↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承士、はじめました 〜なぜそう生きたか分かった時だけ、俺は強くなる〜  作者: 柿崎 太一
第二部「旅路」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/53

第五十二話「なぜそこにいたのか」

ガロが去った翌日の朝、蓮は沼の縁に行った。


理由はうまく言えない。ただ、行こうと思った。


境目に立った。地声を傾ける。


封じは戻っている。水は止まっている。沼の方向から来るものは、前より静かになっていた。圧倒的な重さが、少し落ち着いた。


全部解決したわけではない。他の地域でも、同じことが起きている。この沼の封じが戻っても、世界の別のどこかで、まだ続いているかもしれない。


でも、ここは止まった。


---


棒を握った。


ガロが渡してくれた道具。ガロの兄・サンが使っていた棒。


蓮は沼を見た。


ガロはここに、七年間来ていた。


仕事で来たのが最初だった。でも、沼が向こうを向いた。聞いてくれた。それで——戻ってきた。消えて、また来た。消えて、また来た。


兄がここにいるかもしれない。その一点だけで、七年間。


---


*なぜそう生きたか。*


その問いが、頭の中に浮かんだ。


ガロがなぜここに来続けたか——分かるような気がしていた。でも「分かる気がする」というのは、まだ本当には分かっていないということだ。


蓮はしばらく棒を握ったまま立っていた。


沼を見た。


水面が静かに揺れている。


*ガロは、答えを求めていた。*


でも——ただ答えを求めていたのではない。


蓮はそこで止まった。


---


答えが返ってこない場所に、ガロは七年間いた。


兄の声は聞こえなかった。底には記憶が漂っていたが、それが誰のものか分からなかった。何も確認できないまま、七年間。


それでも、来た。


なぜか。


*向こうが聞いていたから。*


---


蓮は思い出した。


ガロの言葉。「俺が聞くたびに、向こうも聞いていた。だから、また来た」


答えを求めていたのではなかった。


ガロは——聞こえているかもしれないところにいたかった。


兄の記憶が底に沈んでいるとしたら、ガロが来るたびに、兄もガロを感じているかもしれない。声は届かない。でも、ここに来ることで——何かが伝わるかもしれない。


そのために、七年間。答えが返ってこなくても、七年間。


---


棒が、温かくなった気がした。


そう感じた瞬間——何かが変わった。


地声が、変わった。


プールの底にあるような、遠くにある感触ではなくなった。体の中に、直接来るような感覚になった。


違う。


これは——


---


スキルが、動いた。


初めての感触ではない。前にも来たことがある。でも前は、それが何かよく分からなかった。今回は——分かった。


*スロットが、開いた。*


地声が、スロットに入ってくる感触があった。


引っかかるような感触があって——収まった。


---


地面の感触が、変わった。


今までと違う。細かい。解像度が上がったという言い方が近い。地下水の流れが、前より速度まで分かる。石の大きさが、地声で感じ取れる。境目の白い土の層が、ずっと厚くて広いことが今になって分かった。


遠くまで届く。


今まで沼の縁まで行かないと感じられなかった深さが、今は宿にいるときでも届くかもしれない。


---


蓮は棒を、ゆっくりと下ろした。


手のひらの中に、重さがある。


「サン、か」と蓮は声に出して言った。


誰もいない草地で。


「あなたの道具が、役に立ちました」


沼は静かだった。


答えは返ってこなかった。


でも、聞こえているかもしれないところで——言った。


---


宿に戻って、スキルの状態を確認した。


スロット:危険察知・土弾・遮蔽・地声(新)


プール:地均し・地声(移動済み)


地声がプールからスロットに移っていた。


手帳に書いた。


*地声、スロット搭載。感覚が変わった。届く距離と細かさが、前と違う。詳細は使いながら確認する。*


少し考えてから、もう一行書いた。


*ガロの兄が使っていた棒を使っている。名前はサン。この名前を、覚えている。*


(第五十二話 完)

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


この作品が少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


これから毎日更新を目標に投稿していきますので、主人公たちの物語を一緒に楽しんでいただければ幸いです。


感想やブックマーク、評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。


それでは、また明日の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。