第二十二話「何を外し、何を残すか」
---
ダンジョン中層の依頼から戻って、数日が経っていた。
あの夜から、蓮は毎晩、ステータス画面を開いては、同じ場所で手を止めていた。
スロットの三つには、危険察知・土弾・地均しが入っている。
プールの中には、遮蔽が入ったまま、装備されていない。
「また、悩んでる顔してる」
夕食の後、ノエルが向かいに座りながら言った。
「まあな」
「あの時の遮蔽、装備したいんでしょ。どれ外すか、決まらないの?」
「そう」
---
「正直に言う。あの時、本当に助かった」
ノエルは、視線を少し落としながら言った。
普段の、皮肉っぽい言い方ではなかった。
「間に合わないと思った時に、壁が出てきて。ああいう経験、したことなかったから」
「一人でずっとやってたから?」
「一人でやってたら、あそこまで追い詰められる状況にもならないから。パーティを組んで、初めてああいう場面になった」
蓮は、その言葉の重さを、ゆっくりと受け取った。
ノエルが、自分の感情をこんなにはっきり言葉にするのは、珍しかった。
普段は、呆れや皮肉の形で気持ちを包んでくる。それが彼女のやり方だった。
「だから、遮蔽は、外さないでほしい」
「装備するつもりだ。どれを外すか、決められないだけで」
「それ、話してみたら? 一人で悩んでても、決まらないでしょ」
「……そうだな」
---
三つの選択肢を、順に考えた。
まず土弾。これまで唯一の攻撃手段で、遠距離から仕掛けられる。外すと、戦闘での蓮の役割がほぼなくなる。ノエルが前に出ている時、蓮の土弾があるかどうかで、かなり戦況が変わる。外す理由が、一番見つけにくい。
次に危険察知。攻撃の予兆を感じ取る力で、建物崩落の救出でも応用できた。ただし、継承元は、ずっと前に出会ったダンジョンの巣穴のネズミ。もう会えない可能性が高い。外すと、プールで風化が始まるリスクがある。
最後に地均し。足場の整備や細かい土工作業に使える補助技。なくなると不便だが、戦闘での緊急性は、危険察知や土弾より低い。継承元は旧道の壁に今も住んでいるはずで、会いに行ける。
「継承元に、また会えるかどうかが、一番大事な条件になるな」
「どういうこと?」
「プールに戻した特性は、継承元と関わり続けてれば風化しない。逆に、もう会えない相手の特性は、外したら薄れていく」
ノエルは、少し考えてから頷いた。
「土弾と危険察知は、もう会えない相手からもらったのか」
「土弾は穴熊から。危険察知は、あのダンジョンのネズミから。どちらも、また会いに行けるか分からない」
「地均しは?」
「旧道の壁の個体は、今も同じ場所にいるはずだ」
---
「だったら、地均しを一時外して、遮蔽を入れるのが、一番リスクが低いんじゃないの」
ノエルの言葉は、あっさりとしていたが、蓮が考えていた結論と一致していた。
「地均しは、また会いに行けば、プールに戻っても薄れない。そして遮蔽は、今すぐ使える状態にしておきたい」
「あんた、もう答え出てたんじゃない?」
「……そうかもしれない」
「じゃあ、さっさと決めれば良かったのに」
「一人だと、決めきれなかった」
ノエルは、少し黙ってから、小さく笑った。
「そういうとこ、正直だよね」
---
画面を開き、地均しをプールに戻して、遮蔽をスロットに入れた。
装備が切り替わる瞬間、体の中の感触が、少しだけ変わる気がした。
新しい構成は、危険察知・土弾・遮蔽。
感知・攻撃・防御、という形になった。
「あとは、地均しをまた使いたくなったら、旧道の個体に会いに行く」
「計画的だね」
「ただ、いつまでも旧道にいてくれるとは限らないから、そこは賭けだけど」
「まあ、今日のところはそれでいいでしょ」
スミが、足元でゆったりと尾を振った。
一人では決めきれなかったことが、話してみたら、あっさり答えが出た。
正しい選択かどうかは、使ってみないと分からない。
それでも、今の自分にできる範囲で、一番筋の通った選択肢を選んだ、という感触はあった。
パーティを組んで、初めてできることが、また一つ増えた気がした。
(第二十二話 完)
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
この作品が少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
これから毎日更新を目標に投稿していきますので、主人公たちの物語を一緒に楽しんでいただければ幸いです。
感想やブックマーク、評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。
それでは、また明日の更新でお会いしましょう!




