第八話「使い慣れない一撃」
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ギルドの掲示板に貼られていた依頼は、町の貯水池近くにできた毒蜂の巣の駆除だった。
「複数パーティ合同、って書いてあるな」
「巣が大きくなる前に、一気に潰す依頼ね。一つのパーティだけじゃ手が足りないから」
最近は、こうした少し規模の大きい依頼にも、徐々に手を伸ばせるようになってきていた。
集合場所に着くと、もう一つのパーティが先に待っていた。
その中に、見覚えのある顔がある。
蓮が初めてギルドで嘲笑された日、近くで笑っていた若手冒険者たちだった。
「……お前、まだ冒険者やってたのか」
リーダー格の青年が、わざとらしく驚いた顔を作る。
「おかげさまで」
「狼連れて、随分余裕そうじゃん」
後ろにいる仲間たちも、戸惑い半分、興味半分という顔で、蓮とスミを見ていた。
蓮は、それ以上は何も言わず、軽く頭を下げるだけにした。
言い返しても、得るものは何もない。
それより、依頼を片付けることの方が先だった。
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貯水池に近づくと、スミが低く鳴いて、ある方向を示した。
「あっちに、巣があるみたいだ」
「そいつ、テイムモンスターだろ。よくそんなの信用できるな」
青年が、嫌味っぽく口を挟んでくる。
「信用というか……今までずっと、合ってたから」
ノエルが代わりに言い返そうとしたが、蓮はそれを目で制した。
ここで言い合っても、状況が良くなるわけではない。
そう判断するのも、聞き書きの仕事で培った感覚の一つだった。
実際に近づくと、スミの示した方角に、確かに大きな蜂の巣があった。
毒蜂の群れが、巣の周りを警戒するように飛び回っている。
数だけ見ても、これまで相手にしてきたどの依頼よりも多い。
「数が多い分、長期戦は避けたいわね。手早く片付けるよ」
ノエルの言葉に、もう一方のパーティのメンバーたちも、それぞれ得物を構え始めた。
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ノエルともう一方のパーティが前に出て、群れを散らし始める。
蓮は、そのタイミングを見て、初めて土弾を使ってみた。
掘り進む感覚を、頭の中で攻撃に変換するイメージのはずだったが、思うように力が定まらない。
放った土の塊は、的から大きく外れて、近くの岩に当たって崩れた。
「は? 何だよ、今の」
青年が、堪えきれずに笑い出す。
「悪い、まだ慣れてない」
「慣れてないどころじゃないだろ」
仲間たちも、横で小さく笑っている。
蓮は、それを聞きながらも、もう一度狙いを定め直した。
二度目も、的を外した。三度目で、ようやく狙った場所の近くに着弾する。
何度か空振りを重ねるうち、力の加減と、撃ち出すまでの間合いが、少しずつ掴めてきた。
そこで、ふと気づく。
正面から当てに行くより、巣そのものの出入り口を塞ぐ方が、ずっと効率がいいかもしれない。
「ノエル、巣の入り口、空けておいてくれ」
「は? 潰さなくていいの?」
「いや、潰さなくても、出入りできなくすれば十分だ」
蓮は、巣の入り口に向けて、土弾を続けて撃ち込んだ。
狙いが定まらない分、何度も撃つことで、ようやく入り口を塞ぐことができた。
中に残った蜂は、出ようとして暴れるばかりで、外には出てこられない。
その隙に、ノエルたちが残りの群れを一気に片付けていった。
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依頼完了の報告を終えると、青年は気まずそうに視線を逸らした。
「……まあ、思ったよりは、やるんだな」
それだけ言うと、さっさと先に歩いて行ってしまう。
仲間たちも、それぞれ小さく頷くような仕草を見せて、その後を追っていった。
素直に褒める気はないらしいが、それでも、最初の反応とは少し違っていた。
「成長したわねえ」
ノエルが、にやにやしながら肩をぶつけてくる。
「成長って言うには、外しすぎだったと思うけど」
「外しても、当てるまで諦めなかったでしょ。それで十分」
「諦めたら、本当に何もできない奴になるからな」
「そういう言い方、ちょっと卑屈すぎ」
ノエルは呆れたように笑ったが、それ以上は何も言わなかった。
スミが、二人の後ろで満足げに尾を振っていた。
夕暮れの道を歩きながら、蓮はふと、腰のナイフに目を落とした。
依頼が始まった頃から、結局一度も使っていない。
それでも、何かを「使えるようになった」という実感は、確かに今日初めて持てた気がした。
戦闘力で言えば、まだまだ足りないことばかりだ。
それでも、何もできなかった頃とは、確かに何かが違っていた。
(第八話 完)
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