第二十一話「Cランクの、最初の壁」
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「これが、Cランクの依頼か」
掲示板の前で、ノエルが腕を組んだ。
「報酬は、前より上。でも、内容も前より上ってことね」
依頼の内容は、町から半日の距離にあるダンジョンの中層部に、近頃Bランク級の魔物が入り込んでいるという情報が入り、その確認と可能なら駆除、というものだった。
「確認と可能なら、って書いてあるのが、引っかかるな」
「無理なら退却していいって意味でしょ。でも、確認だけして戻ってきても、報酬は半分になるみたいだけど」
「行くか」
「そういうと思った」
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ダンジョンの中層に入るのは、初めてだった。
これまで潜ってきた場所より、天井が高く、通路も広い。
「広い方が、戦いやすいかと思ったけど……なんか、緊張感が違う」
ノエルの声が、わずかに硬かった。
スミも、これまでより警戒心を高めた様子で、しきりに周囲を確認しながら進んでいる。
危険察知が、断続的に何かを拾い始めていた。
攻撃の予兆、というよりも、この場所全体に漂う、重い気配のようなものだった。
「来るぞ」
その言葉が終わらないうちに、通路の奥から複数の魔物が現れた。
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これまで相手にしてきた魔物とは、まず体格が違った。
一匹一匹の動きが、重く、速い。
Dランクの依頼では、ノエルが翻弄してスミが追い詰めれば、後は土弾で仕留めるだけだった。
だが、この個体たちは、簡単には誘導できなかった。
ノエルが最初の一体に対応しようとした瞬間、もう一体が横から挟み込もうとしてくる。
スミが側面に回り込んで注意を引いたが、三体目が正面に残っていた。
「くっ……数が多い!」
蓮は、土弾を連射しながら、立ち位置を探した。
これまでのように、隙を見て一発ずつ撃てる状況ではない。
一発当たっても、ひるむ時間が短く、すぐ次の行動に移ってくる。
危険察知が鳴り止まず、どこに集中すればいいか、判断が遅れる。
地均しで足元の瓦礫を均して転倒を防ぎながら、何とか隊形を保つのが精一杯だった。
「これ……本当にCランクの下の方なんだよね?」
「そのはず。でも、こんなの初めて見た」
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戦闘が長引いた頃、蓮は一つの異変に気づいた。
複数いる魔物の中で、一体だけ、明らかに動き方が違う個体がいた。
他の個体が攻撃に集中している中、その一体だけが、別の小さな個体に寄り添うように動いている。
小さな個体は、足を引きずっていた。
傷を負っているらしく、動きが鈍い。
寄り添う側の個体は、攻撃を仕掛けてくるでもなく、ただ、その小さな個体の前に体を張り続けていた。
「……守ってるのか」
誰かのために、自分の体を盾にする。
攻撃的な理由でも、縄張りを守るためでもなく、ただ誰かを守るために、そこに立っている。
その意図が、はっきりと分かった瞬間、視界に表示が浮かんだ。
【継承条件成立】
【継承可能特性:「遮蔽」を確認】
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次の瞬間、ノエルが大きな個体の攻撃を受けそうになった。
回避が間に合わない。
蓮は、考えるより先に、新しい力を使っていた。
ノエルと攻撃の間に、土の薄い壁が、瞬時に立ち上がった。
攻撃は壁に当たり、ノエルへの直撃を防いだ。
壁はすぐに崩れたが、数秒の猶予は生まれた。
「今の……!」
ノエルが、驚いた顔で振り返る。
「新しい継承だ。説明は後で」
その隙に、スミが体当たりを仕掛け、残った個体が体勢を崩した。
ノエルが、すぐに立て直して駆け込んでいく。
戦闘が、ようやく収束し始めた。
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全て片付けた後、三人ともしばらく声が出なかった。
「……これがCランクか」
ノエルが、荒い息のまま、壁に背を預けた。
「Dランクと、全然違う」
「最初の壁にしては、なかなかきつかったな」
「きつかった、で済んでよかった。あの壁がなかったら、今頃あたし……」
ノエルは、そこで言葉を止めた。
「遮蔽、か。守る系の継承って、初めてね」
「俺も、初めてだと思った」
これまで得てきた力は、感知するか、攻撃するか、足場を作るか、だった。
誰かを守るための力を、継承したのは初めてだった。
スミが、ようやく警戒を解いて、蓮の隣に寄り添ってきた。
「Cランクに上がって、最初の依頼がこれか」
「でも、できたでしょ」
「ギリギリだったけど」
「ギリギリでも、できたのは事実だよ」
ノエルは、そう言って、立ち上がった。
帰り道は、来た時よりずっと静かだったが、悪い沈黙ではなかった。
(第二十一話 完)
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