第二十話「外れとは、呼ばれなくなった」
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ギルドの受付から、「マスターがお呼びです」と告げられたのは、朝の依頼を確認しようとした時だった。
ノエルが、眉を上げた。
「マスター直々に? 何かやらかした?」
「心当たりがない」
「心当たりがないのに呼ばれる方が、怖くない?」
スミは、他人事という顔で欠伸をした。
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ギルドマスターは、想像していたより穏やかな印象の人物だった。
年齢は五十前後。壁際の棚には、分厚い記録書が並んでいる。
「座ってください。改まった話ではないので」
勧められた椅子に腰を下ろすと、マスターはいくつかの書類を机の上に広げた。
「ここ最近の、あなたたちのパーティの活動記録です。依頼の完了件数、対応した内容の種類、関わった人数」
「……何か、問題がありましたか」
「いいえ。むしろ逆です。先日の建物崩落の救出について、関係者から申し出がありました。正式な功績として記録したいと」
蓮は、少し驚いた。
あれは依頼ではなく、緊急の声がかかっただけだった。
「それと、これまでの実績を踏まえて、ランクの見直しを提案したいと思っています。Dランクからの昇格です」
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「ただ、一つ確認させてください」
マスターは、書類の一枚をめくりながら言った。
「あなたのギフット……継承、というんですね。ギルドの記録には載っていませんでしたが、正式に記録に残したい」
「記録、ですか」
「これまで実績を積んだにもかかわらず、ギフットの詳細が不明のままでは、今後の依頼の割り振りにも支障が出ます。もちろん、詳細を話したくなければ、無理にとは言いません」
蓮は、少し考えてから、これまでに分かっていることを説明した。
相手が「なぜそう生き、そう戦ったか」を理解した時にだけ発動すること。
理解を対価として、その存在の力を一つ受け継げること。
スロットに制限があり、魔石の吸収で広げられること。
マスターは、静かにそれを聞いていた。
話し終えても、しばらく黙って考え込んでいる。
「……なるほど。理解が、対価になる」
「そうです。だから、倒せば何でも得られるわけじゃない」
「戦闘よりも、対話や観察に時間をかけることが多いはずですね。それが、これまでの依頼の対応の仕方に、そのまま出ていた」
マスターは、書類に何かを書き込みながら、続けた。
「正直に言うと、最初の登録の時は、このギフットをどう評価すればいいか、判断がつきかねていました。しかし、今は分かります。これは、数値で測れる力じゃない」
「外れギフット、と思われてきましたが」
「それは、評価する側の目が足りなかっただけです」
蓮は、その言葉を、どう受け取ればいいか分からなかった。
嬉しいというより、ただ静かに、その言葉が胸の中に落ちていく感じがした。
「実は、似たような記述を、昔の資料で目にしたことがあります。断片的で、詳しくは読めなかったんですが、『理解を持って継ぐ者』という表現があった」
「……それは、いつ頃の資料ですか」
「かなり古いものです。正確には分かりません。ただ、読めたのはその一節だけで、前後の文脈は判別できなかった」
蓮は、先月の老書物師の言葉を、思い出した。
「物語を繋ぐ者」という一節と、「理解を持って継ぐ者」という表現が、頭の中で静かに重なった。
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「話が脱線しました。ランクの件ですが、正式にCランクへの昇格を処理します。パーティとして、ノエルさんも同時に」
手続きは、あっという間に終わった。
新しいギルド証を受け取り、部屋を出ると、廊下でノエルが壁に背を預けて待っていた。
「どうだった?」
「ランクが上がった。ノエルも一緒に」
「え、あたしも?」
「パーティとして、同時に昇格らしい」
ノエルは、しばらく新しいギルド証を眺めてから、小さく笑った。
「あんたのおかげじゃない、完全に」
「ノエルの速さがなかったら、今の俺はない」
「……言い方が、ちょっと気恥ずかしいんだけど」
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ギルドの外に出ると、入れ違いに、見覚えのある顔が入ってくるところだった。
最初の頃、蓮を外れギフット持ちと笑っていた青年だった。
青年は蓮と目が合うと、一瞬だけ立ち止まり、何かを言いかけたが、結局何も言わずに視線を逸らして、足早に中へ入っていった。
ノエルが、それを見て、何も言わずに前を向いた。
スミが、蓮の横で、ゆったりと尾を振っていた。
外れと呼ばれていた頃から、少しだけ遠くまで来た気がした。
(第二十話 完)
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