第四話「無理強いしない、というやり方」
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それから数日、蓮とノエル、そしてスミの三人は、自然と一緒に依頼を受けるようになっていた。
まだ、パーティとして登録していたわけではない。
毎朝、何となく同じ時間にギルドへ顔を出し、何となく同じ依頼を受け、何となく一緒に町へ帰る。
そんな、肩書きのない関係が続いていた。
ある日の依頼では、薬草採取の最中に、農家の老人と若い冒険者が、畑の境界線を巡って言い争っていた。
「ここは元々うちの畑だ」「いや、境界の取り決めなら、もう何年も前に済んでるはずだ」と、互いに引かない様子だった。
蓮は依頼とは関係ないと分かっていながら、つい足を止めて、二人の話を最後まで聞いてしまった。
よく聞くと、若い冒険者の言う通り、境界の位置そのものは、何年も前に取り決められたままだった。
ただ、老人が本当に怒っていたのは、その位置ではなかった。
最近、畑を任された息子が、何の相談もなく境界の柵を新しく立て替えた、という一点だった。
「場所は前と同じでも、自分に断りなく手を加えられたのが、気に入らなかったんでしょう」
蓮がそう伝えると、老人は気まずそうに頷いた。
「……まあ、そういうことだ。場所そのものに文句があるわけじゃない」
若い冒険者は拍子抜けした顔をしていたが、ノエルだけが、隣で何かを察したように、黙って蓮を見ていた。
ノエルが時折こぼす皮肉に、蓮が軽く返し、スミがその間で欠伸をする。
そんな小さな出来事の積み重ねが、いつの間にか日課になっていた。
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ある朝、依頼掲示板を眺めていたノエルが、一枚の紙を指差した。
「ねえ、これ。報酬、結構いいよ」
依頼内容は、町外れの遺跡で増えすぎた魔物の間引き。
低ランクの見回りより、明らかに難易度が高い。
紙の端には、小さく注意書きが添えられていた。
【二人以上のパーティに限る】
「……パーティ、か」
蓮がその文字を読み上げると、ノエルの表情が、わずかに固くなった。
「ああ、いや。別に、これじゃなくてもいいから」
「気になってるみたいだったから、声に出したんだ」
「気になってるのは、確かにそうだけど」
ノエルは、視線を逸らしながら、ぽつりと続けた。
「あたし、前に組んだパーティ、三日で抜けられたの。Dランクって、それだけで足手まといだって思われるから」
「それは、今の俺たちにも当てはまるかもしれないな。俺の方が、よっぽど足手まといだ」
「そういう問題じゃないんだけど」
ノエルは小さく笑ったが、その笑い方には、どこか身構えるような硬さが残っていた。
「期待してパーティ組んで、結局がっかりされるのが、一番きついの。だったら最初から、一人でやってた方がいい」
「がっかりされる前提なんだな」
「経験上、そうなることが多いから」
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蓮は、それ以上踏み込まなかった。
無理に誘っても、彼女の中の何かが解決するわけではない。
聞き書きの仕事をしていた頃、何度も同じことを学んだ。
話したくない理由がある相手に、無理やり話させても、得られるものは少ない。
待つ方が、結局は早いこともある。
「他の依頼を探すか。これじゃなくても」
「……ちょっと、待って」
ノエルは、しばらく黙ったまま、掲示板の紙を見つめていた。
「あんた、誘わないの?」
「誘って、無理にやらせても意味ないだろ」
「それ、誘ってる人の台詞?」
「誘ってない。決めるのは、ノエルだろ」
ノエルは、呆れたように肩をすくめた。
それでも、その表情は、さっきよりわずかに緩んでいるように見えた。
「……組んでみる。どうせ、一人でやるのと、大して変わらないし」
「強がりっぽいな、それ」
「うるさい」
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その足で、二人はギルドの登録窓口へ向かった。
「パーティの登録をお願いしたいんだが」
受付の女性は、蓮とノエル、そして足元のスミを順に見て、わずかに目を丸くした。
「お二人で、よろしいですか?」
「ああ」
「では……失礼ですが、そちらの魔物は」
「前にも聞かれたな。テイムしたわけじゃないんだが」
「理解、でしたよね」
「……そう、それだ」
受付の女性は、書類に何か書き込みながら、困ったような笑みを浮かべた。
「前例がないので、パーティのメンバーとしては登録できませんが、同行者として記録しておきます。それで構いませんか?」
「構わない」
スミは、自分の話だと分かっているのかいないのか、足元で丸くなったまま動かなかった。
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手続きを終え、ギルドを出たところで、ノエルが小さく息を吐いた。
「これで、もう簡単には抜けられないわけね」
「抜けたくなったら、言ってくれ」
「そういうとこ、本当に変わってるよね」
「ハズレギフト持ちだからな」
ノエルは、呆れたように笑った。
二人と一匹のパーティが、ここに出来上がった。
掲示板で見た依頼の詳細をもう一度確認すると、目的地は町外れの遺跡。
長らく人の手が入っていない場所らしく、低ランクの依頼にしては、報酬が妙に高めだった。
「遺跡って、ダンジョンみたいなものなのか?」
「そう。規模は小さいけどね。あんた、潜るの初めてでしょ」
「ああ。スミは平気そうだけど」
スミは、二人の足元で、何でもないという顔をしている。
「準備、ちゃんとしてから行くからね。今日は、もう装備の確認だけ」
「分かった」
次に挑むのは、もう少しだけ歯ごたえのある場所になる。
蓮にとっては、初めてのダンジョンになりそうだった。
(第四話 完)
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