第十七話「撃ち方が、変わった」
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その日の依頼は、珍しく戦闘を伴わない内容だった。
「旧道の入り口が、先月の大雨で崩れた岩で塞がれてて。通れるようにしてほしいんです」
依頼主は、旧道を使って隣村と行き来している農家の男性だった。
「普通なら石工に頼むところなんですが、今は手が回らなくて」
「土を扱える人間がいれば、という話ですね」
受付の女性が、蓮の方を見ながら言った。
確かに、土弾を持つ蓮なら、何か使えるかもしれない。
「やってみる」
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現地に着くと、ノエルが岩の大きさを見上げて、低く唸った。
「これ、普通に撃ち込んでも、びくともしないんじゃない?」
「たぶん無理だ。一発の威力じゃ、砕けるような岩じゃない」
土弾は、固めた土を撃ち出す力だ。
岩の表面を削る程度のことはできても、塞いでいる岩を動かすほどの力はない。
スミが、岩の周りをくんくんと嗅ぎ回っていた。
「隙間に撃ち込めないの? 岩と岩の間とか、崩れた壁との間とか」
ノエルが、岩の側面を覗き込みながら言った。
「隙間に?」
「圧縮して撃つだけが土弾じゃないでしょ。間に入れた土を、押し広げるように膨らませることはできないの?」
蓮は、その発想はなかった、と思った。
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実際に試してみると、上手くいかなかった。
土の塊を隙間に詰め込もうとしても、撃ち出す動作に引っ張られて、うまく「膨らませる」イメージが作れない。
「力の方向が、逆なんだ……」
いつもは、前へ向けて圧縮して撃つ。
今回は、内側へ向けて広げながら押す。
全く違う感覚を、同じ力の中で使い分けなければならない。
三度、四度と試みるうち、ノエルも黙って様子を見守っていた。
「魔物との戦闘と、地形に使うのじゃ、勝手が違うね」
「そういうことだと思う。今まで、ずっと撃つ方向にしか使ってなかったから」
五度目、岩と壁の隙間に土を送り込んで、力の方向を外ではなく内へ向けてイメージした。
手の中で、感触がわずかに変わった。
隙間に入れた土が、ほんの少し、内側から押し広がる感触があった。
「……出来た、かもしれない」
試した岩は、小さくしかずれなかったが、確かに動いた。
「やれるじゃない」
ノエルが、少し驚いた顔をした。
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本格的に作業を始めようとしたところで、スミが急に低く鳴いた。
岩の陰の、壁面にある小さな割れ目の前で、動こうとしない。
「何かあるのか」
近づいて確認すると、割れ目の奥に、小さな魔物の巣があった。
毛玉のような、人の手のひらに乗りそうな小型の個体が、数匹、身を寄せ合っている。
「これ、どかしてから作業しないと、潰れるな」
「でも、どかしたら、そいつらの住む場所がなくなる」
ノエルも、さすがに複雑な顔をした。
蓮は、しばらくその巣を見つめた。
大きな岩の陰の、外から見えにくい場所を、わざわざ選んで巣を作っていた。
目立たない場所に、静かに隠れて生きている。
それがこの個体たちのやり方なんだと、分かった。
「先に、こっちの割れ目の方を広げる。そっちを巣として使えるように、土の形を整えてから、本体の作業をする」
「手間かかるね」
「でも、それが一番しっくりくる」
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先に割れ目を広げ、魔物たちが使いやすいよう、土の形を整えていく作業をした。
土弾を「広げる」使い方を、初めてまともに実用できた場面だった。
しばらく経つと、小型の魔物が、新しい割れ目の様子を恐る恐る確かめ始めた。
その動きを見届けた時、視界に表示が浮かんだ。
【継承条件成立】
【継承可能特性:「地均し(ならし)」を確認】
土や地面を薄く平らに広げる力、と簡単な説明が添えられていた。
攻撃には向かないが、足場の整備や、土を使った細かい作業が格段にやりやすくなるらしい。
「また継承できた?」
「ああ。今度は、攻撃系じゃないけど」
「さっき土弾の使い方が広がったと思ったら、さらに別の力まで増えたわけ?」
ノエルは呆れたように言ったが、その顔には悪い表情は浮かんでいなかった。
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岩の除去を終えて、旧道を通れるようにすると、依頼主の男性が何度も頭を下げた。
帰り道、蓮は土弾の感触を、もう一度確かめるように、小さく力を出してみた。
圧縮して撃つ感触と、広げて押す感触が、今では確かに手の中で区別できる。
「一つの力でも、使い方が変わると、別の力になるんだな」
「継承が増えるのと、どっちがよかった?」
「どっちも、悪くない」
スミが、二人の間でゆったりと歩いていた。
(第十七話 完)
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