第十九話「三つが、ようやく噛み合った」
---
夕刻、ギルドに緊急の知らせが入った。
倉庫街の外れにある古い建物が崩落し、中にいた作業員が数人、瓦礫の下に閉じ込められているという。
「土を扱える者がいれば、至急来てほしい」
その一言で、蓮は立ち上がった。
現場に着くと、すでに数人の冒険者が集まっていたが、崩落した建物の瓦礫は入り組んでいて、むやみに動かすと残った柱が崩れてくる可能性があった。
「素手じゃ、どかせる量じゃないね」
ノエルが、建物の外壁を見上げながら言った。
周りにいる冒険者たちも、手をこまねいている。
建物の外から、中に呼びかけると、奥の方から、かすかに声が返ってきた。
生きている人間がいることは、分かった。だが、どこにいるのかまでは、外からでは判断できない。
「俺が、入ってみる」
「危ないよ。また崩れるかもしれないのに」
「危険察知がある。おかしいと感じたら、すぐ戻る」
ノエルは、一瞬だけ迷った顔をしたが、頷いた。
---
建物の中は、薄暗く、埃が舞っていた。
天井の一部が落ちていて、先へ進むには、いくつかの瓦礫を避けながら移動するしかない。
一歩踏み出すたびに、頭上からぱらぱらと細かい破片が落ちてくる。
蓮は、まず危険察知を意識的に働かせてみた。
これまで、戦闘の中で攻撃を察知する使い方が主だったが、今回は別の使い方を試してみた。
弱っている時ほど鋭くなるこの力が、生存者の「気配」に反応するかどうか、分からないまま進む。
建物の中は、崩落の影響で、普通に立っているだけでも危険を感じる場所が多かった。
それでもしばらく進むと、特定の方向からだけ、切迫した何かが伝わってくるような感覚があった。
奥へ進むにつれて、微かに、何かの方向感覚が生まれてきた。
人の気配、とは違うかもしれないが、この方向に何かが「ある」という感覚だった。
「……こっちだ」
---
進んだ先に、大きな梁が横倒しになっていて、道を塞いでいた。
持ち上げることも、横にどかすことも、一人では到底できない大きさだった。
土弾を試してみると、梁そのものを動かすことはできないが、梁の下の土を削り出すと、少しだけ梁が沈んで、隙間が広がった。
「……この方法か」
梁を動かすのではなく、梁の下を削り出すことで、通れる隙間を作る。
数発の土弾で、膝が通るくらいの隙間ができた。
潜り込んだ先は、少し広い空間になっていた。
二人の作業員が、壁際に寄り添うように座り込んでいた。
「……来てくれたんですか」
「もう少し待ってください。出口を、もう少し広げます」
---
帰り道は、来た時より慎重に動かなければならない。
一人は足を怪我していて、自分では歩けない状態だった。
もう一人も、体力が消耗していて、足元がおぼつかない。
蓮は、地均しで床の瓦礫を均して、できるだけ平らな通路を作りながら、二人を先に進めた。
均した後の床は、まだ完全には安定していないが、倒れるような段差はなくなっていた。
足場が整うと、ノエルが入口から声をかけながら誘導してくれている。
「こっち、もう少し真っ直ぐです。足元、気をつけて」
その声を頼りに、二人がゆっくりと進んでいく。
危険察知が、頭上の不安定な部分を察知して、通る場所を変えるよう知らせてくる。
一度、天井の梁が今にも落ちそうだと感じ、全員に止まるよう声をかけた。
数秒後、実際に小さな破片が落ちてきたが、誰にも当たらなかった。
土弾で瓦礫を動かし、地均しで足場を作り、危険察知で安全な経路を選ぶ。
三つが、初めて同時に使われていた。
---
外に出た時、周りにいた人たちから、小さな歓声が上がった。
救出した二人は、すぐに治療を受けに連れられていった。
ノエルが、埃だらけの蓮の顔を見て、少し笑った。
「すごいことやったね」
「三つあると、こういう使い方ができるんだな、と思った」
「戦闘以外で、あんな使い方できるの、あんただけだと思う」
「それは、どうだろう。考えれば誰でも——」
「できないよ、普通は。そんな発想、まずない」
ノエルは、それ以上は言わず、先に歩き出した。
スミが、汚れた蓮の手を、鼻でつついた。
ギルドへの報告を終えると、救出した作業員たちの仲間から、礼を言われた。
言葉は短かったが、それで十分だった。
三つの力が、今日初めて、本当の意味で揃った気がした。
今まで、それぞれバラバラに使ってきた力が、今日の一件で初めて、一本に繋がった手応えがあった。
(第十九話 完)
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
この作品が少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
これから毎日更新を目標に投稿していきますので、主人公たちの物語を一緒に楽しんでいただければ幸いです。
感想やブックマーク、評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。
それでは、また明日の更新でお会いしましょう!




