表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承士、はじめました 〜なぜそう生きたか分かった時だけ、俺は強くなる〜  作者: 柿崎 太一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

第二十五話「また、会いに来た」

---


「そろそろ、行かないとまずい気がする」


朝の食事の後、蓮は独り言のように言った。


「どこに?」


「旧道。地均しをプールに戻した時、継承元に会い続けてれば風化しないって言っただろ。あれから、日数が経ってる」


ノエルは、少し考えてから、箸を置いた。


「一緒に行く。どうせ今日は大きな依頼もないし」


「いいのか?」


「旧道、一人で行く場所でもないでしょ」


スミも、立ち上がる様子を見せた。


「あいつも、覚えてると思う?」


「さあ。確かめに行けば分かるでしょ」


---


旧道に着くと、最後に来た時より、草が伸びていた。


季節が一つ、動いていることを、植物が正直に示していた。


あの岩を除去した場所の跡も、今では周りと同じように草が覆い始めていて、蓮たちが作業したことを知らなければ、何もなかった場所に見えた。


「あの個体、まだいるかな」


「動物の縄張りは、そう簡単には変わらないはずだけど」


崩れた石畳の脇、あの岩作業の時に広げた割れ目の前まで来ると、スミが低く一度だけ鳴いた。


「いるな」


しばらく待っていると、割れ目の奥から、小さな個体が顔を出した。


以前より、少し体が大きくなっている気がした。


それから、その後ろから、もっと小さな個体が二匹、恐る恐る顔を覗かせていた。


「子供が増えてる」


ノエルが、小さな声で言った。


あの時、蓮が先に安全な場所を作ってから岩を崩した。その結果として、巣は残り、今ここに子供が増えている。


直接の因果関係かどうかは分からない。それでも、悪くはない光景だった。


---


蓮は、その場にゆっくりと腰を落とした。


個体は、最初は警戒するように動かなかった。


少し待って、それから蓮が動かずにいると、徐々に個体の警戒が解けてくるのが分かった。


だが、以前と違うのは、子供たちがいることだった。


子供たちを庇うように、個体は蓮との間に体を置いて、完全には近づかない。


それでも、追い払うことも、逃げることもしない。


その中間の距離で、じっとこちらを見ていた。


「覚えてる、のかな」


「さあ。でも、少なくとも敵だとは思ってないみたいね」


蓮は、それで十分だ、と思った。


名前もない。また来られる保証もない。それでも、今この場所で、繋がりは途切れていなかった。


体の中で、何かが静かに繋がり直す感触がある。


地均しの感触が、少しだけ鮮明になった気がした。


風化のカウントが、今日でリセットされた。


---


帰り道、ノエルが聞いた。


「また来るつもり?」


「一定の間隔で来る必要がある。でなければ、薄れていく」


「面倒だね」


「そうかもしれない。ただ、面倒という感じはしない」


「どういうこと?」


蓮は、少し考えてから答えた。


「向こうの仕事でも、同じだった。一度取材して書いたら終わり、じゃなくて、何年も経ってからまた訪ねることが、大事な場合があった。時間が経てば、聞ける話が変わる。状況が変わる。最初には見えなかったものが、時間の後に見えることがある」


「それと、今のが同じだと思うの?」


「似てると思う。継ぐことは、一度きりじゃない。繋ぎ続けることが、たぶん本当の意味での継承なんじゃないかと、最近思い始めてる」


ノエルは、しばらく何も言わなかった。


スミが、二人の前を歩きながら、ゆったりと尾を振っていた。


「子供が増えてたね」


ノエルが、少し間を置いてから言った。


「ああ」


「あんたが、巣の場所を変えてあげたから、安定したのかもしれない」


「それは、分からない」


「分からなくても、そうかもしれない、でしょ」


蓮は、答える代わりに、小さく笑った。


「ノエルは、たまにそういうことを言うな」


「何が?」


「はっきり言い切れないことを、言えるようにしてくれる」


ノエルは、少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。


継承は、力をもらう行為だと思っていた。


でも、もらった以上は、何かを返すことにもなっている。


その往復が、繋ぎ続けることの実態なのかもしれない、と、今日初めて気がついた。


(第二十五話 完)


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


この作品が少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


これから毎日更新を目標に投稿していきますので、主人公たちの物語を一緒に楽しんでいただければ幸いです。


感想やブックマーク、評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。


それでは、また明日の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ