第七話「ギルドを通さない依頼」
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依頼を重ねるごとに、生活は少しずつ落ち着いてきていた。
宿代に怯える日々から、かろうじて抜け出せたくらいの落ち着きではあったが、それでも蓮にとっては大きな進歩だった。
宿の食堂で、ノエルと今日の予定を話していると、入り口から小さな声がした。
「あの……椎名さん、ですよね」
声をかけてきたのは、十歳くらいの少女だった。
後ろには、もう少し小さな男の子も隠れるように立っている。
「俺のこと、知ってるのか」
「狼を手懐けた人、って噂で。広場の魔物のこと、相談したくて」
少女は、おどおどしながらも、はっきりとそう言った。
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話を聞くと、町の広場に、夜になると現れる小さな魔物がいるらしい。
「目が光って、夜中にカタカタ音がするんです。怖くて、外に出られなくて」
「ギルドには、相談したのか?」
「依頼するほどのことじゃない、って言われました。お金もないので……」
少女は、申し訳なさそうに肩を落とした。
それでも、藁にもすがるような顔で、蓮のことをじっと見ていた。
ノエルが、横から小声で囁いてくる。
「報酬なしの話だけど、どうする?」
「話だけでも、聞いてみたい」
「……まあ、あんたなら、そう言うと思った」
ノエルは小さく息を吐いたが、それ以上は止めなかった。
「あたしも、お金にならない仕事ばっかりは困るけど。今回くらいはね」
「悪いな、付き合わせて」
「いいって。どうせ、暇な時間だったし」
そう言いながら、ノエルはもう椅子から立ち上がっていた。
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夜の広場には、確かに小さな光が一つ、ぽつんと浮かんでいた。
近づくと、それは灯りに似た輪郭を持つ、小型の魔物だった。
人の気配に気づくと、ふわふわと不規則に動き、カタカタという音を立てる。
「これが……」
少女が、蓮の後ろに身を隠す。
スミも、警戒するように低く構えていたが、しばらくすると、興味を失ったように欠伸をした。
その反応を見て、蓮は少しだけ安心した。
スミが本気で危険だと感じる相手なら、もっと違う反応をするはずだった。
蓮は、しばらくその場に留まり、魔物の動きを見つめた。
近づいても、攻撃的な動きは一切ない。
むしろ、人が近づくたびに、わずかに距離を詰めてくるようにも見える。
「灯りに寄ってくる虫と、似たようなものかもしれないな」
「敵意があるわけじゃない、ってこと?」
「たぶん。ただ、誰かのそばにいたいだけなんだと思う」
広場の灯りが消える深夜、行き場のないこの魔物だけが、唯一の明かりを求めて、ここに留まっているのかもしれない。
そう考えると、カタカタという音も、何かを怖がっているようにさえ聞こえた。
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「追い払わなくても、平気なんですか」
少女が、恐る恐る尋ねてくる。
「無理に追い払う必要はないと思う。ただ、近づきすぎないように線引きしておけば、それで十分じゃないか」
「線引き、ですか」
「お互いが、安心できる距離ってことだ。怖がらせもせず、怖がりすぎもしない」
蓮は、広場の隅に小さな灯りを置くことを提案した。
子供たちが近づきすぎなくても、魔物がそこに留まれる場所を作る、という形だった。
「そこに灯りがあれば、わざわざ家の近くまで来る必要もなくなるはずだ」
少女は、まだ少し不安そうだったが、最後には小さく頷いた。
「分かりました。あの……ありがとうございます」
「礼はいらない。報酬もないんだろう」
「これくらいは」
少女は、家から持ってきていたらしい焼き菓子を、両手で差し出してきた。
隣で隠れていた男の子も、少しだけ顔を出して、ぺこりと頭を下げた。
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帰り道、ノエルが呆れたように笑った。
「結局、お金にならなかったわね」
「焼き菓子はもらった」
「それ、依頼料って言わないと思うけど」
そう言いながらも、ノエルの口調には、咎める響きはなかった。
「まあ、たまにはこういうのも、悪くないか」
「気が変わったのか?」
「変わってない。あんたが楽しそうにしてるのが、ちょっと意外だっただけ」
蓮は、その言葉に何も返せなかった。
楽しいかどうかは分からないが、確かに、誰かの話を最後まで聞けたことに、小さな満足感はあった。
翌日、町を歩いていると、見知らぬ住人から、軽く会釈されることが増えていた。
噂は、思っていたより早く広まっているらしい。
ハズレギフト持ちとして笑われていた頃とは、少しだけ違う空気だった。
スミが、何でもないという顔で、蓮の隣を歩いている。
何かが大きく変わったわけではない。
それでも、確かに何かが、少しずつ積み重なっているような気がした。
(第七話 完)
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