第17話 神との契約④『水の神子』
王都ロンドリアで2日ほどゆっくりと観光した智美は、一路南へと向けて歩いていた。王都では主に食べ歩きをしていた。世界中の食べ物が集まっていると、護衛していた商隊から聞いていたからだ。
王都ロンドリアは、ナストル川の河口付近に作られた国際港湾都市だ。その南は、太南洋と呼ばれる大陸の南にある大洋で、ロンドリア港からは、各国へ向かう商船や、太南洋に浮かぶ島々に向かう渡し船がひっきりなく発着している。智美は、その中のマクリドナ州州都、バーガルへ向かう船に乗っていた。
バガールまでは、ロンドリアから船で3日の距離にある。
マクリドナ州州都、バーガル。マクリドナ州で最大の島コンマーク島にある人口約20万人の港町。町は、港を中心に、無数の水路が張り巡らされている旧市街地と、山肌に張り付くように広がる新市街地とで構成されており、行政地区は、旧市街地の北側の小高い丘にある。町の中には、馬車の乗り入れは禁止されており、その代わり、無数の水路を利用したゴンドラが、町の交通の一端を担っている。地球のべネティアを彷彿とさせる町並みなのだ。
3日後の午後、バガールに着いた智美は、早速市場の散策をした。やはり市場はいい。その土地ごとに特色あるものが並べられている。カランの市場にも海で取れる魚が並べられていたが、やはり鮮度が違う。この潮の香りと言い、異世界でも、海はいいものだ。ふらふらとあてもなく市場を散策し終えた智美は、今晩の宿を探しに、町の中心部へと歩き出した。暫く左右を見ながら宿屋を探していると、いきなり聞き覚えのある声が、後ろからかけられた。
「智美さん、元気だった?」
振り向いた智美は、そこにいた光莉にびっくりした。光莉は、薄手の流しでパーカーに膝上のチェックのミニスカート。白黒のボーダー柄のレギンスを履き、素足に踵のあるサンダルを履いている。腰まである長い黒髪は、頭の上あたりでひとまとめにしてリボンで縛ってあった。
「光莉ちゃん、どうしてこんな所にいるの?」
「ちょっと他の他の人たちが気になって見に来たの。ちなみに私と、毅、真奈美はすでに龍神の神子になって、カランに戻っているわ。カランから近かったってのもあるけど…。どうしてここにいるかと言うと、神子になった特権みたいなもので、所謂瞬間移動してきたの。智美さんの神子のなれたら、すぐに瞬間移動出来るようになるわよ。」
「光莉ちゃんは、今晩はどうするの?カランに戻る?それともダーカルで宿でもとってゆっくりする?」
「そうね、久しぶりに港町に来たことだし、今日はここで泊まっていこうかしら。」
「それなら、私と一緒の宿に泊まらない?まだ泊まる宿は決めていないけど。…丁度いいから、光莉ちゃんに相談に乗ってほしいの。光莉ちゃんがいいのなら、今夜相談に乗ってほしいな。」
「いいよ。とりあえず、宿を早く決めちゃいましょう。」
光莉と智美は、他愛もないことを話しながら、今晩の宿を探しに、バガールの町を散策していった。
それから20分ほど歩いて、2人は一軒の宿屋に入っていった。2人が入った宿屋は、町の中央を流れるエジット運河に建つレンガ造りの宿兼食堂。
食堂で出された夕食は、その日にとれた魚料理を中心に、これまたコクのあるじっくりと煮込まれたスープ、パン、サラダと言った献立で、とてもおいしい味付けで、2人には大満足な夕食だった。夕食の後に、宿屋の大浴場で汗を流した後、部屋に戻った2人は、さっそく秘密の会合を開いた。
「まずは、光莉ちゃんが、どうやって私の下にこれたのか説明してもらいましょうか。たしか、瞬間移動って、術者が行った事がある場所にした行けないはずよね。それに、とても難しい魔法だったはず。」
智美が、光莉がここまで来たという『瞬間移動』について疑問を浮かべた。
「キャロルから『瞬間移動』について講義を受けた時、確かにそんなことを言っていたわね。それは、一般の人が、『瞬間移動』を行うときの条件みたいなものね。今の智美さんが、もし『瞬間移動』をしようとしたらこの縛りに悩まされることになるね。
でも、『神の神子』になれば、この条件は無いに等しくなるわ。既に神子になっている私たち3人は、何処にでも『瞬間移動』出来るんだから。それぞれのやり方は少しづつ違うのだけど…。」
光莉は、『瞬間移動』について話していった。話し終えると次は智美の番だと話を振る。
「そういえば、智美さんの相談って何?『水の神殿』に関すること?」
「実はそうなの、光莉ちゃん。『水の神殿』がある場所が、多分海の下なんだよね。」
そういうと智美は、地図を机の上に広げて、『水の神殿』のある場所を予測した場所を示した。そこは、バガールの南に10キロほど行った海の上を指していた。光莉は少し熟考する。
「海の下ということは、『水の神殿』は、海底神殿なんだね。だとすると、そこに行くには、『水中呼吸』という魔法を使わなくちゃいけないわね。智美さん、この魔法使える?」
「そんな便利な魔法があったの?光莉ちゃん、出来るんなら教えてほしいのだけれど。」
「そうね、教えてもいいのだけど…。」
そういうと、光莉は、何処からともなく分厚い本を取り出し、机の上に置いた。
「この本は、『魔術大全』というタイトルの本なの。この本には、今まで作られたすべての魔法が書かれているわ。私は、この本を読んで、すべての魔法を覚えたの。その中に、『水中呼吸』のことも書かれていたわ。」
そう言うと光莉は、『水中呼吸』の書かれているページを開いた。智美は、そのページを見て驚いた。事細かに書かれている魔法の発動方法は、誰が使ってもすぐに出来そうだ。
「とりあえず、ここに書かれている通りにやれば、『水中呼吸』は簡単に発動するはずよ。この魔法の最大の問題である魔力量については、智美さんは関係ないことだから無視してもいいわ。後は、『水の神子』になった後、『瞬間移動』については出来るようになっているはずだから、今ここで覚える必要なないわ。」
「ありがとう、光莉ちゃん。明日から早速練習して、『水の神殿』を目指すことにするわ。」
翌日から町の郊外で、魔法の練習に励む智美がいた。光莉は、智美が魔法を習得するまで付き合っい、神殿に行く日に智美と別れた。智美はついでに『水上歩行』と、『姿隠し』、後いくつか水中でも使える魔法を覚えて『水の神殿』を目指した。
智美は、『水中呼吸』を使って、水中を海底に向けて進んでいく。途中、幾度か魔物に襲撃されたが、魔法を駆使して撃退し、海底にある『水の神殿』にたどり着いた。神殿の中に入った瞬間、水圧による圧迫感がなくなり、建物の内部は、新鮮な空気に満たされていた。奥に進むと、そこには、透き通った水晶でできた龍の神像が鎮座していた。
『水の籠に守られしものよ、我は、水龍。
汝の名を述べよ。』
「私は、嶋村智美。あなたが水龍ですか。」
『智美よ、我が試練は、神殿を見つけて中に入ること。汝は、既に試練をクリアーしておるので、『水の神子』と認め、我の力を授けよう。』
水龍は、そう言うと、水晶の神像が青白く光って消える。次の瞬間、智美の前に青白い球体となって浮かび、智美に告げた。
『我の姿を思い浮かべ、名を告げよ。』
智美は、妖精の姿を思い浮かべる。手のひらサイズの小さな小さな水の要請。何処かの絵画で見た美女の顔つき。鰭のような大きな耳を持ち、青い髪を腰までたなびかせている。背中には、蝶のような水晶の翅をもつ。そしてこの仔の名前…、
「君の名前は、アクア。」
名前を呼んだ瞬間、智美の目の前に、思い描いた通りの姿で、アクアが姿を現した。それと同時に、智美の右手の薬指に、2匹の龍が浮彫にレリーフされた金色の指輪が現れた。2匹の龍が咥えるように、青水晶が輝いている。
「これからよろしくね、アクア。ところで、この指輪は何?」
『よろしく頼む我が主よ。その指輪は、『水の神子』たる証の指輪だ。我から智美に贈った。』
「それじゃあ、光莉ちゃんのところに行こうか、アクア。」
智美は、『瞬間移動』と唱えると、光莉の元に飛んでいった。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。




