↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承士、はじめました 〜なぜそう生きたか分かった時だけ、俺は強くなる〜  作者: 柿崎 太一
第二部「旅路」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/53

第四十三話「地の下を流れるもの」

朝、誰よりも早く起きた。


宿の外に出て、カルオの町の石畳に立った。


まだ暗い。東の空だけが、わずかに白くなっている。荷馬車も、行商人も、まだ動いていない。


足の裏に、地声が来ていた。


---


押さない。整理しない。全部来るままにしておく。


ガロに教わったことを、そのままやる。


石畳の下に土がある。土の下に、砂と石の層。その下に——水が動いている。


昨日も感じた。カルオの町の地下に、水の道が網目のように走っている。井戸を掘れば出てくるような、ごく普通の地下水だ。


今日は、もう少し遠くまで耳を向けてみた。


---


方向を選ぶ必要はなかった。


「必要な方向が自然に浮き上がる」とガロは言っていた。


浮き上がってきたのは——北だった。


沼の方向だ。


蓮は、北に向かって少し歩いた。石畳が続く。宿から三十歩、五十歩。


地下の水が、変わってきた。


---


最初は気のせいかと思った。


でも、歩くほどに確かになった。


水の流れが、逆だ。


カルオの町の地下水は、南向きに流れていた。上流から来て、川の方向へ抜けていく。それが普通だと思っていた。


でも、沼の方向に向かって歩くと——水が沼の方から来ていた。


沼から町の方向へ、地面の下を流れている。


*——これは、なんだ。*


---


蓮は立ち止まった。


足の裏から来るものに、そのまま耳を傾けた。


町の地下を走る水の道が、二種類ある。


南向きに流れる、普通の地下水。川の方向へ抜けていく、動きが読める水。


もう一方は——沼から来ている。静かだ。流れているというより、滲みている。ゆっくり、ゆっくり、地面の中を広がっていく。


川の水と、沼の水が、地面の下で混ざり合っている。


沼は、地面の上だけにあるのではない。


地の下を通じて、町まで来ている。


---


「早い」とノエルが言った。


食堂で朝食を食べていたら、ノエルが降りてきた。


「もう外に行ってたの?」


「少し、歩いてみた」


「何か分かった?」


蓮は手帳を開いた。


「沼の水が、地面の下を通って、この町まで来ている」


ノエルが動きを止めた。


「……どういうこと」


「地下を流れている。地面の上の沼だけではなく、地の下からも広がっている」


---


「それって——」


ノエルはゆっくり座った。


「この町にいるだけで、沼の影響を受けるかもしれない、ということ?」


「分からない。地下水が影響するかどうかは、まだ分からない。でも、つながっている」


「オランさんは、沼の近くで倒れた。でも——そうじゃない人も、記憶を失ってるんじゃない?」


蓮は少し考えた。


「確認していない。ギルドで聞いてみる必要がある」


---


ギルドに行った。


昨日話をした年配の職員を捕まえた。


「一つ、聞かせてください。沼の近くに行ったわけではなく、この町に住んでいるだけで記憶に問題が出た、という話を聞いたことはありますか」


職員は少し間を置いた。


「……ある、と言えばある」


「どういうケースですか」


「はっきりとした話じゃない。何年もここに住んでいる人間が、昔のことを思い出しにくくなることがある。年のせいだと言えばそれで終わる話だ。でも——」


「でも?」


職員は声を少し落とした。


「同じ年頃でも、よく覚えている人間と、そうでない人間がいる。沼が近くになってから、その差が大きくなった気がする、と言っている古老がいた。俺には確かめる手段がない」


---


宿に戻って、ノエルに伝えた。


ノエルはしばらく黙った。


「じゃあ——この町全体が、もう影響を受けているかもしれない」


「可能性はある」


「でも、誰も気づいていない。少しずつだから」


「そういうことだと思う」


スミが、部屋の隅で伏せていた。窓の方を向いていた。


---


「蓮」とノエルが言った。


「ん」


「地声が使えるなら——地下の水がどこまで広がっているか、もっと調べられる?」


「調べられると思う。ただ、町全体を歩き回る必要がある。半日くらいかかるかもしれない」


「やる?」


蓮は少し考えた。


「やる。ただ、俺一人でやると地図が曖昧になる。方向と距離を記録する手が必要だ」


ノエルが立ち上がった。


「あたしが手帳に書く。蓮が感じた方向と強さを言って。あたしが書く」


「歩き回ることになる。半日、付き合えるか」


「あたし、歩くの得意よ」


---


午前中いっぱい、カルオの町を歩いた。


蓮が地声に耳を傾けながら歩く。沼の水が感じられる場所、感じられない場所。強い場所、薄い場所。


ノエルがその都度、手帳に書いた。


北の端では、沼の水が濃く感じられた。石畳の下から、しっかりと来ていた。


南の端では、ほとんど感じられなかった。町の端を越えると、ほぼ消えた。


東と西は——途中まであって、ある場所で急に薄くなった。


---


「線がある」とノエルが言った。


手帳の地図を見ながら。


「沼の水が来ている場所と、来ていない場所の、境目がある」


「ああ」


「なぜ、ここで止まるの。水なら、もっと広がりそうなのに」


蓮はその場に膝をついた。


地声に耳を傾ける。境目の、ちょうど端のところ。


何かがある。水が止まっているのではなく——何かに当たって、それ以上進めない感触がある。


「地面の中に、何かある。水を通さない何かが、この辺りを囲んでいる」


「囲んでいる?」


「意図して、ではないかもしれない。でも、結果として境目を作っている」


---


ノエルが手帳を見た。


「ラデンの廃坑で見た白い土——あれじゃないの」


蓮は顔を上げた。


「白い土が、地面の中に埋まっている。それが水を通さない壁になっている」


「可能性はある」


「じゃあ——誰かが、この町の地下に白い土を埋めた?」


「あるいは、もともとそこにあった」


ノエルは少し間を置いた。


「どっちにしても、誰かが知っていたかもしれない。この町がこうなる前から」


スミが、足元の地面を一度だけ、前脚で叩いた。


(第四十三話 完)

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


この作品が少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


これから毎日更新を目標に投稿していきますので、主人公たちの物語を一緒に楽しんでいただければ幸いです。


感想やブックマーク、評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。


それでは、また明日の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。