第三話「半端な魔石と、半端じゃなかった発見」
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ギルドに戻ると、受付前で依頼の完了報告をする間、周りの視線が痛いほど集まっているのが分かった。
「……あいつ、ハズレギフトのはずだろ」
「なのに、なんで魔物連れて平然と歩いてるんだよ」
前日に蓮を笑っていた冒険者たちが、スミを見て、明らかに動揺している。
スミは気にする様子もなく、蓮の足元にぴたりと寄り添っていた。
その落ち着きが、却って周囲をざわつかせているようだった。
「報告は以上です。お疲れさまでした」
受付の女性は、戸惑いを隠せないまま、依頼料を差し出した。
「あの……一応確認なんですけど、その魔物は……」
「登録とか、必要なのか?」
「テイムモンスターとして届け出をしないと、後でトラブルになった時に困るので」
「テイムしたわけじゃないんだが……どう説明すればいいんだ」
「理解、したんですよね。さっきノエルさんから聞きました」
受付の女性は、困ったように笑うだけで、それ以上は深く追及してこなかった。
「前例がないので、一旦は保留にしておきます。何かあれば、またご相談ください」
ひとまず先送り、ということらしい。
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ギルドを出たところで、ノエルがふと思い出したように鞄を探り、小さな石を取り出した。
「あ、これ。低ランクの魔石。換金してもいくらにもならないし、持ち歩くのも邪魔だったのよ」
そう言って、ついでのように蓮の手に押しつける。
「これ、いくらくらいになるんだ?」
「言ったでしょ、いくらにもならないって。むしろ売るの面倒で、放置してる人の方が多いくらい」
「……もらっていいのか?」
「いいって。なんていうか……お近づきのしるし、みたいなものだから」
ノエルは、少し気恥ずかしそうに、それだけ言った。
蓮は、自分の依頼料だけでは到底足りないことを、改めて実感していた。
「この調子だと、しばらくは依頼を選ぶ余裕もないな」
「あんたの場合、選べるほど依頼が来ないでしょ」
「……それは、否定できない」
ノエルは肩をすくめて、それ以上は突っ込んでこなかった。
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その夜、安宿の一室で、蓮は支出を計算していた。
依頼料だけでは、何日分の食費にもならない。
このままでは、もっと割のいい依頼を探すしかなさそうだった。
手元に残った魔石を、ぼんやりと眺める。
ノエルが言っていたように、本当に売っても二束三文にしかならないらしい。
それでも、何となく捨てる気にはなれなかった。
何気なく、いつものようにステータス画面を開いてみた。
【継承】の項目を確認するのが、いつの間にか日課になっている。
その項目の横に、見たことのない表示が浮かんでいる。
【所持中の魔石を検知。消費してスロットを拡張しますか?】
「……は?」
何度か文字を見直したが、表示は変わらない。
これまで一度も出てこなかった表示が、なぜ今になって出てきたのか。
考えても答えは出ないまま、半信半疑のまま、画面の指示に従い、魔石をひとつ消費してみる。
体の奥に、わずかな熱が走った。
何かが内側から押し広げられるような、奇妙な感覚だった。
【スロット数が1から2に拡張されました】
「……できた」
声が、思わず震えた。
寝台の上に座り込んだまま、しばらく呆然としていた。
ハズレと笑われた力に、初めて自分の手で「育て方」の手応えを感じた瞬間だった。
もう一つ魔石があれば、同じように使えるのか確かめたいところだった。
だが、手元にはもう一つも残っていない。
次にいつ、同じ機会が巡ってくるのかも分からなかった。
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翌朝、ノエルにその話をすると、彼女は目を丸くした。
「魔石を吸収して、スロットが増えるって……そんな使い方、聞いたことないんだけど」
「俺も知らなかった。昨日、たまたま気づいたんだ」
「それ、ちゃんと誰かに報告した方がいいやつじゃない?」
「いや……たぶん、これは俺にしか起きないことだと思う」
ノエルは、しばらく蓮の顔を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「ハズレギフトのくせに、地味に厄介なことになってきたわね」
「他の人は、魔石をそのまま売るんだよな」
「そうだよ。生活費のために換金するのが普通。スロットが広がるなんて、誰も知らない」
「つまり、俺だけは、それを売らずに溜め込む理由ができたわけか」
「……お金、本当に大丈夫なの?」
ノエルの問いに、蓮は苦笑するしかなかった。
正直なところ、まったく大丈夫ではない。
それでも、ようやく見えてきた手がかりを、簡単に手放す気にはなれなかった。
スミが、二人の間でひとつ大きく欠伸をした。
蓮はようやく、自分のギフトを「育てる」ための、最初の手がかりを掴んだ気がした。
それでも、増えたスロットをどう使うのかは、まだ何も決まっていない。
スミから継承した「縄張りの嗅覚探知」一つだけでは、できることは限られている。
これからどんな相手と向き合い、何を理解していくのか。
その先のことは、まだ誰にも――蓮自身にも、見当がついていなかった。
(第三話 完)
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