第二十五話「また、会いに来た」
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「そろそろ、行かないとまずい気がする」
朝の食事の後、蓮は独り言のように言った。
「どこに?」
「旧道。地均しをプールに戻した時、継承元に会い続けてれば風化しないって言っただろ。あれから、日数が経ってる」
ノエルは、少し考えてから、箸を置いた。
「一緒に行く。どうせ今日は大きな依頼もないし」
「いいのか?」
「旧道、一人で行く場所でもないでしょ」
スミも、立ち上がる様子を見せた。
「あいつも、覚えてると思う?」
「さあ。確かめに行けば分かるでしょ」
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旧道に着くと、最後に来た時より、草が伸びていた。
季節が一つ、動いていることを、植物が正直に示していた。
あの岩を除去した場所の跡も、今では周りと同じように草が覆い始めていて、蓮たちが作業したことを知らなければ、何もなかった場所に見えた。
「あの個体、まだいるかな」
「動物の縄張りは、そう簡単には変わらないはずだけど」
崩れた石畳の脇、あの岩作業の時に広げた割れ目の前まで来ると、スミが低く一度だけ鳴いた。
「いるな」
しばらく待っていると、割れ目の奥から、小さな個体が顔を出した。
以前より、少し体が大きくなっている気がした。
それから、その後ろから、もっと小さな個体が二匹、恐る恐る顔を覗かせていた。
「子供が増えてる」
ノエルが、小さな声で言った。
あの時、蓮が先に安全な場所を作ってから岩を崩した。その結果として、巣は残り、今ここに子供が増えている。
直接の因果関係かどうかは分からない。それでも、悪くはない光景だった。
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蓮は、その場にゆっくりと腰を落とした。
個体は、最初は警戒するように動かなかった。
少し待って、それから蓮が動かずにいると、徐々に個体の警戒が解けてくるのが分かった。
だが、以前と違うのは、子供たちがいることだった。
子供たちを庇うように、個体は蓮との間に体を置いて、完全には近づかない。
それでも、追い払うことも、逃げることもしない。
その中間の距離で、じっとこちらを見ていた。
「覚えてる、のかな」
「さあ。でも、少なくとも敵だとは思ってないみたいね」
蓮は、それで十分だ、と思った。
名前もない。また来られる保証もない。それでも、今この場所で、繋がりは途切れていなかった。
体の中で、何かが静かに繋がり直す感触がある。
地均しの感触が、少しだけ鮮明になった気がした。
風化のカウントが、今日でリセットされた。
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帰り道、ノエルが聞いた。
「また来るつもり?」
「一定の間隔で来る必要がある。でなければ、薄れていく」
「面倒だね」
「そうかもしれない。ただ、面倒という感じはしない」
「どういうこと?」
蓮は、少し考えてから答えた。
「向こうの仕事でも、同じだった。一度取材して書いたら終わり、じゃなくて、何年も経ってからまた訪ねることが、大事な場合があった。時間が経てば、聞ける話が変わる。状況が変わる。最初には見えなかったものが、時間の後に見えることがある」
「それと、今のが同じだと思うの?」
「似てると思う。継ぐことは、一度きりじゃない。繋ぎ続けることが、たぶん本当の意味での継承なんじゃないかと、最近思い始めてる」
ノエルは、しばらく何も言わなかった。
スミが、二人の前を歩きながら、ゆったりと尾を振っていた。
「子供が増えてたね」
ノエルが、少し間を置いてから言った。
「ああ」
「あんたが、巣の場所を変えてあげたから、安定したのかもしれない」
「それは、分からない」
「分からなくても、そうかもしれない、でしょ」
蓮は、答える代わりに、小さく笑った。
「ノエルは、たまにそういうことを言うな」
「何が?」
「はっきり言い切れないことを、言えるようにしてくれる」
ノエルは、少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。
継承は、力をもらう行為だと思っていた。
でも、もらった以上は、何かを返すことにもなっている。
その往復が、繋ぎ続けることの実態なのかもしれない、と、今日初めて気がついた。
(第二十五話 完)
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