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軽バン一台、お江戸を豊かにいたします。  作者: PPPC


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第5話:『博多返りの仕込み(買い出し編)』


タブレットの機内モードを【OFF】にする。

鼓膜を圧迫するいつもの不快な感覚とともに、フロントガラスの向こうが現代の駐車スペースに戻った。カーナビがポーンと電波の復帰を知らせる。

「ふぅ……」

シートに深く身体を沈め、俺は作戦を練り直した。

あの家族を助けつつ、この世界のリアルな情報を仕入れたい。だが、長崎と博多を行き来する旅の商人を名乗った以上、「ここはどこだ」「周りにどんな街がある」なんて初歩的な質問は絶対にできない。不自然すぎて一発で隠密(スパイ)だと疑われる。信頼性ゼロになる。

「だったら、向こうの時間を基準にして『明日の夕方』にまたあそこへ行こう」

博多での用事を済ませて長崎へ帰る途中、という体(てい)にするのだ。

夕方にあのボロ小屋を再訪し、「日が暮れて物騒なので、一晩泊めてもらえないか」と頼み込む。その宿賃の代わりに、博多で仕入れてきたという名目で、現代の食料や生活道具を差し出す。

一晩同じ屋根の下で過ごせば、不自然に質問を重ねなくても、彼女たちの愚痴や子供たちの会話、家の中の様子から、この地域の「本当の困りごと」が自然と観察できるはずだ。

「よし、そうと決まれば買い出しだ。」

俺はアクセルを踏み込み、現代のスーパー、そしてホームセンターへと車を走らせた。

仕入れるアイテムの条件はただ一つ。「江戸時代の人間が見ても、ギリギリ『博多のちょっと上等な物産』として納得できるオーパーツ感の薄いもの」だ。

脳内で仕入れリストを組み立てていく。

1. 米(1キロ・無洗米だが現地で洗う)と味噌

言い訳: 「博多の米問屋から分けてもらった、精米済みの極上の白米、と味噌」

狙い: 当時は玄米や麦飯が主流で、白米は超贅沢品。現代の真っ白な米を炊き、香りのいい味噌汁を作れば、それだけで家主への最高のご馳走になる。旅の男が持ち歩く荷物としても、1キロという量は不自然さがない。

2. 干物(アジやサバ、イワシの天日干し)

言い訳: 「博多津の魚市場で仕入れた塩干物」

狙い: 父親を亡くしたあの家に最も足りていないのはタンパク質だ。真空パックから出して、無地の茶色い包装紙に包み直して持ち込む。

3. 100均の木製の椀と小さめの鉄鍋、箸、竹皮

言い訳: 「長い旅をする人間が常に持ち歩くと便利かと思ったが、これからは宿場があるからいらないかも」

狙い: まともな食器や調理器具すら事欠くボロ家への、これ以上ない実用的な贈り物。100均の無地の木器や箸、黒い鉄鍋は、余計な印刷さえ剥がせば江戸時代でも違和感なく溶け込む。旅の私物として譲る体(てい)にすれば、相手も受け取りやすい。

スーパーのレジ袋から全ての物資を出し、現代のプラスチックやバーコード、日本語の印刷があるラベルを徹底的に剥ぎ取る。米はあらかじめホームセンターで買っておいた、無地の麻袋へと詰め替えた。味噌も無地の容器へ移し替える。

助手席のフラットスペース。EcoFlow RIVER 2 Proの横に、カモフラージュを終えた「江戸時代仕様の物資」が積み上がっていく。

「これで準備は整った」

時計を見る。現代で買い出しを終えた今、向こうの世界ではどれほどの時間が経っているのだろうか。

それを確かめるためにも、俺はN-VANの中で少しだけ仮眠を取り、江戸時代の「翌日の夕方」を狙って、再びあのタブレットの飛行機マークへと指を伸ばした――。


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