第二十六話「再び、水路の奥へ」
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「また、あそこか」
依頼書を見て、ノエルが小さく息を吐いた。
倉庫街の地下水路の再調査。
前回、合同調査で撤退したあの場所だった。
「今回はCランクのパーティも含めた、より準備を整えた隊を組む予定です。椎名さんたちには、前回の経験者として中核に入ってほしいんです」
ギルドの受付が、そう説明した。
「前回は、端の方で見てただけだけど」
「それでも、あの場所に入った経験がある方は、限られていますから」
蓮は、返事をする前に、少し考えた。
あの壁の彫刻のことが、今もずっと引っかかっていた。
「行く」
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集合したのは、前回より少人数だった。
規模を絞り、各自が機動力を保てる構成にしたらしい。
前回の調査隊長だった冒険者も、また指揮を任されていた。
「前回と違うのは、今回は彫刻のある区画より先を目標にしている点です。ただし、無理はしない」
水路に入ると、前回と同じ水音、同じ重い空気が、すぐに戻ってきた。
スミが、低く構えたまま、静かに進んでいく。
前回は、スミも入り口付近でずっと緊張していた。
今回は、その時よりわずかに奥まで踏み込んでいるが、それでも以前と同じように、足元を確かめながら慎重に進んでいた。
「あの感覚、また来るかな」
ノエルが、小さな声で言った。
「たぶん来る。ただ、今回は確かめたいことがある」
「地均し?」
「ああ。前回は触れる前に撤退した。今回は試してみる」
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彫刻のある区画に到達した。
前回と同じ、見た瞬間は分かる気がするのに、目を離すと消えるあの壁だった。
蓮は、今回は壁に近づいて、地均しで壁の表面の土に触れてみた。
表面の石ではなく、その内側の、石の隙間に詰まっている土に力を通そうとした。
第24話の白い畑で感じたあれと、全く同じ引っかかりがあった。
「同じだ」
「何が?」
「先月、農村で調べた白い土。あれと、この壁の中の土が、同じ性質をしている」
ノエルは、その言葉の意味を測るように黙っていた。
「つまり、同じ何かが、ここにも関係してるってこと?」
「少なくとも、同じ感触だ」
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さらに奥へ進もうとした時、蓮は足を止めた。
危険察知ではなく、地均しが何かに反応していた。
正確には「反応した」というより、この方向に力を向けると、前方の壁の一部だけ、他の壁と微妙に異なる感触が返ってきた。
「ここ、開く場所じゃないか」
「扉、ってこと?」
「扉というより……もともと通路だったものを、後から塞いだような感じ」
隊長が、その壁を詳しく調べた。
松明を近づけて照らすと、確かに、壁の一部の石の積み方が周囲と違っていた。
「この接合部、後から付け足した形跡がある。元々ここに通路があったのかもしれない」
他のメンバーが、周囲の安全を確認している間、蓮は入り口の縁に目を向けた。
塞がれた入り口の縁の石に、細かい刻みがあった。
文字のような、記号のような、判別しにくいものだった。
蓮は、懐から老書物師から受け取った覚書を取り出した。
覚書の中の、古い様式で書かれた文字と、この縁の刻みが、同じ系統のものに見えた。
「……同じ文字だ」
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「撤退する。今日はここまでだ」
隊長の判断は、迷いなかった。
「記録だけ取らせてください。この入り口の縁の形を、写し取りたい」
「二分だけ許可する」
蓮は、紙に縁の形を丁寧に写し取った。
細部まで記録するのは、聞き書きの仕事で染みついた癖だった。
地上に戻り、自然光の下で覚書と見比べた。
完全に一致するとは言えない。だが、同じ系統の文字だということは、はっきりと分かった。
「これ、覚書に書いてあるやつと同じ?」
「同じ系統だと思う。百年前の旅人が記録したものと、この水路の入り口に刻まれているものが、同じ文字を使っていた」
「それって、どういうこと?」
「まだ、はっきりとは分からない。ただ……繋がっている、という感触が初めてはっきりした」
ノエルは、何も言わずに、蓮が持つ紙と覚書を交互に見比べていた。
スミが、水路の入り口の方向を、しばらく振り返り続けていた。
(第二十六話 完)
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