第二十三話「もう一人の迷い人」
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「最近、別の迷い人が来てるって聞いた?」
朝の依頼を確認しながら、ノエルが言った。
「迷い人?」
「あたしが来たのより少し前に、男の人が一人。ギフットが強力で、あっという間にBランクまで上がったって、ギルドで噂になってる」
「会ったことは?」
「ない。ただ……ちょっと、評判が複雑なのよね」
「複雑というのは」
「強さは本物なんだけど、依頼の受け方が荒いって。他のパーティとの連携を取らないとか、護衛対象の動きを確認せず先に進むとか」
ノエルは、それ以上は言わなかった。
蓮は、どんな人物なのか、想像しながら、掲示板の前に立った。
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その日の夕方、ギルドのカウンター近くで、その人物を見かけた。
年齢は蓮より少し若そうで、装備は良く、立ち姿には自信が滲んでいた。
受付の女性と何か話していたが、その表情がやや険しかった。
依頼の条件か、報酬について、何か折り合いがついていないようだった。
「あなたが、継承の使い手か」
気づくと、相手の視線がこちらに向いていた。
「そうだ」
「噂で聞いた。理解とやらを対価にして、力を継ぐとか」
「そういうギフットだ」
相手は、蓮の返答を聞いて、少し考えるような顔をしてから言った。
「効率が悪くないか。理解できなければ、何も得られないんだろ。倒せばいいだけの力とは、全然違う」
「そうかもしれない」
「そうかもしれない、って……否定しないのか」
「効率が悪いのは、事実だと思ってる」
相手は、拍子抜けしたような顔をして、それ以上は何も言わずに立ち去った。
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「あの人、感じ悪かったね」
後ろで聞いていたノエルが、ぼそっと言った。
「そうでもない。言ってることは、間違ってない」
「間違ってなければ、何を言ってもいいわけじゃないけど」
「ただ……目が、少し気になった」
「目?」
「疲れた目をしてた。速く強くなっている人間の目じゃなかった」
ノエルは、少し黙ってから、小さく息を吐いた。
「そういうとこ、あんた拾いすぎよ」
「職業柄かもしれない」
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数日後、その迷い人にまつわる話がギルドに入った。
護衛の依頼で、先行して敵を排除していたところ、別ルートから来た魔物に護衛対象が晒された、という内容だった。
本人の戦闘力は十分すぎるほどだったが、護衛対象の動きを考慮せず、自分の強さだけで突破しようとしたことが、ミスに繋がったらしい。
護衛対象に怪我はなかったが、依頼の評価は最低だったという。
「やっぱり、って感じね」
ノエルは静かに言った。
「強い人が、どうしてそういう失敗をするんだろうとは思ってた」
「自分一人でやれるから、周りを見なくなるのかもしれない」
蓮は、何も答えなかった。
間違えることは、誰にでもある。
あの疲れた目が、何を見ていたのか、今もまだ気になっていた。
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翌朝、その迷い人が町を出るところを、偶然見かけた。
次の町へ向かうつもりらしく、荷物をまとめた様子で、ギルドの前を通り過ぎようとしていた。
声をかけようとして、蓮は足を止めた。
何を言えばいいのか、分からなかった。
同じ迷い人として、この世界に来た時の孤独は、分かるつもりだった。
強くなることで、その孤独を埋めようとしていたなら、それも分かる気がした。
それでも、まだ一度しか言葉を交わしていない相手に、何を言っても届かない気がした。
言葉をかけるには、もっと相手を知らなければならない。
迷い人は、振り返らずに出ていった。
「……惜しかった?」
ノエルが、隣で静かに聞いた。
「分からない。声をかけるのが正しかったのかも、分からない」
「あんたにも、分からないことがあるんだね」
「ある。結構、ある」
「後で、もし同じ迷い人と会うことがあれば、その時に話せるかもしれない」
「会えるとも限らないのに」
「会えなければ、それはそれで仕方ない」
ノエルは、それ以上は何も言わなかった。
スミが、去っていく人影の方を少しだけ見つめてから、蓮の足元へ戻ってきた。
(第二十三話 完)
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