を知ったという生徒もいた。
タケシは、当たり前のことから話し、現実を一つづつ確認させていく。
そして、さらに事実を潰していく。
「この草原に来るまでの行程は、とりあえず端折りますが、みなさん、見てのとおり、この草原にいるのは、僕たちの乗っているバス一台だけです。」
「えっ!」
みんなは、もう一度、窓の外を見た。
確か5台の隊列を組んでバスは高速を走っていたはずだ。
しかし、前後左右、どこを探してもほかのバスは見当たらない。それどころか、バスと並走していた車もいなかった。
ヒカリも、その事実をタケシの言葉で初めて知った。
タケシは、現実を皆に突きつけると、さらに話を進めていった。
「さらに追い打ちをかけますが、空を見上げれば、茜色に染まっています。つまり、後1時間も経てば日没を迎えます。
さて、僕たちには、いくつかの選択肢があります。
一つ目、いつ来るのか分からない救助をひたすら待ち続ける。
二つ目、とりあえずこのバスを拠点に、周囲を探索してみる。
三つ目、バスを捨てて冒険をする。
大きく分けると、この三つに分けれますが、どれも一長一短があります。」
「あのう、少しいいですか?副会長。」
光莉は手を挙げて質問を毅にぶつけた。
「何ですか?会長、質問はあとで受け付けますが、…まあいいでしょう。どうぞ。」
クラスの皆は、この生徒会のトップ二人の会話に耳を傾けた。
光莉と毅は、生徒会の会長副会長という肩書を持っており、この二人が、教職員を差し置いて、実質学校のトップに君臨していた。
「それでは、まず確認したい事があります。
この状況から察するにバスを動かす事は出来ないでしょう。」
光莉は、バスに突き刺さっている岩を示しながら話す。
「ではこの状況を踏まえて、皆さんに確認します。包み隠さずに答えください。今、このバスの中に、どれだけの食べ物や飲み物、武器になりそうな刃物類を持っていますか。
外はだんだんと暗くなってきてます。先ほど副会長が提示した選択肢の前に、今晩はここで一泊することになります。」
ヒカリの指示で、バスの中ににあるすべての飲食物と、武器が集められた。それでも、35人からなる団体が、満足に食べれる量はなかった。そこで光莉は、もう一つの選択肢を提案した。
「先程の選択肢をもう1つ付け足します。私は、この先バスを降りて、人が住んでいる場所を探そうと思います。その途中で、何か食べ物を見つけていく予定です。幸い草原を少し歩けば、森の中に入ります。森の中でなら、何か食べれる木の実などがあるでしょう。
私の考えに賛同する人は、一緒にバスを降りてください。明るいうちに野営できる場所を探さなくてははいけないので、私はバスを降りさせていただきます。」
そう言うと、光莉はバスを降りてしまった。光莉に続いて、クラスの約半分と、大人組の運転手、バスガイド、担任、副担任、校長がバスを降りていった。バスの窓から光莉たちを覗いている人たちを一瞥すると、光莉は、バスを降りた人たちを引き連れて、森へと歩いていった。
「とりあえず、採取組は俺が引き受けるよ、光莉。調理の指揮は任せてもいいか?」
「それは構わないけど。でも、とりあえず、たき火用の薪と、水を探さないと…。それから誰に何をやってもらうかも考えないと…。」
光莉と毅は、歩きながらいろいろと話し、一緒に歩いてきているメンバーを分けていく。
「では、私の班は、必要最低限の物だけ持って、とりあえず薪集めをしながら、水辺を探しましょう。運がよければ街道とかに出れるでしょう。」
光莉たちは、最低限の荷物を詰めたリュックを1人ずつ背負っている。大きな旅行鞄は、森を歩くのには邪魔なので、バスに置き去りにしてきた。
野営組は、各々武器となる刃物を持ちながら、薪集めをしている。時折姿を見せるウサギなどの野生動物を、見事なナイフ捌きで仕留める生徒もおり、その生徒を中心として、ハント組が組織され、光莉たちとは別行動をしていった。
先頭を歩きながら、薪を集める光莉の横を、同じく薪を集めながら歩く毅が、光莉と話していた。
「光莉、あいつらを見捨てる気か?」
「あいつら」とは、バスに残った者たちである。
「当然でしょ。お零れ頂戴的な考え方をする者は、これから先信用できないわ。
それに、『働かざる者、食うべからず』よ。
まあ、さっきも言ったけれど、明日からは、移動して町を見つけなくちゃ。そして、此処の住民から、この世界が何なのかを聴かなね、今後の事を考えると、なるべく早く見つけたいわね。。
あっ!あっちから水が流れる音がするわ。毅、行ってみましょう。」
光莉はそう言うと、音のする方へと歩む向きを変えた。
そこには、透明度の高い水が流れる川があり、水底には、魚が群れをなして泳いでいた。
ハント組とは、これといった集合場所を決めてはいなかったのだが、たき火の煙が合図となって程なく野営組が全員集合した。
その夜は、捕獲した野生動物や川でとれた魚、持ち寄った食料で空腹を紛らわすことができた。さらに、ハント組が気を利かせたのか、森でとれた果物が全員に行き渡り、ビタミン、ミネラルも補給できたことは幸運だった。
夕食後、たき火を囲みながら、今後の事について話し合っていく。
「ここからは、皆の意見を聴きながら、今後の行動を決めていこうと思います。
まずは、リーダーを決めましょう。ここまでは、なし崩し的に私が指揮を執ってきましたが、誰か、私以外に適任者はいますか?自薦他薦を問いません。」
暫くの沈黙の後、迫の場で最年長である校長が口火を切った。
「ここまでの統率力、信頼度を取ってみても、光莉君、我々のリーダーは、君以外にいないと思うのだが、皆は、どうだろうか。」
「パチ、パチ、パチ」
一人、二人と、校長の意見に賛成するかのように、全員から拍手が起こった。校長と光莉、毅は互いに頷き合ってから、光莉が就任の挨拶をした。
「では、僭越ながら私、今宮光莉が、このパーティのリーダーをさせていただきます。とりあえずは、このパーティの名称を学園の名前を取って『パーティ鷺宮』とでもしておきましょう。
私からは、みなさんにはあまり強制はしませんが、秩序ある行動をお願いします。
ここは、地球上の何処でもありません。言ってみれば、私たちは異世界に来てしまいました。
これから私たちが、ここで生き抜くためにも、皆さんが協力していく必要があります。
それでは、この中で、それぞれの役割を決めていきたいと思います。
これは、今日今まで学園内や此処での皆さんの行動、みなさあんの特技を考慮に入れてから、私が独断で決めさせてもらいます。
異議がある方は、あとでお願いします。
大人の方も含めて、すべての者が、何かしらの役割を担ってもらいます。
まずは、ハント組からですが、これは、今日ハント組で参加していた5名で決めさせてもらいます。
ハント組のリーダーは、今日もリーダー的な存在だった中条謙治君に努めてもらいます。
ハント組の方は、これからも移動中、どんどん野生動物を捕獲していってください。
次は、パーティの護衛役を決めさせてもらいます。リーダーの適任者は、この中で一番強い副会長にやってもらいます。毅、あとの人選は任せるから、この中から5名ほど選んで頂戴。」
「解った、男女関係なく人選をする。とりあえず武術や格闘技の経験のあるやつを指名する。」
毅の人選により、護衛組5名が選抜され、早速今晩からの見張りの順番を決めていった。2人の人選に、誰も文句を言う者はいなかった。いや、文句を言いそうな者は、バスに残っている者たちだと、ヒカリか確信していた。
「あとの人は、後方支援組になります。野営地のセッティングや食料の管理、炊事、洗濯、薪集めなど、仕事はたくさんあります。
明日も朝早くから行動を起こしますので、護衛組以外の人は、早めに就寝することをお勧めします。」
こうして、異世界に来て最初の夜は更けていった。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




